第414話 跡地。
精霊達が、元の『領域』へと戻れなくなった事を私が知ったのは、だいぶ手遅れと呼べる状態になってからであった。
……と言うのも、戦争に巻き込まれない様にと、精霊達へ『別荘』を作っていたの私たちなのだが、どうやらそれに少し熱中しすぎてしまったらしいのである。
また精霊達の『別荘』の需要も高く、私たちの予想を遥かに超えるものであった。
その為、私たちは連日色々な場所へと赴いては精霊達の『別荘』を作り続けていたのである。
ただ、私としても彼らに喜んでもらえる事が素直に嬉しかったので、全然苦にはならなかった。
寧ろ、それで精霊達の身の安全が守れるならばと、やりがいを感じながら全力で取り組んでいたのである。
『大樹の森』の中には、日に日に大陸各地の新しい風景が増えていった。
そして『別荘』のない精霊達の元へと飛んで行っては、新たなる土地へと『ドッペルオーブ』を取りつけていき、数多の『領域』のコピーとなる『別荘』を生み出しては、次々に『大樹の森』の中へと設置していったのである。
そうやって、私達はどんどんと賑やかになっていく光景を見ながら、精霊達と一緒に『別荘作り』を楽しんでいたのであった。
「…………」
……その為、私達が『その事』に気付く時にはもう、【拡張】の魔法によって『大樹の森』の中には『もう一つの大陸』が形成される様な状態にまでなっていたのである。
それもそこまで大きくなってくると、その【拡張】の魔法によって周辺にも高魔力の影響が出ていた為、『大樹の森』の中に生じた『淀み』や『乱れ』を正す調整などもそこそこ大変な状況になってきていたのだ。
ただまあ、そちらは大変ではあるけれども私が無理なく出来る範囲ではあった為に問題はなかった。なので、私は『別荘作り』をしながらもそちらの調整も頑張っていたと言う訳である。
だが、流石にそんな状況だった為に、私達はその間、殆ど周りへと目を向ける事が出来ていなかったのだ。
まあ、毎日があれほど賑やかで、忙しくも楽しいのであれば、夢中になるのも仕方ない話なのかもしれない。
単純に忙しくはあったけれども、それ以上の楽しさがそこにはあったし、精霊達も『別荘』の事を私の想像していた以上に気に入ってくれたので、個人的にも凄く嬉しかったのである。
避難してきた精霊達からも、『向こうでは今も戦争が続いているそうですし……いっそ、もうこっちを実家にしたいくらいですね!』と、皆の視線も『大樹の森』にばかり向いていたのだった。
……だから、中々にみんな、私も含めてだけれども、あまり向こうの状況を知ろうとしなかったのである。『そろそろ元の場所へと帰った方が良いんじゃないか?』とも思わなかったし、実際に元の『領域』へと精霊達も帰ろうとしなかったのだ。
「…………」
──その為、暫くしてそんな『別荘作り』も一段落し、【拡張】によって乱れた調整もいい感じに整った所でようやく時間にも余裕が出来てきた為に、一度元『領域』の様子も見にいこうかという話になったのである。
避難してきた精霊達が『そろそろ戻りたいんです!』と言って来た場合の事も考え、元『領域』の現状を少しだけ確認しに行こうと、そこそこの月日も経っていたのでそろそろ向こうも落ち着いた頃合いだろうと、そんな気持ちで見に行ったのだ。
……だが、そんな軽い気持ちで確認しに行った私達の目の前に広がっていたのは、どうしようもない現実であった。軽い気持ちで考えていた私達はそこで、すっかりと荒れ果てて変わってしまった元『領域』の姿を見てしまったのである。
「…………」
「…………」
……正直、その光景を見た私達は暫く言葉が出て来なかった。
それほどまで酷かった事は言うまでもなく。
知っていた光景から殆ど別物と言える程にまで変わってしまっていたが為に、最初は同じ場所だと信じられなかった程であった。
恐らくは戦争の最中、戦いの中で何かしらの目的を持って火が放たれたとは思うのだけれど、以前はあった筈の森や、その他多くの自然が軒並み全て焼き払われてしまっていたのである。
それも陣地の形成した名残であろうか、地形もだいぶ変形していた。
堀の様なものを作った後、それを乱雑に埋めたのか凸凹の大地が幾つもある。
多くの何かを処理する為か、その何かを入れて燃やしたと思われる大穴や残骸、それに伴う異臭。
元々は幾つか自然と寄り添うように作られていた村や町も、すっかりと姿を消していた。
……残っているのは、ただただ荒れた荒野のみである。
攻める側である周辺諸国が敵を追い詰める為に放ったのか、それとも守る側だった方の国が周辺諸国を追い払う為にか、それとも敢えて自国を焼き払う事によって敵国へと余分な資源を取られない様にする為にか──そこにどんな目的があったのか、私には正確な所は分からない。
だがしかし、例えそのいずれかだったとしても、私達の目の前にあるその土地はもう、精霊達が帰って来れる様な環境とは到底言えない状況になってしまっていたのだ。
……いや、実際に四精霊によると、『領域』がだいぶ傷ついてしまっているから、精霊達は戻る事が出来ないだろうと言う話であった。
「…………」
私としても、それ程までに荒れ果てた地と、色々なものが消えてしまった光景を見せられては、かつての失われた故郷の姿をそこに幻視するなと言う事の方が無理な話であった。
……思わず、その光景を見た私の心の内は悲しさで溢れて、自分でも把握しきれない複雑な感情が次々に渦巻いてきてしまったのである。
ただ、それと同時に、『領域』をここまで荒らされてしまった精霊達の気持ちを考えると、『こんな光景を見たら、精霊達はどれだけ悲しむだろうか』と言う想いに包まれて、胸の奥が凄く苦しくなるのだった。
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