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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第408話 交々。





 暖かな日差しの中、気持ちの良い風に吹かれながら私達は今『大樹の森』の花畑の中で魔法の訓練をしている。

 私は、教えられる最後の魔法のコツをエアへと伝授している最中だった。

 花畑の中、腰を下ろして真剣な表情のまま私達は向かい合っている。



 そんな私達の傍らには、興味深そうに眺める精霊達とバウの姿もあった。

 皆、エアの集中を阻害しない様にと気を遣ってくれて、声こそ出してはいないがその表情を見れば『がんばれ!』と応援してくれているのが私にまで伝わって来る。



 そんな皆の応援を背に受けながら、エアも額に汗を浮かべつつ集中していた。

 そして、魔法に集中しているエアの手は今、胸の前で何かを捏ねる様な動作をし続けている。

 ……その様子をよく見ると、その動きはまるで泥の団子でも作っているかの仕草であった。



「…………」



 時折、『チラチラッ』と、エアは私の様子を窺ってくる。

 泥団子を作る動作をしているエアなのだが、エアからすると普段通り(・・・・)真剣にバウの『お食事魔力』を作っているだけなので、何も不思議な事をしているわけではないのだ。



 ただ、新しい魔法を教えて貰えると聞いていたのに、突然私からはこれ(『お食事魔力』作り)をやって欲しいと言われた事で、エアからすると『本当にこれを続けていればいいの?』と不審に思わざるを得ない状況なのである。



 ……だがエアよ。それでいいのだ。間違っていないのである。



 私の『奥義』とも呼べる魔法『ドッペルオーブ』は、完全に『差異』へと至った後、感覚の変質を得てからでないと習得できないものである為、今はコツを覚えるしかないのであった。


 ただ、この魔法の場合コツとして何気にバウの『お食事魔力』作りがとてもいい塩梅に関係しているので、エアには上達の為にひたすらバウのご飯を作って貰っていると言う訳なのである。



 なので、私はエアが時折見つめてくる度に、『大丈夫だから。そのまま続けて欲しい』という真剣な気持ちを込めて深く頷きを返すのだった。



 私達の隣では、美味しいお食事が出来上がるのを待つバウが嬉しそうエアの手元を覗き込んでいる。



「ばうっ!ばうっ!」



 『まだかな!まだかな!』と、その声もとても弾んでいた。

 ここ最近のバウは食べ盛りになって来ており、食事量もかなり増えて身体はひと回りもふた回りも大きくなっている。


 おやつ代わりに、甘めの流動食とか果物ジュースとかの普通の食事もよく口にする様になってきたし、歯も段々と確りとしてきたので最近ではちょびっとずつ固形物も始めていたりもするのだ。

 ……でもやはり、なんと言ってもバウからすると『お食事魔力』は別格に美味しいらしく、変わらずバウの大好物である。



 この数年で喜ばしい事にすくすくと大きく育ったバウは、もう得意のドラゴンのぬいぐるみのフリをしても誤魔化せない程にドラゴンらしく成長していた。

 私から見てもその顔つきはかなり凛々しくなってきたし、抱っこするとだいぶ嬉しい重みも感じる様になってきたのである。



 それに、趣味である絵もだいぶ上達してきたからか、画家さんとしての風格も出てきた様に思う。

 ベレー帽が前よりももっとよく似合う様にはなってきたのは、それを作る側の私としてもかなり嬉しい変化だった。


 逆に、大きくなった事によってバウがドラゴンだと街の人にバレてしまう事は多少増えてきたけれど、それも騒ぎになる前に街から去るくらいは簡単に出来る事だし、必要な物も既に【空間魔法】の収納に沢山持っているのであまり問題はない。



 ただ、強いて言うのであれば、『白銀の館』へと顔を出す際に多少の面倒を感じるようになったくらいだろうか。

 前回赤竜に会った時もあの街が現場から一番近かったの為に、あそこの兵士達とは若干気まずい関係になっている上に、とある別の理由からも『白銀の館』には最近ちょっとだけ顔を出し難くなってしまっているのであった……。



「…………」



 それに街と言えば、友二人が居る国やその周辺諸国では、また気になる噂が流行っているらしく、最近では『マテリアル』に次いで今度は『精霊の力』にも注目が集まって来ていると言う話を私は耳にしてしまったのである。


 恐らくは、友二人が居るあの国の影響が遅まきながらも周囲へと広まってしまっただけなのだとは思うのだが、流石にその話には私としても何かと敏感にならざるを得なかったのだ。



 戦争を起こした方の国や、友二人の居るあの国はあれからはもう静観をしているらしいので、殊更騒ぐほどの事態にはならないとは思っているのだが……どうか周辺諸国も問題は起こさないで欲しいと私は心から願うのだった。



 一応警戒は続けているけれど、精霊達にもしもの事があればまた私が黙っちゃいない。

 ただ、友二人との事もあるし私は何かとこの問題には複雑かつ苦々しい思いを抱かざるを得ないのかもしれない。


 これでもしもまた、今度は周辺諸国も巻き込んで友二人とも争ったりする様な事態になったとすれば、その時はもう私は……。




「…………」



 ──いやいや、待て待て。いかんいかん。これはいかんぞ。



 私は自分の心の内に浮かびかけていた暗雲を首を振って打ち消した。

 前回、あの時もその後散々精霊達から注意されたのだが、私がこういう時にあまり考え過ぎたり、余計な事を言ったりしないの方が良いらしいのである。

 そうじゃないと、本当に良くない事が起こってしまう可能性が上がるのだとか。



 ……なのでもう、私はこの手の問題は一切余計な事を考えない事にした。

 もう何も気にしないのである。あーもう忘れましたーあーあーー。



 ──と言う訳で、少々脱線こそしたが、私は再度エアの方へと確りと意識を向ける事にした。



 何よりもまず、今の私が優先すべきなのは、エアへと最後の魔法を伝える事である。

 なので脇目はふらず、私もそれに集中する事にしよう。いつ何時も余所見はいけない。

 目を離し油断すれば、危険はどこからでも襲って来るのだから。



 現に今も、目の前では魔力の減少に伴って少し辛そうな表情をしているエアの姿が私には見えていた。

 エアは一生懸命バウの『お食事魔力』を作っているのだけれど、その様子からどうやらそろそろ限界は近いようだ。……ただ本人は集中し過ぎている為に、自分が無理しかけている事にはあまり気付いていないらしい。


 エアからするとこれは珍しい事ではあるのだが、精霊達が見えた喜びもあって少しだけ頑張り過ぎているのかもしれない。

 でも流石に、これ以上はエアにも無理だろうと判断した私はそこで休みを提案する事にしたのであった。



「……エア、一旦休憩に入ろうか」


「むー、もう?」


「……ああ。少しだけ昼寝でもしよう」


「──うんっ!それならわかったっ!」



 最初こそ少しだけ不満そうな顔をエアだったが、昼寝に誘ったらそんな即答をし、私へといきなり飛びついて来た。

 私は押し倒されるままに花畑の中へと倒れ込み、エアはそんなわたしの身体を枕にしてバタバタと暴れている。


 ……横向きのまま、頬擦りをするかのように私の匂いを嗅ぎつつ、一番眠り易い体勢を探っているようだ。


 こらこら、家に戻れば買ったばかりの大きな柔らかベットがあると言うのに、このままここで寝るのかな?……ふむ、どうやらそうらしい。寝る気満々だ。と言うかもう寝た。



 そしていつの間にか、先ほどまで楽しそうに食事をしていた筈のバウも、私のお腹に頭を乗せて『すぴーすぴー』と寝息を立てている……全く何とも愛らしい子達なのである。



 ──大凡世間一般にある様な師匠の姿ではないけれども、愛らしい弟子達の枕になりつつ、私は私らしく余計な事は考え過ぎず目の前の事に精一杯を向き合っていこうと改めてそう思うのであった。




またのお越しをお待ちしております。

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