第44話 ゴ。
「なにそれっ!」
紅葉の季節はあっという間に過ぎ、本格的に寒くなってきた日。
私達は家の中で、ぬくぬくと過ごしていた。
部屋の中は基本的に快適になるように暑くも寒くもない程度に気温が一定になっており、ここでは精霊達も何人か一緒に過ごしている。寒い季節の間は結構彼らも忙しく、他の季節と比べると大部大樹の周辺も寂しく感じられた。
私とエアは十人程が使える程の、優しい木の長机で横並びになって文字の練習をしている。
エアは自分の名前の書き方と、日常でよく使う文字の読み書きはだいたいすんなり覚えてしまったので、今は数の数え方や計算の方法をやっている所であった。
私は長机の上に小さな木片ゴーレムを作り出し、それぞれに番号を振って五十体対五十体で模擬戦闘をさせながら、足し算引き算掛け算割り算など簡単な計算を教えていく。数字の読み書きも出来るので、小さな剣と盾を持ってポコポコ戦うゴーレム達の戦いを見ながら解説し簡単に説明していった。
長い冒険者生活で私が数字をよく使った機会と言えば、買い物をする時か、戦闘で彼我の戦力差を知る時ぐらいだったので、今は買い物には行く予定も無い為、それはまたの機会にし、今回は戦闘の方で教えているのである。
「大体戦闘において、本来なら有り得ない事ではあるが、戦闘能力がみんな一緒の時、数の多い方が有利だ。さて、左側と右側それぞれ何体いるかな?」
「ごじゅうとごじゅう」
「そうだ。このまま戦えばどっちも痛い。なので右側は新しく二十体のゴーレム仲間を連れてきた。それぞれ何体いるかな?」
「ごじゅうとななじゅう」
「そうだ。右側は有利になったので、左側に攻撃を仕掛けた。戦闘能力が一緒なので、一体対一体で戦う時は相打ちになってしまうが、今回の場合は五十対七十で戦ったので、戦場には何体のゴーレムが残るかな?」
エアが想像しやすいように、ゴーレム達をポコポコと魔法で動かしながら、私は簡単な説明をしていった。
流石に問題が簡単すぎるのか、エアは一回もつっかえる事無くその全てを正解していく。
難易度が低すぎて暇に感じてはいないか?と心配したが、ポコポコ動くゴーレムに『かわいい』と夢中になっていて、結構楽しんでくれているらしい。
その後、ゴーレム達の中に頭を黒くした赤い二本角の特別なエアゴーレム隊を作り、『左側の護衛に付けて、エアゴーレム隊は一人が一度に五体のゴーレムを倒していける、エアゴーレム隊の人数が四体だったら何体倒せるかな?』とか、その反対に『七十体のゴーレム達をエアゴーレム隊だけで倒すとしたら、何人の隊員が必要になるかな?』とか問題を出して、エアに簡単な四則演算を教えていった。
普段使うとしたらこれくらいで、後はその答えを如何に早く求められるのかが重要になってくる。
と言う事で、エアに片側の指揮官役になって貰い、私がゴーレムの数を色々と変化させて状況に合わせて何人のゴーレムが必要か、足りないのは何人だ等、遊び感覚で次々に問題を出していった。
こればっかりは数をこなして慣れるしかないと思い。予期せぬ敵援軍の伝令や、伏兵、突発的な腹痛等、色々な問題を交えてその度ゴーレムを小気味よく動かして増減させ、数の変化を一緒に楽しみながら学んでいった。
「白いえるふゴーレムはいないの?」
すると途中で、エアがそんな要望を出してきた。
そこで私は、簡単に四角い頭の両横を四角錐状にピロっと伸ばしただけのゴーレムを作った。
ただ、そのゴーレムを見たエアは少しだけ不満そうな顔をするので、頭を少しだけ白く塗ったら許して貰えた。他のゴーレム達はみんな元の木のままなので、白く塗っただけでも十分に差が分かり易い。
ただ、白いエルフゴーレムは集団の中で戦うのが苦手なので、一人戦線を離れて、後方で料理を作り始めた。折角だから戦いの中における後方支援の仲間の存在の大切さも、エアに教えられたらと思ったのだ。
だが、みんなが戦ってる間に一人で色々と洗濯したり料理したり、鍛冶や裁縫をしている白いエルフゴーレムの方が、エアはチラチラと気になるようで、途中からは大人数のポコポコした戦闘よりもそっちに完全に目を奪われてしまっていた。
「白いえるふゴーレムの所に、エアゴーレム隊が一緒にいっていい?」
と、途中から戦闘力が通常の五倍あるエアゴーレム隊も後方支援へと回ってしまった。
確かに、白いエルフゴーレム一人で、幾つもの作業をやるのは効率が悪い。
そこに直ぐ気づいたエアは、後方支援へと人数を増やす指示を直ぐにしたと言う訳なのである。この子はなんて賢いのだろうかと私は思った。控えめに言って天才。
いつも私と一緒に居て、色々と作業している所を見てきたからか、エアには後方支援の大事さが一目で分かったのだろう。私的にも普段から色々とやっていてよかったと思える瞬間であった。
その後は、戦闘の方は段々とおざなりになってフェードアウトしていき、後方支援の方がメインになって、ゴーレム達を楽しく動かしていった。ちょっとしたおままごとや演劇をやっている気分である。
不思議な事に、私が操っているにも関わらず、白いエルフゴーレムが作った料理を食べたふりをした時だけ、周りの普通ゴーレム達がお腹を押さえて救護所に運ばれると言う行動を勝手にしだした。……なんでだ。どうした。やはり魔法使いと『お料理』は演劇の中でも相容れないと言うのか。
ただ、それを見ていたエアには大ウケだった。まあエアが笑っているなら良いかと思い、私も諦める。そう言うものだと思う事にしよう。……だが、火の精霊諸君、後でお話がありますので、一緒に来てください。
寒い季節は部屋から出たくなくなるので、暫くはこんなゆったりとした時間が流れる事になる。
だが、こうしてみんなで何かをしながら居られるのは、とても素敵で、幸せなことだと私は思った。
またのお越しをお待ちしております。




