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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
423/790

第423話 疼。




 その日、大陸各地には『泥』の雨が降り注いだ。

 当然のことながら、人の中にはそれを見て不吉を覚える者が大勢いた。



 なにせ、これまで起きた事のない怪奇現象であり、その雨とほぼ同時にダンジョンからは『魔獣の氾濫』が起こったからである。

 そんな未曽有の危機に、人々は思ったのだ。

 『きっとあの『魔獣の氾濫』と『泥の雨』には、何らかの関連があるのだ』と。

 ……そう考えるのが普通だと、何も知らなければ私だって同じ様に思った事だろう。




 まさかあの『泥の雨』が魔獣達の遅滞と妨害目的で行われたものだとは、事情を知る者以外では知る由もあるまい。



 それに、多くの人々が『泥』と言うワードを聞いた時に、先ず最初に思い浮かべてしまうのがなんであるのか……。

 その答えが、とある有名な逸話をきっかけにして、ほぼほぼ一つに絞られてしまう事も簡単に想像が出来る話だったし、今回の氾濫の原因についても、恐らくは『あの魔獣』が関係しているのだろうと、大方の予想がそんな噂に流されてしまうのも、また仕方のない話だと私も思った。



 ──そう。早い話が、知らぬ間に此度の事件は全て『泥の魔獣』の仕業であると言う風に世間一般ではなっていたのである。



 それも、『聖人』によって抑え込まれていた『悪しき泥の魔獣が復活した』と言うのが専らの噂であり、人々はその『見た事もない悪しき存在』に想像を掻き立てられたのか、必要以上の恐れを抱く様にもなっていたのだ。



 特に『ダンジョン都市』の様に、街にダンジョンが隣接していた場所においては、他よりも被害が大きかった為か、その感情は尚更顕著に働いた。


 大き過ぎる被害こそ抑えられた訳だが、被害が全くの零だった訳ではない。ダンジョンの『魔獣の氾濫』によって、場所によっては死傷者も出ている。その為、『泥の魔獣』はそんな人々の悲しみや怒りが向かう矛先として、いつしか認識されるようになっていたのである。



 そして今回の被害を重く受け止めた者達は、次にまた『泥の魔獣』が何らかの騒動を起こす前に備えておく為にも、『聖人』が居ない現状、魔獣に関して最も頼りになるであろう者達へと依頼を出す事にしたらしい。


 つまりは、『復活した泥の魔獣の討伐』と言う依頼が、『高額の賞金』と共に冒険者の間で活発に広まっていくのであった……。



「…………」



 ……その為、私はますます外の世へと出歩き難くなった。

 辛い話ではある。がんばったのだがな……。



 ──だがまあ、『助けた側』だった筈なのに、勘違いされて『加害者側』だと噂されるぐらいであれば、直接的な被害も無いので、結局私はあまり気にはしない事にした。出来る限りの事はしたし、救える命は救えた。結果はちゃんと出したのだから、それで『良し』と思う事にしたのである。



 ……ただ、私はいいのだが、今回の事でエアや精霊達の方が納得いかなかったらしく──『なんでロムが……』とか。『旦那はあれほど……』とか。凄く不満を漏らしては悔しそうにしていた。



 皆が私の代わりに憤ってくれるので、私としては憤る暇もない程である。

 ……でも、そうしてぷりぷり怒ってくれる彼らを逆に宥める事で、私は癒されている部分もあったのだ。

 そのおかげで、甘い果物等で釣って彼らのご機嫌を取る事が私はちょっと上手くなった。

 果物の皮を綺麗に剥くのもまた少し上達したし、そうして綺麗に剥けた果物を怒っている彼らの口に放り込んでいくのが何気に楽しくもあった。



 ……なんにしても、私としては君達が無事ならそれでいいのだ。

 エア達のその気持ちだけで、もう既に十分に私は報われていたのである。



「…………」



 ……ただ、今回の事で一つだけ個人的に残念に思うとしたら、エア達と冒険する機会が少しだけ遠のいてしまった事だろう。

 なぜならば今回、『泥』での妨害が上手くいったのだが、逆に上手くいきすぎて各地へと逃げ散ってしまった魔獣も居るようで、冒険者ギルドではそんな魔獣達の残党狩りに近い依頼が今は増えており、中々の賑わいになっていると聞いたのである。



 これはかつて、ドラゴン達が各地で大きな被害を及ぼしていた時に近い状況でもあり、私としては内心凄く疼く気持ちがあったのだ。出来る事であれば、そのワクワクをエアにも知って欲しかったと思うのである。



 何と言うか、そう言う活発な時代の冒険者達の面白さと言うか、切磋琢磨と言うか、『魔獣の討伐』における熱意の様なものをエアにも一度味わって欲しいと強く思った。きっと良い経験になると思うのだがなぁ……。



 だから、私としては『泥の魔獣』の件で動けない現状、エアが『ロムと一緒じゃなきゃヤダ!』と言ってくれるのが嬉しい反面、冒険者としては少しだけ勿体なくも感じてしまうのである。

 ……まあ、私の事を『泥の魔獣』だと知っている者も恐らくはそこまで多くないだろうし、私も一緒に冒険に出ても問題はあまりないだろうとは思うのだが。



 かつて『聖人』関連で一度『浄化教会』の一部の者達には、私がそう(『泥の魔獣』)であった事がバレてしまってもいるので、一応は大事をとって余計な混乱をさせない為にもこうして配慮し静かにしていると言う訳なのである。



 なんとなくだが、今頃は『聖人』も……『こんなはずじゃなかったのだが……俺が話を広めたばかりに、すまん』と謝っている様な気もした。



 だからまあ、もう暫くは噂が静まるまでこのまま森で大人しく待機し、それが治まったらまたエア達と共に冒険者活動に戻れたら良いなと、私はそう思うのであった……。




またのお越しをお待ちしております。

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