第440話 古木。
2021・01・30、後半部分、微加筆。
友二人は空飛ぶ大地にある『第五の大樹の森』へと帰って来ると言う話になったので、私は一足先に一人で『大樹の森』へと飛んで帰る事となった。
本来であれば、未だにどちらも心と身体の治療が完全に終わった訳ではない為、私と一緒にそこまで来た方が良いとは思うのだが。……どうやら友二人にはまだこの地でやり残した事があるらしく、二人は今暫くあの岬の小屋に留まりたいのだと言う。
よって治療の続きは空飛ぶ大地があの場所へと巡って来た時で構わないそうだ。
……因みに、その間の二人がこの地でしたい事とは、自分達の第二の故郷とも呼べる国の為に戦い抜いた『王の墓』へと、『最後の別れの挨拶』をして過ごしたいのだと言う。
これは、未だ深い後悔をその心に宿しているレイオスの願いであり、ティリアはそんな彼の想いに付き添うつもりでいるようだ。
……あの二人はそれこそ『王』が生まれた時からの付き合いがあるという話なので、語りたい事もそれだけ多いのだろう。
──そんな訳で、私だけが先に大陸を最短で横断するように空を飛んで帰っていたのだ。
「…………ん?」
……だが、そんな帰り道の途中で、私はまたもいきなり異変が発生した事を感じ取ってしまったのである。
それも、大陸各地へと偵察用に分散させていた『泥』から感じたそれはかなり大きいと思える異変であった。
それに、その異変が起きている場所と言うのも、私やエアもよく知る『ダンジョン都市』だった為に、私はすぐさまにそちらの方へと進路を向けたのだった……。
「…………」
そもそも、『ダンジョン都市』と言う街は、街の中に複数のダンジョンを抱えているとても大きな都市で、そこで暮らす住人達は皆冒険者の資格を持つと言う、余所の街とは一風変わった特色のある場所である。
勿論、そこで暮らす冒険者達は最低ランクである『白石』と最高ランクである『金石』では出来る事やその力量に大きな差があるものの、他の街よりはかなりの戦力が揃っている事で有名な街であった。
その為、前回各地のダンジョンから起こった『魔獣の氾濫』でも、各ダンジョンから大量の魔獣達が溢れても、その持ち前の戦力によって上手く対応できた数少ない街の一つであると言う情報を私は事前に得ていたのである。
多くの冒険者達を有する事もあるが、普段から如何なる事態があろうとも対応ができる様にと防衛意識も高く、街の住人達の繋がりや連携力も優れているのが『ダンジョン都市』と言う街の素晴らしい所であった。
──だがしかし、そんな場所が今まさに、魔獣の被害を受け、緊急事態に陥っていたのである。
それも、街は至る所では既に火炎が立ち上っており、幾本もの火柱を周囲に置きながら、その中心では巨大な何かが人や建物を吹き飛ばし続けていた。
「…………」
私は最初、その光景を『泥』を通して視た時に先ず思ったのはやはり『魔獣の氾濫』であった。
前回起きたのだから、また次が起きたのだと考えても、それは何も不思議な事はない。
そして、実際にあの街は今、ダンジョンから溢れ出たとある魔獣によって甚大な被害を受けていたのだ。
……ただ、今回と前回では一つ大きく異なる部分があり、私が『異変』だと感じたのはまさにその異なる部分にこそあった。
──と言うのも、なんと驚く事にあの街は今、ダンジョンから突如として溢れ出たらしき、大きな大きな一本の『大樹』によって、大規模な蹂躙を受けていたのである。
「…………」
まさか、そんな巨大な樹木が勝手に動き出すとは誰も思わなかったのだろう。『ダンジョン都市』の冒険者達もそれにどうやって対処したらいいのか戸惑っている様に感じた。
『泥』を通して視るに、冒険者ギルド側も流石にこれの想定までは出来ていないようである。
冒険者達はなんとかその樹木の動きを止めようと武器で攻撃したり、魔法によってその巨大な樹木を燃やそうとしているが、現状は一切の効果が無いようだ。
それどころか、一部の火炎が樹木に燃え移るも、それを通して今度はその火炎が他にも燃え広がってしまって、街の方にも被害が大きくなり始めていた。
──そんな光景を『泥』を通して視た私は、更に飛ぶ速度を上げて『ダンジョン都市』へと急いで向かう事にしたのであった……。
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