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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第410話 深省。






「それじゃあロム、直ぐに出発するよね?」



 助けを求める精霊達に応える為、私は立ち上がった。

 すると、『お食事魔力』を作りながら確りと話を聞いていたエアも、既に一緒に行く気満々のようで、傍にいるバウ共々二人とも私へと真剣な顔を向けてきていた。それは何とも頼もしい姿だった。



「──ああ、準備ができ次第、直ぐに向かおう」



 勿論、私としても手遅れになる前に精霊達を助けたいので少しでも早く出発するつもりだった。

 ……だが一つ、懸念すべきなのは、精霊達から聞いた話によると、今回も既に戦いは各地で始まってしまっていると言う事であった。



 その為、今回の様な複数の国が一斉に攻め込んでいる──複数の戦場が予想される──状況であると、私達だけで全ての戦いを防ぎきろうとしても手が足りなくなる可能性が凄く高いのである。



「…………」



 なので、この状況を思うと今更ながらに『こんな時に【転移】が使えれば……』と思ってしまうのだ。それに、『探知系統の魔法が万全であるならば……』とも。



 無い物ねだりをしたい訳ではないが、このような場合に活躍するであろう魔法の悉くが、今の私に使えない状況である事が何とも歯痒かった。



 それに先ほどから、密かに『こんな時なら使えるのではないか?』と、試してみたりもしたのだが、心の中で幾ら強く想い願おうとも、魔法は全く発動してはくれなかったのである。

 ……そうそう都合よく使える様にはなってはくれないらしい。すごく残念だった。



 自分の『力』なのに、本当にままならぬものだと感じる。

 それともなんだ、『これくらいの緊急事態ならば、まだ自分で何とか出来るだろう』と、私の深層心理が拒んでいるとでもいうのだろうか。……もしそうだとしたら、何とも悠長で愚かな話だと思った。



「…………」



 ……いや、もう止そう。内心で愚痴を言っている場合ではない。

 どんな理由だったとしても使えないのだから、厳しい状況である事に変わりはないのだ。

 ならば、私はもっと建設的で効果的な事を考えるべきであろう。



 ──それに、その時丁度、精霊達の表情が私の視界へと入り、よく見ると少しずつだが彼らの間でも情報共有が進んでいるらしく、ちょびっとずつ彼らの間で焦燥感の様な雰囲気が広がりだしたのを私は感じとってしまった。

 ……どうやら、状況はまたあまりよくなさそうである。出来るだけ急がなければと私は思った。




「──急いで鞄とか取って来るから待っててっ!」



 だがしかし、こんな時に気をつけなければいけないのは、私達まで慌ててしまう事である。

 冷静でいなければ判断を誤る事は多いのだ。急ぎはしても決して焦ってはいけない。

 そして、当然の事ながら準備も怠るわけにもいかない為、私はエアへとお気に入りの古カバン等を部屋に取りに行くように促したのである。



 エアはすぐさまスタタターと走りさって行き、大樹の家へと荷物を取りに戻っていく。

 そして、その間にバウはよじよじと私の身体によじ登ってきて、おんぶの体勢へと入った。

 ……準備が出来たら私達は飛んでいく予定なのだけれど、この態勢が一番速いとバウはちゃんと理解できているのである。うむ、賢いぞ。



「…………」



 また、私の方もその間、この後の展開や動き方について深く考えていた。

 ……複数の戦場をどう回って、どう対処するのが、一番精霊達にとって良いのはなんだろうかと、私はそればかりを考えている。



 ただ、それと同時に、確りと今回の件についても私は反省をしていた。

 ……なにせ、本来であれば、私はもっと早く精霊達の様子に気づいてあげられた筈なのである。

 そこにちゃんと気付けてさえいれば、私達の行動ももう少し早く、対処も楽になっていただろう。

 だから、それを思うとこれは先ず私の失敗なのであった。



 私は今回、最後の魔法をエアへと伝授する事ばかりに夢中になり過ぎていて、他の事へとあまり気が回っていなかったのである。……いや、もっとハッキリと言うのであれば、精霊達の事を蔑ろにしてしまっていたのと同じであった。



 ──と言うのも、普段であればもっと精霊達は何かしらの合図を私に送ってきてくれている筈なのだ。


 彼らは基本的に嘘はつかないし、素直なので何かしら不安な出来事があると直ぐに仕草に現れやすいのである。

 だから、そんな彼らと長年の付き合いがある私が、ちゃんとそんな仕草を見逃さず把握していれば、此度の争いにももっと早く対応できていたのではと思ったのだ。



「…………」



 だがしかし、当の私は、エアの事にばかり気に掛け過ぎて、精霊達のそんな小さな仕草や変化、不安そうな表情にも全く気づけていなかった。



 それも、精霊達は自分達が不安である状況にも関わらず、エアの事をあんなにまで一緒になって喜び祝ってくれていたのだ。彼らの方が私達に凄く気を遣ってくれていたのである。



 状況が重なってしまった事で、それも私達があまりにも嬉しそうにしていた事もあって、元々遠慮しがちな精霊達は更に悩みを私達に言い出し難い状況になってしまっていたのだ。

 だから、精霊達には色々な意味で本当に申し訳ない事をしてしまったと思う。



 ……その点、火の精霊はよく意を決して相談しに来てくれたものだと私は改めて思った。

 本当に助かったと思っている。今ならまだ手遅れになる前に何とかする事が出来るだろう。

 全ての争いだって無事に止められるかもしれないと思った。



「…………」



 ……まあ結局、色々と言い訳がましくなってしまったが、私はなんだかんだと精霊達の事について分かったつもりになっていた癖に、そんな彼らの大事なサインを見逃してしまっていた事が、とても悔やましいのだった。


 そして、私を頼りに思ってくれているそんな彼らの気持ちに対して、凄く申し訳なく感じていたのである。

 ……正直言って、これでは精霊達を蔑ろにしている人々となにも変わらないではないかと、自分で自分に憤りを感じていた。



 見えているのに、無視をしてしまった様な、そんな感覚に近いのかもしれない。

 寧ろ、見えていない人々よりも質が悪い事をしてしまった様な気分になって、私は一人で内心猛省していたのである。




 ──それに、これは教訓にもなった。



 『分かったつもり』になっている事柄ほど、油断と危険は潜みやすい。

 だから、もう同じ失敗は繰り返さない様に、此度の事は確りと自分でも戒めていこうと思ったのである。



 『大事な人達を想う』と言う事が、決してただの自己満足で終わらぬように。

 『守る』と言う言葉が、薄っぺらで意味のない口だけの物になってしまわぬように。

 ……私は気をつけていきたいと強く想ったのだった。



 ──そうして、エアが準備を整えて戻って来るまで、私は自分で自分に言い聞かせるように、密かに反省を続けたのである。





またのお越しをお待ちしております。

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