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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第425話 慎重。




 ──『大樹の森』の近くへと冒険者達がやって来てから、二日目。



 今日もまた私たちは冒険者達の動向を窺っている。

 彼らは見知らぬ者達ではあるのだが、冒険の様子を眺めるのが思ったよりも楽しくて、私もエアも夢中になって観察していたのだ。



 こうして誰かの冒険をじっくりと眺める機会と言うのは中々にないので、すごく新鮮に感じている。

 ……でも本来であれば、こんな風に盗み見る様な真似をする事は失礼にあたるのかもしれない。


 ただ、今回の場合は彼らの目的地が私達のいる『大樹の森』であると言う事で、一応は警戒する意味もあって申し訳なくもこうして楽しませて貰っていると言う訳であった。



 昨日は『結界』に中々気づけず、結局ほぼ一日中森の浅い場所を歩き続けてしまった冒険者達ではあるのだが、今日こそは私が施したその『結界』を超えて、森の深い場所までやって来れるのだろうか……どうなるのか気になる所であった。すんなりとやって来るか。もしくはまたウロウロとしてしまうのか。楽しみである。



 だが、流石に『金石』男性四人組のベテランそうな雰囲気を持つ冒険者達だ。彼らならばやって来そうな雰囲気は十分にあった。いや、その雰囲気しかなかった。

 彼らは夜営の間も、交代で睡眠をとりながら油断なく朝を迎え、辺りが明るくなると四人で軽めの朝食を取りながら今後の計画について早速話し合っている。出来る男達の真剣さがそこには窺えた。



 ……因みに、そんな彼らの様子を探知しながら、私達も大樹の傍の花畑に腰を下ろすと朝食後のデザート代わりに秘跡産果物『ネクト』をパクパクしていた。



 ──こちらの観戦準備は万全に整っている。さあ、いつでも冒険をどうぞ。



「…………」




 そうして食事を取っている間も、その後に相談をし合う様も、彼らは流石の『金石』冒険者として、歴を感じさせる佇まいであった。四人の表情は真剣そのものであり、その動きの一つ一つに無駄が少なく、辺りへの警戒も常に忘れずに行っているようだ。



 ……そんな彼らの仕草を視ながら、私の隣でエアも『ネクト』を食べつつ、『ふむふむ』と頷いている。昨日はそんな彼らに『指導』を一つ入れたエアさんだけれども、どうやら今日はそんなエアさんも感心するしかないらしい。文句のつけようも無さそうだ。



 ただ、一応言っておくと、この森は現在彼らの敵になりそうな存在も獣も殆ど居ないので危険は元々少なめではある。



 だが、それを知らない彼らからしてみると、何が起こるかわからない見知らぬ土地では、ああやって振る舞うのが当然であると経験から教訓を得ているのだろう。例え周囲が安全そうに見えても油断するべきじゃないと、自分達で確りと戒めているのだと思われる。



 愚直ではあるものの、堅実を通すその姿……うむうむ、私としてはかなり好ましいタイプの冒険者達であった。流石は『金石』と言った所だろうか。



 個人的に、ああいう確りとした姿を見ると、同じ冒険者として私も応援したくなってしまう。

 既に彼らに対する私の好感度はうなぎのぼりだった。

 今日の探索も是非ともがんばってほしいと思う。

 ……もし彼らがこの『大樹』まで来れたのならば、その時は何かおもてなしをしたいなと私は考え始めていた。何が良いだろうか。この『ネクト』も珍しいから彼らも喜んでくれるかな?彼らが来るまでに幾つか候補を考えておく事にしよう。



 さてさて、それでは今日も、彼らはいったいどんな冒険を魅せてくれるのだろうか。

 とても楽しみで──



「──撤退しよう。この森はこれ以上無理だ。危険すぎる」


「ああ、そうだな。同感だ」


「それしかない」


「準備不足だった。まさかこんな危険な場所があるなんて……」



 『…………』



 ……き、今日こそは『結界』を超えて、彼らが『大樹の森』までやってくるかもしれないと思っていた矢先、私達にはそんな話が聞こえてしまった。



 夜の間に彼らの周囲に密かに『ドッペルオーブ』を仕込んでおいた私は、食後になにやら長い事相談をし始めていた彼らの会話に少しだけ興味を持ち、実際に少しだけ聞かせて貰ったのだが、その際にちょうどまさか、そんな発言が聞こえてしまったのである……。



 それも、よく視ると『金石』冒険者達はこんなにも気持ちの良い朝であるにも関わらず、とても暗く神妙な顔つきでそんな話をしていた。ど、どうやら嘘や冗談の類でもないらしい。

 どうやら、本気で彼らは『撤退』を考えて話を進めているようであった。……な、なぜだろうか。



 確かに、昨日は森の浅い場所をウロウロとするばかりの彼らだったけれども、既に『結界』の存在には気づけているのだし、まだまだ先へと進む力は十分にあると思うのだが……彼らは何かを危険視している様で、それ以上進む気がないらしいのである。わからぬ。何をそんなに危険だと思っているのだろうか。



 正直言って、まさか彼らがそんな判断を下するとは思っていなかった私達としては、肩透かしと言うか『……えっ、本当にもう帰っちゃうの!?』と言う、そんなとても強い残念な気持ちと驚きが隠せずにいた。


 隣にいるエアに限っては、『なんでっ!?まだ冒険は始まったばかりだよっ!諦めないでっ!!』と、声に出して応援までし始めている……。



「──よし、準備は整ったな。帰るぞっ」


「おうっ!」



 ──だがしかし、そんなエアの応援も届かず。


 冒険者達は相談を終えるとさっさと支度を整えて、迷いなく帰って行ってしまったのであった。

 そんな彼らの後姿を視て、私達は大変に残念に想いながら見送る事しか出来ない。……エアは、少しだけしょぼんとしてしまった。


 観戦していた精霊達の間からも、自然と『あぁ……』と言う、そんな溜息に近い声が零れている。



「…………」



 だがしかし、私としても残念には思ったが、少しだけ落ち着いて考えてみると、どうして彼らがそんな判断をしたのか少しだけ理解する事ができた。


 ……なにしろ、森から去って行く冒険者達の様子が、来た時と比べてだいぶ具合が悪そうだったのである。



 ──そう。つまりは、彼らが『撤退』を選んだ理由も、『危険だ』と言っていた意味も、体調不良が原因であり、その不調に至った原因について考えれば、直ぐに察しがついたのであった。


 ……まあ、敢えて言うまでもない事ではあるのだが、『それ』は私達からするともうすっかりと慣れたものであり、すっかりと頭から抜け落ちていた要因である。


 つまり、元々この森は余所と比べて『魔力濃度』が比較的高い場所である、と言うのをこの時の私達はすっかりと忘れていたのであった。



「あっ!そうかっ!」


「……うむ。彼らは魔力で酔ってしまったのだろう」



 ……私のその一言で、『なるほど』と、エア達も納得がいったらしい。

 なにしろ、この森は魔法巧者である精霊達でさえ力の弱い者だと長居が出来ない様な『魔力濃度』の濃い場所なので、そりゃ普通の人にとっては尚更にその影響が出て体調を崩してしまうのも頷ける話であったのだ。



 最近では訓練の成果もあって精霊達も普通に適応するようになっていたが、適応していない者達にとってはまだこの環境は中々に厳しいものがあるのである。

 それこそ、ここで無理をして長居をしようものならば命に関わる事もあるので、彼らのあの判断は完璧であったのだ。大正解だったのである。



 あの冒険者達は特に昨日からずっと気を張り詰めたままで居たし、この森の探索を全力で頑張っていたので、私達が視ている以上に疲労が蓄積してもいたのだろう。そんな身体に尚更この森の『魔力濃度』は辛かったのだろうと思われた。



 なので彼らの一人も言っていたが、『準備不足』と言う事で、今回は一度引く事にしたのだろう。

 そして、きっと彼らは次回から、もう少しこの環境に慣れて適応してから無理なく探索をするつもりなのである。



 ……なーに、彼らは冒険者だ。今回上手くいかなかったからと言って、それで終わりと言う訳ではないのである。だから、必ず次回も彼らはまた挑戦しに戻ってくるはずだ。


 彼らは『金石』冒険者としての実力も経験もある。撤退の判断の早さも素晴らしかった。

 そんな彼らならば、きっと次回来る時には完全に準備や対策を整え、私達の居る場所まで来てくれる事だろう。



 ……そう考えると、同じ冒険者として、彼らには増々私は好感が持てたのだった。

 精霊達やエアともそんな話をしつつ、私達はのんびりと『ネクト』を齧って、彼らがまた次に来てくれる時の事を楽しみにしながら待つことにしたのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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