第419話 克服。
「『チーズ』はあれほどダメって言ったッ!」
「……はい。ごめんなさい」
早朝、私はエアからお叱りを受けていた。
昨夜の記憶はいまいちあやふやなのだが、どうやら私は『チーズ酔い』をした挙句に、はしゃいで外へと出て大樹の上で寝てしまっていたらしい。……まったく、年甲斐も無く恥ずかしい話であった。エアのお説教も尤もである。
ただ、ぷりぷりと怒っているエアの足元には、何故か申し訳なさそうにペコペコと頭を下げている白いゴーレムくんが居るのだが、あの子はいったい何をそんなに頭を下げているのだろうか。……まあ、とりあえず私が自分でやってしまった事なので確りと謝った。エア、心配かけてごめん。
それに、ゴーレムくんもなにやら申し訳なさそうにしているけれども、私がやってしまった事なので『そこまで気にする必要はないぞ』と想いを込めて手を振ると、小さく手を振り返してくれた。気持ちは通じたらしい。
エアは『酔う』と言う行為をあまり良い事だと思っていない節があり、本人にとっての『お酒』と私にとっての『チーズ』は出来る限り接近禁止でありたいと思っているようだ。
そんなエア曰く、『ふらふらしてると何があるかわからないから怖い!油断はしちゃダメ!次の日きもちわるくなる!』と。
……まったくもってその通りだ。私も深々とそう思う。気をつけよう。
ただ、いずれはそんなエアとも一緒に、『酔い』を楽しむ事が出来たら良いなとは内心で私は思っている。
今はまだ好きにはなれないかもしれないけれども、少しずつ慣れていく事で理解が得られたらなと思った。
冒険者として宴席にて酒が出る事はよくある話だし、私も以前の様に何かしらの料理に『チーズ』が入っている事もなくはないのである。
だから、そんな時に慌てなくて良い様にする為にも、私達の短所を少しずつ長所にしていけたら良いなと、私はそんな風な感じでエアにも話してみた。
……すると、この話は前にもした事があるのを思い出したのか、エアも『……確かに』と頷きを見せている。
ただ、エアに無理をさせたいわけではないので、焦る必要も無い事を私は告げた。
「でも、それじゃあ、また一緒だよ?」
……だが、それに対してエアはそう答える。
何かを変えようと本気で思うのならば、ちゃんと行動に移した方がいいだろうと言うのがエアの意見であった。……確かに。その通りである。流石はエアだ。ならば──
「──では、一緒に苦手を克服する為の時間を作ろうか」
「……克服する為の時間?」
「ああ、時々で良いと思うが、夜の時間に一緒に『酔う』時間を作って、二人で苦手を無くしていこう」
……なんとなくだが、気づいた時にはそんな言葉が自然と私の口から出ていたのだ。
私は、そんな時間をエアと共有したいと思ったのである。
何で急にそう思ったのかは、私も上手く説明できないのだけれども、その短所はきっと二人で克服していった方が楽しい気がしたのであった。
それに、前にも誰かに『エアと一緒に居ろ……』と、言われた気がしたのだ。
ただ、それが誰に言われたのだったか、それはあまりよく思い出せなかった。……精霊達だったかな?
まあ、なんとなくその言葉も頭に浮かんできたので、私はそう提案したのだと思う。
──すると、私からこういう誘いをするのが珍しい事でもあったからか、殊の外エアは嬉しそうな雰囲気に変わると、まるで『パッ』と花が咲いたかのような笑みを浮かべて『うんっ!』と頷きを返すのだった。
「じゃあさじゃあさっ!早速今日の夜から訓練してみるっ?」
「……ああ。そうしよう」
──と言う訳で、エアからのそんなお誘いもあり、私達は日中は『別荘作り』に精一杯励んで、夜になると一緒に『酔い克服訓練』を始める事にしたのであった。
正直、私達は二人共初日の訓練はそれはそれは困難を極めたのだが、二人だったからかとても楽しい時間を過ごす事が出来たのである。
ただまあ、何の話をしたのかその内容までは思い出せないけれど、『何かを話した』と言う記憶は残っているので、昨日からは一歩前進だと思う。
……このまま訓練を重ねて、頑張ってエアと一緒に少しずつ苦手を克服していきたいものである──。
「──ばうッ!!」
「……ごめんなさい」
「……反省してます」
──だがしかし、そんな訓練の途中でそのまま眠ってしまった私達は、翌朝揃って居間で目を覚ました際に、部屋の中が想像以上に滅茶苦茶になっていた所をバウさんに発見され、そんなバウさんから厳しめのお叱りを受ける事になるのであった。……もちろん、確りとエアと二人で謝りました。バウ、心配をかけてごめん。
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