第426話 許容。
『金石』冒険者達が『大樹の森』にやって来る──と言う、そんなちょっとしたイベントが起こりかけたのだが、『大樹の森』の性質によって彼らは一日で帰ってしまったのであった。
遠目から探知しただけだが、中々に好感の持てる冒険者達だったので、私達はおもてなしをする気満々だったのだけれども、残念ながらも今回はその機会に恵まれなかった様だ。どうやら次回までおあずけらしい。
……ただ、『準備を整えたら』また彼らは戻って来る気がするので、その時には是非とも一度話をしてみたいものだと私は思った。一緒に冒険者談義に花を咲かせるだけでも、きっと面白いだろうなと感じたのである。
「…………」
──だがしかし……そんな私たちの期待とは裏腹に、事態はまた少しだけ不思議な方向へと舵をきる事となった。
……と言うのも、暫く経ってから風の噂で聞いたのだが、どうやら彼らから報告を受けた冒険者ギルドは此度の探索の報告を受け、『大樹の森』を含めたこの地域一帯を環境の過酷さから『魔境』と呼び出す事に決めたそうなのである。
「……ね、ねえロム、『魔境』ってなんだろう?」
「……う、うむ、『危険な場所』だ、と言う事なのだろう」
「……そ、そっかー、危険な場所なのかー。……でもわたし達、普通に住んでるのにねぇ……」
「……そうだなぁ」
──と言う事で、エアにも尋ねられたのだが、要は簡単に言うと高位のダンジョンなどに入る際に冒険者達が一定以上のランクを必要とするのと同じく、『大樹の森』もまたそれに倣い、ここに入るためには高位のランクが必要だと冒険者ギルドが判断しましたと言う、そんな話らしいのである。
それも、『危険地域』と指定される場所はそのレベルに応じて段階が設けられているのだが、『魔境』と言われている場所はその中でも『踏破禁止地域』であるとされており、一般的には『ドラゴンの住処』であったり、『年中吹雪が吹き荒れる極寒の雪山』だったり、『火山の火口の中』だったり、『毒に汚染された地域』だったりする場所──『金石』冒険者でなければ探索許可が下りない探索地──よりも更に危険だと言われている場所であった。
もっと言うのであれば、基本的に『魔境』とは、『金石』冒険者の中でも更に極一部の者にしか許可が下りないと言う……そんな『最難関の探索地域』と言うレベル付けがされているのである……。
入っても生死は完全に自己責任であり、例えどんな理由があったとしても救助はおろか援護さえも不可能であると知られるそんな危険な場所であった。
それも、どちらかと言えば『ドラゴンの住処』とかの方がマシで、そちらの方はまだ『金石』冒険者達によって救助隊が組まれる事もあるらしいのである。
つまりは、『魔境』に関して冒険者ギルドは完全にお手上げだと、不介入であるべきだと言っている様なものであった。
『──入れば死ぬと思え。死にたい奴だけが探索しろ……』と言うのが、『魔境』に対する冒険者ギルドの基本的な見解と言う事である。
そして、それは同時に『ドラゴンの住処』よりも、私たちが住んでいる場所の方が『人が住むには適さない過酷な場所だ』と、言われている様なものであった……。
──もちろん、そんな話は私たちからすると凄く不本意なものだ。
正直言って認めたくないし、納得もいかない。変な風評被害は止めて欲しいとも思った。
それに、『そんな酷い場所じゃないっ!凄く素敵な場所なんだよっ!』と、声を大にして反論したい気分である。
「…………」
……だがしかし、最初こそ私達もそんな気持ちではあったが、少ししてからまた気持ちにも少し変化が訪れたのだ。
と言うのも、それを定めた冒険者ギルド側としても、なにも『大樹の森』が憎くてそんな事を言い出した訳ではないと途中で気づけたからである。……いや、寧ろギルド側としては他の冒険者達を守る為に仕方なくやってくれただけなのだと思えた。
かつてはギルド側にも居た事がある私達としては、その事を自然と受け入れる事が出来たのである……。
『……これは誰も悪くないね』と。
『仕方のない事だから受け入れようか』と。
『でも、正直言って、なんか微妙な気分だね』と。
私達はそんな事を想いながら、一緒に苦笑をしていた様に思う。
……ただ、上手い説明こそ出来ないけれど、その時の気持ちはそこまで悪いものでもなかったのだ。
微妙な感覚ではあるのだが、『仕方のない事だから』と思う気持ちの中でも、それは『諦めや妥協』などではなく『許容』であったからなのかもしれないと私は思った……。これは少し難しい感覚なのだが、漠然と素直に『許せる』と思えたのである。
「…………」
……ただ、そんな事を想った影響からだろうか。それをきっかけにして私の頭には急に子供の頃に友から教えて貰ったとある言葉が浮かんで来たのであった。
子供の頃の彼曰く、『争いとは、相手を許せないからこそ起こるのだ』と。
つまり、『許せる者ばかりであれば、争いなんてものは起きなくなるだろう』と。
だから、『ティリアもロムも喧嘩は止めて、許し合う心を持つと良いよ』と。
子供ながらにそんな大人びた考えをもつ優しい彼を、私達はみんなで尊敬したものだった。
……まったく。なんでいきなりこんな事を思い出したのか、自分の事ながらよく分からなかった。
だが、ここ最近の色々を想い返すと、その言葉が今はとても尊い様に感じる私なのであった……。
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