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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
420/790

第420話 晒。




 苦手を克服する為に私達は『酔う』為の時間を設ける事にした。

 だが正直言って、私もエアもあまり得意な分野ではない為に凄く苦労している。



 特に初回の時はそれはそれは酷い状況だったらしく……『実は面白そうだったので一部始終を隠れて見ていました!』と言う四精霊の証言によって判明した事だが、その日の夜、居間の中には私達が発する魔力によって良い波が生まれていたとかで(?)、私とエアはそれぞれ『チーズ』と『お酒』を口に入れて訓練を開始すると、五分後くらいにはもうすっかりと一般的な『酔っ払い』として出来上がっていたらしいのだ。



 それも、私がうつ伏せになってサーフボード代わりになり、その上にエアが立って乗り込むと、二人で波乗りの練習をしていたと言うのだから……うむ、改めて聞いてもまったくどうしてそうなったのか意味が分からない状況だった。



 ……ただ、精霊達曰く、その時の私達はとても意気投合していた様子で、凄く楽しそうにしていたらしい。



 まあ、私としては何か楽しい会話をエアとしていただけだと記憶していたのだが、どうやらそれが不正解であった事に少しだけ驚きを覚えた位である。

 朝起きた時にあれほど部屋の中が荒れていた事から、精霊達のその証言が冗談の類ではない事は直ぐに分かったし、私達が寝床にいない事を心配して不安になったバウが、居間の残骸の中で横並びで眠る私達を確りと目撃しているので言い逃れもできなかった。



 精霊達にもバウにも本当に申し訳なく思う。

 それに、皆も次からは一緒に参加したいと言うので、次回からの『苦手克服訓練』は大勢で開催する事が決まったのであった。みんなで苦手を克服すれば、それはそれは楽しい事になるだろう。私達の酔い癖の悪さも、みんなが居れば止めて貰えそうだし、かなり安心感が増したと言える。



 ……ただ、それらを色々とふまえた上で思うのだが、私とエアの当面の目標として『先ず、記憶を失わない様になろう』と言う事が決まったのであった。あまりみんなに迷惑をかけない様になりたいねとエアとは話をしたのである。



「…………」



 さて、朝からそんなこんなはあったけれども、私達は今日も日中は『別荘作り』を頑張る予定だ。

 ただ最近では、精霊達もかなり慣れて来たのか、彼らもその制作にお手伝いをしてくれるようになってきたので、だいぶ一つ一つの工程が楽に感じられるようにもなって来たのである。



 雪が薄らと積もる森の中をエアと共に歩き、私達は『大樹の森』の中の【拡張】されている部分へと足を踏み入れていく。



 この場所は既に【拡張】された空間の中で、その大きさは今居る大陸をコピーした位の『領域』範囲になっている訳なのだが、『大陸の中にもう一つ同じ大陸がある』と思って貰えば、この『領域』についてのイメージは幾分か分かり易いかもしれない。



 ただ、『えっ、そんなの変じゃん。おかしいじゃん』と、一度気になり始めて考え込んでしまうと頭が痛くなってしまうかもしれないので、これはそういうものなのだと思って貰うと良いかと思う。

 物理的な物の考え方が染み付いている者であると、その理不尽さに不快感を覚えて不思議から抜け出せなくなる可能性があるので注意が必要だ。



 それに正直な話、全て感覚で作っている私達からするとこれを理論的に説明する事はほぼ出来ない。

 『差異』へと至っているから『なんとなく』で作れているだけなので、言葉で上手く説明できるわけではないのだ。だから、『考えないで、感じて!』欲しいのである。



 そもそもの話、精霊達は属性による性質の大まかな差によって、似た性質の者同士であらば助け合う事が出来る。

 なので、大陸規模の土台を用意して、各属性に性質を近づけた土地を用意してあげれば、後は魔力の調整で各自の『領域』は意外と模倣出来たりもするのだ。


 ……まあ、これにもコツが必要だし、魔力の調整による歪みは自然と生まれてしまうのだけれども、なんとか現状は『淀み』までは出ていないので、充分に上手く行っていると言えるだろう。



 それに、今だからこそ分かる話ではあるのだけれども、そもそもの話が精霊達に怪我などが無く、衰弱もせず、普通に自分達の『領域』を守れている状態であれば、本来は『淀み』もあまり発生しないし、溜まったりする事もないと言うのだから、それらが多く発生している場所はどれだけ彼らに負担をかけているのかと、そう言う現状が見えてしまう話でもあった。

 以前にも、急に世界的な『淀み』の量が増えた現象もあったとは思うが、それだって今更ながらに思うと、その意味もよくわかると言うものだ。



 戦争だなんだと、そんなきっかけがあったからこそ今回私はこうして動き出したわけだが、そんな事がなかったとしても、精霊達はずっと少しずつ苦しんでいた事が分かり、それを想うとなんとも心が苦しくなる想いだった。……精霊達がこれほどまで喜んでくれている事にもちゃんと理由があるのである。



 ただ、『淀み』が増えた事によって、生き物は新たな適応を見せ『マテリアル』と言う力を得る事にはなった。それによって救われた者も中にはいるわけなので、そういう面を考えると一概にも否定ばかりが出来ないのが何とも言えない部分ではあった。



 それも、最近では野生の獣たちもそんな『マテリアル』の影響からか体躯が大きくなったり、力が強くなった事で生存能力が上がっているとも聞く。



 当然、それによって獣の被害──どうやら『魔獣』とも呼ばれるらしいが──そんな存在による被害も増してきたらしい。

 だが、これもまたそんな『魔獣』の存在によって、逆に戦争等で食糧難が起きている地域では『狩り』の需要が増え、その『魔獣』達を食すことにより食糧問題がなんとかなっている場所もあるらしいのである。



「…………」



 まあ、私達としては何があったとしても、このまま精霊達の需要が続く限りは『別荘作り』を続けるつもりなのだが、立場や視点が異なれば物事の価値観はこうも簡単にひっくり返るのだから、なんとも難しい話であると私は思うのだった。……こちらも考え過ぎると頭が痛くなりそうな話ではある。



 ただ、そう言った問題こそあるものの、こうして実際に作ってみて精霊達が安全な土地で穏やかな表情をし幸せそうに笑っている姿を見ると、心から『頑張って良かった』と私も安らぎを感じるのであった。

 隣に居るエアも、そんな精霊達の事を見て微笑みを浮かべている。



 そんな皆の笑顔を見て思うのだ。精霊達もエアも、今日も家で一生懸命絵を描いているバウだって、みんな『前を向こう』としているのだと。


 『不安な事は沢山あるけれど、それでも負けずに顔を上げていこう』と。

 『そして、自分達に出来る事を精一杯していこう』と。

 『そうして、幸せになれる道を求めて、みんなで一緒に生きていこうよ』と。



 皆のその笑みから、私はそう言われている気分になったのだ。

 そして、そう想っただけで心の中には『ふんすッ!』と不思議なやる気が漲ってくる気がしたのである。……さてさて、それでは今日も一日、目一杯『別荘作り』を頑張っちゃうぞ、と──。



 『──だ、旦那ッ!!』



「……ん?」



 ──だがしかし、『騒動』と言うのはいつだって突然であり、予期せぬ出来事と言うのは大概手遅れになりがちである事を、私は再び思い知らされる事になるのであった……。



 『──大変だ。全てのダンジョンから、いっせいに魔獣が溢れたらしい……』





またのお越しをお待ちしております。


(いつの間にか、10万PVを超えていたらしいです。心より感謝を!!)

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