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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
432/790

第432話 滞。




 その岬の先にある『お墓』を、友ティリアの物だと思った私は、気づいたら【転移】していた。

 ……それも、友二人には気付かれないように隠れて偵察をすると言う話はどこにいったの?と思われるかもしれないが、既にそんな事は私の頭の中からはすっかりと消え去っていたのである。

 気づいた時にはもう既に、レイオスの隣に私は居たのであった。




「──どうだ?今度はちゃんと聞こえたのか?」


「はい。確りと聞こえました」


「……ならいい」



 ただ、『ティリアが無事である』と言うその話を彼から聞けて、本当に良かったと思った。

 今度こそ、本当に友二人が無事であったと安堵できた私は、もうそれだけで満足している。

 ……本当に心配していたから、心底嬉しくなったのだ。



 先ほどまで、心の中では豪雨が吹き荒れるに近い状況だったのだが、既に気持ち良い程の快晴である。

 ……よし、スッキリした。ならばもう満足もしたし、私に他の役目もないだろう。



 ──と言う訳で、私はここらへんでおさらばしようと思い、隣に居るレイオスには気付かれないようにそろりそろりと一歩一歩後ろへと下がっていったのだ。



 ……正直に話すけれども、友にバレない様に偵察していた事を、今の瞬間に思い出したのである。

 内心、不安はなくなってスッキリした筈だが、『怒られる前に隠れなければ』という新たな不安が生まれた状況でもあった。



 なので、帰りもまた【転移】を使って、サッと帰ろうと思──



「──おい、待て。ロムよ。どこへ行く……」


「…………」



 ──ったのだが、流石は友レイオスだ。直ぐに気付かれてしまったのである。



「……まさか、そのまま帰るつもりではないよな?」


「……うん」


「……せめて、ティリアの顔も一目見ていくだろう?」


「……うん」


「……よし、ではついて来い」


「……はい」



 ……なんだろう。別人の顔を装っているからか、友の圧にいつも以上に重みを感じる。 

 ただ、帰る事は出来なかったけれども、確かにティリアの無事な姿を一目見ておくのも良いかと思い直して、私はそのままレイオスについていく事にしたのであった。



「……ただいま」


「……失礼する」



 そうして、私はレイオスに続いていき、その小屋の中へと入ってみる。

 すると中は、とても簡素な作りになっており、部屋は目の前の一室だけで、そこには机が一つに椅子が二つ、そして簡単な仕切りがあってベットが二つだけ設置されていたのであった。



 そしてどうやら、もう片方の友であるティリアは、そこでただただ深く寝入っているようである。

 ……ただ、その顔は、見た事ない程にまで青白くなっており、極端に呼吸も回数が少ない様に見えた。



 それはまるで、ギリギリの状態を保たれて生かされているかのような状態であり、……私はそんな、ほぼ死ぬ寸前のティリアの姿に、驚きから声を失ってしまったのである。



「──っ」


「……ティリア、ロムが来たぞ。だが、本当にこいつはいつも突然だ。またもいきなり現れたんだぞ。俺は思わず驚いてしまって──」



 ……だが、そんな状態のティリアを前に、友レイオスの方はまるで普通の事の様に、朗らかに話しかけ始めた。


 私は、そんな彼の様子が信じられなくて、彼の横顔を凝視する事になる。

 そして、彼が彼女に語り掛け続けるのを聞き続ける内に、だんだんとまた心の中に嫌な想像が募り始めたのであった。




 ……正直言って、私は彼のその姿に狂気を感じざるを得なかったのである。


 だから、本当なら『……れ、レイオス?ティリアが死にかけているのに、何をしているのだ?』と、尋ねて然るべきなのだろう。それすらも上手く言葉に出す事が出来なかった。



 こんな友の姿を見た事が無かったのだ。

 そして、青白い顔をしながら死ぬ寸前の状態で生かされたままで居るティリアの弱々しさに、私は言い様の無い『不自然さ』も感じたのである。



 なので、私は直ぐに気づく事が出来た──



「──まさかこれは、【停滞】の魔法か?」


「おおっ!!さすがはロムだな!一目で分かったのか!」




 ……ティリアには『現在の状態を保つ魔法』が掛けられている事に私がそこで察すると、隣に居るレイオスはとても嬉しそうな声をあげた。



 そして彼は、そこから先は私が尋ねるまでもなく、どうして今の様な状況になったのかを勝手に語り始めてくれたのであった……。 





またのお越しをお待ちしております。

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