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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
403/790

第403話 決別。

2020・12・17、微加筆修正。


注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 エアはレイオスとティリアに向かって、少しだけ頬を膨らませ怒っていた。



 『なんであなた達がロムに怒るの?』と。

 『それはおかしくない?』と。

 『自分達の責任を、ロムのせいにしないで!』と。



 私が『約束』を施した事によって、この国の多くの者達が結果的には亡くなってしまった。

 ……だが、それは『ロムのせいじゃなくて自業自得でしょ!』とエアは言うのである。


 『ロムが約束を結んだのは、わたし達の事を他の人に漏らすのを禁止した事とわたし達の情報を探る事を禁止した事だけでしょ?難しい事も非道な事もしたわけではないじゃない!』と。


 『だから、魔法使いの契約を破った者達が亡くなってしまった事については、あなた達が自分で選択した結果なのだ』と。



 私や友二人にそれぞれの考え方がある様に、エアにはエアの考え方がある。

 そして、私が大切な者達の事を想って行動を起こした様に、エアもまた私の事を想ってくれたのであった。


 だからエアは、友二人の怒りに納得がいかないのだと言う。

 この国の者達の愚かさを私のせいにするなと怒っていた。



 友レイオスが殴り掛かってくる瞬間を見てから、そのパンチを受け止め、代わりに友の頬に見事な一撃をお見舞いしたエアの技は鮮やかと言う他ない。



 そんなエアの姿と言葉に、私はまたもやジーンとしてしまった。

 ……これで何度目だろうか、エアが私の為に怒ってくれたのは。



 戦争の合間と言う真剣な場面にも関わらず、本当は喜んではいけない状況なのかもしれないが、私はそれが何とも嬉しくて思わず心は『ほわっ』とあたたかくなってしまった。



「ロムが、そんな『約束』を結ぶ事さえしなければ……この国はこんな状況にならなかった──」



 疲労の限界まで来ている状態で、友ティリアの瞳は未だ闘志に燃えていた。

 この言葉を言わないわけにはいかないと言う強い意思がその声からは感じる。



「──でも、ロムの『約束』はわたし達を守る為に必要な事しか話していないでしょ!それをあなた達が無理に自分達の手の届くところに置こうと、手に入れようと欲をかいたのが間違いなんでしょ!魔法を使う者なら魔力による『契約』がいかに大事な事かくらい分かっている筈!それが分からない未熟者が、軽んじて踏み込むからそう言う事になるっ!それを愚かしいと思わない者は魔法使いじゃないでしょッ!!」



 だが、そんな友ティリアの言葉は、直ぐにエアの言葉によって一蹴された。

 そのどちらが正論であったかなど、両者の表情を見れば一目瞭然でわかる。



 ……ただ、弁明するわけではないけれど、本来のティリアであれば普通はまずこんな事は言わないだろうと私は想った。



 そして、それほどまでに今の彼女は冷静さを欠いているのだと私は気づいたのである。

 友二人からすれば、親しき者達を大量に亡くしたばかりな上に、その後ほぼほぼ休みなく限界近くまで戦い抜いた末での現状なのだ。そりゃ、心にも体にも余裕がなく、思考は狭まり頭は上手く動いていない状態だろう。



 だから、本来は言わない筈の愚痴や不満も、心の中で我慢しきれずに思わず口から出てしまう事もある筈なのだ。



 『なんであの子達は死ななければいけなかったのだ!』と。

 『死ななければいけない程の事をしたわけじゃないでしょう!?なのになぜ!あなたが余計な事をしなければそれで全ては上手くいっていたんじゃないの!』と。



 責任転嫁と言うよりは、純粋な悲しみからくる嘆きそのものであった。

 『こんな筈じゃない。こんな筈じゃなかったのに』と、その表情からは痛々しくも彼女の気持ちが伝わってくるようだった。



 それに、普段であればティリアよりも冷静に話を進めてくれる筈のレイオスが数メートル先で地面に倒れてしまっている事も、現状ではとても良くないのだと思う。


 友ティリアはどちらかと言えば少し感情的になり易い部分があるので、こういう話し合いの際は直ぐ熱くなってしまい拗れる事も多いのだ。



 だからか、既に友ティリアの先の言葉は『ロムを守らなければ!』と考えてくれているエアの敵愾心を買ってしまっている様で、両者の言い合いは段々と語気が強くなってきてもいた。



 ……そこで私は密かに、友レイオスへと【回復魔法】を使い始める事にして、彼の早期復帰を待つ事にしたのである。

 ただ、どうやら私の回復の威力はまだ完全には戻りきっていないようで、若干回復は遅くゆっくりとしか治っていなかった。


 だが、それでも結局はレイオスが早く起きなさいと、この話は既にまとまるものもまとまらない気がしたので、私は治療に専念する事にしたのである。

 ……だからレイオス早く起きてくれ。君の力が必要だ



「──でもッ!そのせいで何百人もの人が死んだのよ!それはロムの『約束』のせいだわッ!その『力』が多くの人達を巻き込んだのは事実でしょ!!『力』を求めたのは一部の人達だけだったのに、それでも実際には殆ど無関係の人達まで、大勢の人達が死んだのよ!国の至る所で、あの首が弾け飛ぶ惨劇が起こったわ!あの事件のせいでどれだけ多くの人達が悲しみを覚えたかッ!!……そして、あれが起きて無ければ、こんな戦争も起こる筈じゃなかったッ──」



「──本当に無関係だったって言えるの?確証はないんでしょ!亡くなった人と、生き残っている人が居るんだから、それこそが真実なんじゃないの!生き残った人達がいるのは余計な事を知ろうとしなかったからでしょ!逆に沢山の人達が亡くなったのは、それだけの人達がみんなロムの事を探ろうとしていたって事でしょ!関係者だったんでしょ!無関係じゃないよっ!──何より、ロムは色々と配慮してたよッ!警告代わりに痛みだってあった筈なのに!それすらも無視して、無理して痛い目を見たのは誰なのっ!単純にあなた達がロムの力を見誤っていただけの話でしょっ!──誰が悪いの?これでもまだロムのせいだって言う気?どう考えても自分たちのせいじゃないかっ!それなのに、戦争の事までロムのせいにしないでっ!」




 ……そんなティリアと、エアの言い合いは激しかった。

 睨み合うその両者の間に割って入る事は、今の私には中々に難しい。

 ただ、止めようかと思い少しタイミングを見計らっていたのだが、今は少し機を逃してしまった様にも思えた。


 それに、言い合いで熱くなっている者達を、片側だけ『冷静になれ』と落ち着けても効果は薄い。もう一人いた方が場が落ち着きやすい筈だ。


 なので私は、とりあえずはそんな両者の話を聞きながら、レイオスが起き上がるのを待つ事にしたのであった。彼ならば、きっと直ぐに目を覚ますだろう。



「──グッ……ぅ、ここは?」



 ……すると、未だエアとティリアの言い合いが続く中、それほどかからずに回復しきったレイオスが目を覚ました。

 彼は呻きながらも顔を上げ身体を起こすと、自分が地面に伏していた事に気づき、次いで浮いたままの兵士達や私たちの方へと顔を向けると、言い合う二人の事も見て現状をだいたい察してくれた様子だ。



「──ロム」



 恐らくは数分間、気を失っていただけなのだろうが、少し寝る事で冷静さを取り戻した様に見える友レイオスは、衣服の土を払いながら立ち上がり、私の方へと視線を向けてよく通るその声にて私の名を呼んできた。私は返事を返す。



「……起きたか」



 そして、その声が聞こえると、ティリアとエアも一旦は声を潜め、こちらへと歩み寄って来るレイオスの姿を見ていた。

 彼の顔は真剣そのものであり、彼の事を見たティリアは『ほっ』として、安心したような顔をしている。


 そして、そのまま二人は横並びになり、彼は私へと話かけ始めたのだ。

 ……いつもは君達二人がそうして横並びで居る所を見るのが好きな私だけれど、今日は何とも寂しい立ち位置だと思った。



「ロム、助けに来てくれた事……感謝する」


「ああ……」



 するとレイオスは、そう言って私へと先ず感謝を告げると、次いで『うちの兵士達を下ろして貰えないだろうか?』と尋ねてきた。彼はもう普段の冷静さを取り戻している様である。



 それに、兵達を下ろす事自体に関しては当然私も賛成である。

 ……だが、兵士達を下ろした途端に、未だ無抵抗で浮いたままでいる敵国の兵士達に攻撃を加えようとするのは止めて欲しいとだけは彼にも忠告しておいた。



 もしそれをしようとしたら、その瞬間に私はまた兵士達を動けなくさせて貰うとも。

 ──すると、その言葉を聞いたティリアやレイオスは一瞬だけ眉をしかめていた。



「ここで敵国の兵士を減らせておければ、後々俺達の方は安全になるのだが……それでもダメか?」


「ああ……。大地によくないのだ。だからやめてほしい。あの者達の事は私が──」



 そして、友二人の懸念事項である向こうの兵士達の処遇について、私は自分の考えを伝えてみた。

 ここで兵士達を殺める事はしたくないので、彼らはあのまま敵国にある街まで私が責任を持って送り届けるつもりであり、その際には彼らにこれ以上の争いを繰り返さない様にと警告をするつもりである事を言ったのだ。


 友からすると、ここで彼らを見逃す事は不安に繋がるのかもしれないが、これは私にとっても譲れない部分に関わって来るので、どうにか信用して欲しいと思う。


 ……勿論、向こうに着いた時にする警告は、確りと『約束』をしておくつもりなので、奴らがまた戦争をしに攻めて来ようとする事などない様に配慮するつもりだった。



 だから、どうか安心して欲しいと思う──。




「──そうか。大地の為、なのだなお前は。俺達の事はもう……」



 すると、友は少し考え込む様に口に手を当てながらブツブツと何かを呟いてはいたが、最終的には『……分かった。それで本当にこの国が守れるならばよろしく頼む』と言って、受け入れてくれたのである。


 ……若干、その時の友の真剣さからは険しそうな雰囲気を感じたものの、やはり友レイオスとの話し合いだと冷静に話しもまとまっていくので、私としては好ましかった。


 彼の隣に居るティリアの方はどちらかと言えば不満そうな表情をしているものの、彼女の説得に関してはレイオスに頑張って貰いたいと思う。



 そうして私は、レイオスの言葉を信じ、彼の求めるままに兵士達を地上へと下ろした。

 すると、レイオスは兵士達の方へと近寄って行き、彼らへと何かを命令している様で──それが終わると、兵士達は揃って王都の方へと帰還する為に歩き始めたのである。



 ……ただ、そんな兵士達の帰り様に、私は一つだけ気が付いてしまったのであった。

 彼らが敵国の兵達へと向ける視線と、私へと向ける視線には、殆ど変わりがない事に……。

 そんな彼らの視線を受けながら、私は内心で『……まあ、仕方がない』と、ちょびっとだけ悲しくなっていた。



「…………」



 私の事がどんな風に見えているのかは分からないが、彼らの戦いを邪魔した様なものである私は、敵に近しく憎ましい者に思えてならないのだろう。そんな彼らの気持ちは当然だと思えた。



 そして、そんな兵士達の姿が完全に後ろ姿だけになる頃に、友レイオスは再び私たちの方へと歩いて戻って来たのである。


 すると、彼は横目に兵達の姿を眺めたまままだ話したい事があるのか、先ほどの続きをするかのように私へと言葉を紡ぎ始めた。



「ロム、すまなかった。……だが、敵兵の事だけはよしなに頼む」



 ……勿論、敵兵の事に関しては私も任される気満々だったので頷きを返した。先ほどの事についても、睨まれる様な事をしたと私も自覚があるので大して気にもしていない。『仕方がない』と思うだけだ。



「それと俺自身も、助けに来てくれたお前にいきなり殴りかかろうとしてしまい……すまなかった。あの瞬間は冷静でいられなかったんだ──」



 ──すると、レイオスは自分の事についても言及するつもりらしく、急に色々と話し始めた。



 『あの時、助けられたと思うよりも前に、お前の姿を見た瞬間に、王達の姿が思い浮かんでしまったのだ』と。


 『そして如何な理由があろうとも、身内が死んだことで俺も冷静では居られなかったのだ』と。

 『それに、王達がした事もすまなかったと思っている。だが、一つだけ言いたいのは、如何に正論がそちら側にあろうとも、俺達は俺達の求める最善を尽くしただけだったんだ。だから許して欲しい』と。



「…………」



 ──すると、去り行く兵士達を眺めながら横向きに話し続けるレイオスの瞳からは、いつしか悔し気に涙が零れ始めていた。……彼の話の内容よりも、私としては彼のその姿に『どうした?』と声を掛けたくなった。


 ……だがしかし、彼は私達の方は見ずに、そのまま話をし続けるのだ。



 『……俺達は。お前と言う『光』を見て、憧れざるを得なかっただけなんだ』と。

 『その『力』があればもっと国を豊かに出来ると、そう考えてしまっただけなんだ』と。



 何が起こるかわからない世の中において、『力』を備える事の必要性と、それを得た事によって得られる安心感は何よりも尊く、それによって多くの人々が幸せになれるのであれば、求めざるを得ないと言う考え方だった。



 友は言う。『俺達は弱い。だから、一人では生きていけないんだ』と。

 友は言う。『だから、多くの者達が寄添い合い、支え合い、力を合わせ、国と言う大事な居場所を、みんなで強く堅くしていく事を望むのだ』と。



 彼のその声は、今までに聞いた事がない程に、弱々しく感じた。

 私はその声に、まるで何かを諦めるかのような響きを感じる。


 幼き頃からずっと、いつもティリアと共に、私たちの先頭にいた力強く優しい彼の姿はそこにはなかった。



「……だから、ロム。昔から思っていた事だが、やはりお前は異質なんだ」


「…………」


「それだけの『力』を持つのに、それを多くの人の為に活かさないお前には、きっと弱い俺達の気持ちは分からないんだろう。……それに、きっとお前という存在と俺達は相容れないのだと今回の事で俺は漸く理解した。……俺達は、住む世界が違い過ぎる。見ている景色、聞いている音、感じているもの、それら全てが異なるんだ」


「…………」


「それに、そんな恐ろしく『異質な力』を自分達の為だけに使うお前達の生き方は、きっともう人の生き方とは言えない。……だからもう二度と、お前らに『人』の気持ちは分からないだろうと、俺は思う……」


「…………」


「なあロム?少し前までは幼い姿ではなかったか?もう元に戻れた様で、それは何よりだと思う……おめでとう。……だが、もう一つ言わせてくれ。お前はもっと、周りの目に気づくべきだぞ。──それだけ膨大な魔力を備えて、歳も取らなくなり、姿も自在に変えられる……なあロム?お前は、いったいなんなんだ?それが、『ただの魔法使い』のあるべき姿か?」


「…………」


「……『化け物』の間違いだろう?」



 横向きに話を続ける友は、只管に悔しそうな表情で話を続けてくれた。

 彼の言葉は幼いころからずっと為になることばかりで、私が気づけない事や知らない事を色々と教えてくれたのだ。

 正直私は、これまで何度彼の言葉に救われ助けられてきたのか分からない。

 それほどまでに、私にとって彼の言葉とは私の教訓そのものであった。



 だが、そんな彼が今、ただただ悔し気に、何かを諦めるかのように話を続けていた。

 本当は、『こんな事を言うつもりじゃなかった』と。『言いたくなんかなかったのだ』と。『それでも言わざるを得なかったのだ』と。



 ……その表情は、見ているだけで心の痛みが伝わってくるようだった。

 そして、彼がその言葉を言ってくれた事にも理由があるのだと、私は察したのである。


 それに、彼は最後の教訓とも言える話を、その本心全てを曝け出すかのように、私へと告げてきてくれた。……恥も外聞も無く涙さえも流しながら、彼は私へと何かを伝えようとしてくれているのだ。



 彼は言った。『お前と言う存在が、お前から感じる魔力量が、お前の魔法が、俺達は怖いのだ』と。

 彼は言った。『お前はもうただの魔法使いなんかではない。もう人の姿をした化け物にしか見えないのだ』と。



 『お前は既に異質過ぎる存在だ。やがて多くの人々がお前の正体に気づくだろう』

 『だから、どうかバレる前に人の世界からは距離を取って欲しい。お互いの安寧の為に……』


 『……今回だって、多くの人々が死んだのもお前の非ではない』

 『単純に、求めてはいけないものを俺達が求めてしまったのが悪かったのだ』


 『ただ、理性ではそう言えるけれど……』

 『……やはり心の中では、この国の者達の多くはお前に殺された様なものだと思ってしまうんだ』


 『すまない。ただ、今回もまた助けに来てくれた事には、本当に感謝している』

 『……だがお願いだ。もう二度と、この国には来ないで欲しい──』




 ──と言う、そんな友の言葉の色々を、私は聞き続けていた。

 だがしかし今回は不思議と、上手く頭の中でその言葉を受け止める事が、酷く難しかったのである。


 いつもならば聞き逃したくなる程に長い話だった気がするだが、今回に限っては不思議と眠気もやって来ない。

 ……どうせなら、眠っていたくなる程に悲しい話ではあったけれど、私は最後まで彼の話を聞き届けることができたのである。



 ──途中、エアはまた私の代わりに何かを言ってくれる雰囲気だったが、今回ばかりは私からそれは遠慮していた。

 エアに『大丈夫だ』と合図を送ると、エアは凄く悲しそうにする表情をするので、私は何度も頷きを見せる。



「…………」



 彼の話がどんなに悲しい話でも、私はちゃんと聞きたいと思ったのだ。

 ……なにせ、きっとこれが友から聞ける、最後の教訓となるだろう。

 だから、ちゃんと最後まで聞いていたかったのである。



 ずっと悔しそうに話し続ける彼のこの決別の話は、もしかしたら私達の最後の会話となってしまう気がした。これが最後の思い出となってしまう気がしたのだ。



 もしかしたら、今後二人はもう一生会ってくれないかもしれないと思った。

 だから……ちゃんと最後まで二人の姿を覚えておきたいと私は思ったのである。




 『……急に何でこんな話をしたのだろうか』と、そんな気持ちは私にもあった。

 彼が何を想って、この話を始める事を決意したのか、私にはそれがよく分からなかったからである。


 ……だが、そこには友には友の考えがあり、感じ方があるのだろう。

 そして、彼はこれを今伝えるべきだと思ったのだと思う。



 そもそも、こんな話を友が冗談でする筈がないのだ。……そのくらいは、私にだってわかる。

 それくらいは私にだって、ちゃんと人の気持ちを理解できるのだぞ?



 目の前の二人とは、幼馴染として、ずっと幼き頃から同じ時を生きて来た。

 でもまさか、私が年を取らなくなった事で、いずれ別れの日が来るとは思っていたが、それが今日になるなどとは思いもしていなかったのである。



 友ティリアは、この話が始まってからずっと友レイオスを見ては困惑しているような顔をしていた。そんな友ティリアの困惑に、私も少しだけ共感する。


 ……こんなレイオスの姿は、本当に珍しいを通り越していたのだ。

 ほんと、一生に一度、あるかないかの話なのだろう……。



「…………」



 私はこれまで二人に、沢山の迷惑をかけて来た……。

 ……だから二人共、今までごめんな。


 でも、例え生き方が異なってしまっていたとしても、それでも私は二人の事を大事に想っている。

 だから、今回助けが間に合った事も本当に良かったと思ったのだ。

 二人が生きていてくれた事は、素直に私にとって凄く嬉しい事なのだから……。



 『──だから、どうか今後も、二人が末永く元気でありますように……』と、私は想った。



 友の話の邪魔したくなかったので言葉には出さなかったが……それが私の素直な心であった──。





またのお越しをお待ちしております。

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