第449話 墨。
本来であれば口も動かせない程に動きを固定していた筈だが、黒いドラゴンの身体を操っているのかその嫌な雰囲気を感じる『何か』は突然、私達に向かってそんな怒声を上げたのだった。
そして、それ曰く『お前達は神の敵であり、罰当たりだから、滅びてしまえ』と言う事らしい。
……正直、聞くに堪えない罵詈雑言がその後も続いたのだがそれは割愛させて貰おう。
その『何か』が話すその暴言には聞くだけの価値がないと私は判断したのだ。
それに、如何に正しい事を述べようとしても、それが野次や暴言の類あれば、その時点で聞きたいとは思えなかった。なのでほぼほぼ聞き流している。
ただ、そのまま喋らせておいても五月蠅いだけかと思い、一思いに消滅させてしまおうかとも思ったのだが──その寸前で、奴は何やら気になる事を言い出し始めた為に、結局私は奴の話に耳を傾ける事にしたのであった。
まあ、それも大体はまた聞くに堪えない暴言交じりであった為に、内容を大きく省かせて貰うが。
奴曰く『役割を全うしない貴様らの様な危険分子を排除するが我々の使命であり、貴様等の方こそこの世界にとっては害にしかならない存在なのだ』と言う。
そもそも生物にはそれぞれ『宿命』とも呼ばれる『生まれた意味』を持っているものであり、この世の生き物達はその定められたルールの範囲内で生きるのが当然であるらしい。
そして、それは奴らにとって『絶対の教え』に則ったものであり、それから私達が逸脱しているのが悪いのだという。だから、私達は滅びねばならないという、そんな話であった。
それも、その『何か達』からすると、私が精霊達に作った『別荘』の存在は特に許せないものだそうで、それを絶対に破壊すべき悪しきものだという認識があるそうだ。それだけは絶対に見逃せないのだという。
……まあ、語らせたら語らせたでベラベラと色々な事を話してくれるものなのだが、なんにしても一々トゲがある話ばかりであった。
それに、よくそこまで会話が途切れないものだと思わず感心してしまう程に話は続き、思わず眠たくなってしまったのである。
……ただ、奴の語っている内容は、私達からすると『宣戦布告』に近いものでもあると感じたので、一応は確りと耳を傾けた。何しろ今回の事で、奴らにはそれだけの強い意思があるという事を私は理解したのである。
以前に、過度な干渉をして来る事を『聖人』を通して禁じた筈だが、それでも関係なしに『よくわからない存在達』は今後もちょっかいをかけてくるのだと、そこには本気の意志もあると感じたのであった。
だから、今後は今まで以上に気をつける事にしなければと思う。
……まあ、何とも迷惑な話ではあった。
そもそも、『神だなんだ』と言うそんな曖昧な存在と、ある程度『力』を持つ存在の違いが私にはよく分からない。『力』の有る者達がそれ(神)に該当するのならば、この世にはどれだけの神がいる事か。なんとも陳腐な言葉である。
それこそ、この世界の全てを一から作りあげた存在──いわば『創造神』が居たとして、それを『神』と呼称するのであればまだ話はわかるが……恐らく、奴らは違うだろうという直感が私にはあった。
どれだけの贔屓目に視ても、目の前でドラゴンの身体を借りて好き勝手な事をしようとしていた存在は、極端な話『聖人』と少しだけ近しい雰囲気がもつだけで、どう見方を変えても『神』だなどと言う大層なものであるとは思えなかったからだ。
なので、この件に関しては話半分だと感じる以上に興味も関心も持てなかった。
正直どうでもよい。自称で名乗りたいなら名乗ればよいだろう。
だが、『こちらに迷惑をかけて来るならばその度に倒すだけである……』と、私が思ったのはそれくらいであった。
ただ、実際にその想いを一言だけ告げてみると、奴の反応は劇的であり、今までにないくらいに怒り狂い始めたのだ……。
奴曰く、『我々は神に準じる存在であり、いずれは至高たる神にも肩を並べるものなのだ!』と。
そして、『いずれ我々が神へと至った暁には、貴様らの様な矮小な分際は、二度と生意気な口などを叩けぬ様にしてやるッ!!』と──。
「…………」
だがまあ、それで結局何かが急に変わったという話ではなかった。
……それに、奴もその言葉を最後にそれ以上は何も語らず、身体を操られていた方のドラゴンも力を使い果たしたのかぐったりとしてしまった為、私は一思いに全ての『敵』を消し去ってしまったのである。
──それによって、これで一応は『大樹の森』へと襲撃を仕掛けて来た相手は全て居なくなり、私達は連れ去られてしまったバウの事へと集中出来る様にはなった。
……ただ、私はそれから暫く間、奴の発言がなんとなく気に掛かってしまい、先にこの地の防衛へと力を注いでおく事にしたのであった。
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