第430話 追求。
『友の元気な姿を一目見たい』と想い、衝動に突き動かされるままに彼らがいた筈の国を偵察してみたのだが、偵察自体は上手くいったものの、肝心の友二人の姿を見つける事が一切出来なかった。
……ただ、今更ながらに思うと、もしかして私のそんな衝動は『虫の知らせ』に近いものだったのかもしれないと、そんな風な事も思ってしまう。
彼らの第二の故郷とも呼べる国の王都では、一部彼らの死を噂する者も居たために、私の胸の中には嫌な不安がどろどろと、それこそまさに泥の様に積み重なっていた。
『どうか無事で居て欲しい。死んだなど嘘だと、ただのデマだと言って、笑い飛ばして欲しい……』。
『元気で居てくれ。君達二人が戦死しただなんて信じられない。そんな訳がない……』と。
……王都を偵察しながら私は、そんな事を色々と考えていたと思う。
幼き日の事も、何度も頭に浮かんでいた。森を出てからの事。彼らとの時間。これまでの日々。
……そして、最後には故郷の『里』の様に、ある日突然、いつの間にか消え去ってしまったあの二人を想うだけで、私の胸は苦しくなった。
『君達まで居なくなるのか』と。
『……居なくなってくれるな』と。
そして、そんな子供が駄々をこねるみたいな想いを、抱かずにはいられなくなった。
いずれは、私達にも別れの日は来るだろう。そんな事はもう十分に分かっている。
これまでがそうだったように、最早寿命と言う頚木を無くした私にとって、誰かとの『別れ』は必然であった。
常に誰かしらが消えていく中、私はいつも残される側である。
親しき者達が消えていく様を、私はいつだって見ているだけなのだ。
だが、それでも、同じ長命の種族である友二人とは、『別れ』はまだまだ先の話になる筈だろう。
なにも、こんな突然、訪れてなくて良いものだろうに。
……まだ、仲直りだって出来てないのである。
私は彼らにまだ言いたい事も沢山あるのだ。
口下手な私であるが、本当は心の中でいつも、もっと、何かを伝えたいと想ってばかりいる……。
「ろむ……」
「…………」
私は平静を装って、引き続き偵察を続けているのだが、唯一無二こんな不愛想な表情を正確に読めるエアには、私の抱く焦りや悲しみがどうやら筒抜けであるらしく、隣からはそんな心配そうな声が届いた。
私は、そんなエアの方に顔を向けると一度だけ頷いて見せて、『大丈夫』だと仕草で伝える。
……言葉は、今は上手く思った通りに出せそうになかったのだ。
だが、エアならばそれだけでも意図を酌んでくれるだろう。
──そうして私は、再度意識を偵察の方へと向けると、今度は王都だけではなく、大陸の各地にも偵察の手を広げ始める事にしたのであった。
……正直な話、何か『答え』が欲しかったのだ。
そして、元気ならその姿が見たい。まだ争っている最中ならばその力になりたい。もしも怪我を負って動けないでいるのであれば助けになりたい。そのどれでもいいから、私は『死別』以外の結果が欲しかったのである。
「…………」
気付かぬ間に、大事な人が居なくなってしまうのはとても寂しい事である……。
それもその寂しさは、例え様もない程に悲しくもあった。
なにしろ、全てが手遅れになった後に気づくと、まるでお前はその人物の死際にすら関われない程に、遠いのだと、無関係なのだと、嫌われているのだと、そう言われている気分になるのである。
だがしかし、例えいくら彼らから嫌われていようとも、会いたくないと言われても、それでも私は彼らと生きていたいと想った。
もし彼らに嫌われてても、それでも私は、私の方は二人の事が本当に大好きだったからだ。
だから、いずれにしても何かしらの『答え』を見つけるまでは、私は捜索を止めるつもりは全く無かった。
どれだけ時間が掛かろうとも絶対に見つけ出す。どんな些細なきっかけだろうとも絶対に見逃さない。
今までに培ってきたもの全てを用いて、私は捜索へと臨んでいた。
大陸の各地へと増やした『偵察用の水溜まりと偵察用の土石』は、いつしか千を軽く超えていたと思う。
そうして私は、冒険者として、魔法使いとして、友二人の唯一残された幼馴染として、出来る限りの事を尽くした──。
「…………」
──その結果、私はとある戦場の果て、友二人の最後の戦いがあったと思われる場所から、更に遠く離れた奥地にて……崖の上、海の見える岬の先にある小さな家と、その傍にある『一つの墓』を大切そうに守る、一人の男の姿を見つけたのであった。
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