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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第402話 我情。




 エアとバウを連れて……私達は戦争の空へと来ていた。


 眼下では、多くの者達が争っている姿が見える。互いに傷つけあう姿が。

 そこでは、人の生死が一瞬一瞬で激しく一方的に変化し続けていた。



 その中でも、攻められているにも関わらず友二人がいる国の方からは、苛烈な光矢が遠距離で幾本も敵国の兵士達を貫き穿ち、大地を赤へと染め続けている。


 凡そ短弓で放たれる威力とは思えない力を持っている光矢を生み出しているのは友レイオスだった。そして、彼が生成した矢を放っているのは友(淑女)ティリアである。



 そんな二人はとても険しい表情をしていた。

 如何に強力な魔法を使えるとしても、休みも無く作れる矢の数には限りがある。

 如何に強力な弓を射る技術があるとしても、休みも無く動き続ける為には体力に限度がある。



 両国の兵数の差は明らかだった。その数はそのまま兵力の差でもある。

 

 二人はそんな差を埋める為に、周りの分まで頑張っていたのであった。



「……どうにか間に合ったか」



 ただ、私はそんな二人の姿を目にして、先ずは無事であった事を何よりも幸いだと思った。

 そして、心から間に合って良かったと想ったのである。


 でも、二人の様子を見るに、如何にも限界が近そうに見えた為に、早速私も動き始める事にした。

 私としても目的の為、先ずはこの争いを止める事から始めようと思う。


 と言う訳で、私は先ず目に見える範囲全ての者達へと向かって【浮遊】の魔法を掛けたのだった。

 それにより、いつも通りに両国の兵士達は宙に浮かんだまま、何も出来なくなる。



 ジタバタと藻掻くだけの者や、多少魔法の心得があるのか抜け出そうとしている者の姿も見える。

 だが恐らくは無理であろう。攻撃魔法を放って来ようとしている者もいるが……私からすると大した問題では無かった。


 そこそこ魔法を扱える者でないと、私と相対する事は基本的に無理だ。直ぐにこうなる。

 それに見た所、兵士達の中でこの状況をどうにかしてきそうな者は一人も見受けられなかった。



 なので、両国の兵士達は否応なしに全て無力化させてお終いである。

 ……面白くはないかもしれないが、これが魔法使いの戦い方の現実なのだ。

 相手に防げない攻撃をする為、だいたい戦いは一方的になるものなのである。

 逆にそうならない場合は、未熟者だ。



 それに、私の目的としても、一番は精霊達の安全である。

 なので、激しい魔法を使って自然を害するよりも、これが一番効果的なのだ。


 ……と言う訳で、友二人は助けたいが、敵対している者達を排除する為に私が攻撃魔法を使うような事はない。まあ、使う必要もないだろうとは思っている。



 最初からこの土地で兵士達を殺める必要はないと判断していた私は、いつも通りのこの手法へと頼った。

 安心安全の無力化戦法。これでもう彼らの戦争は、この場ではこれ以上の死者はでないだろう。出させる隙も与えん。


 自然も不必要に傷つけられないだろうし、私としてはこれ以上ない作戦であった。

 ……正直、これ以上はもうあまり両国共に死傷者を出して欲しく無かったのだ。素直に退いて欲しい。


 こうなった現状、お互い既にある程度の痛みも覚えただろうし、私に無力化されるだけだと分かっただろう。これ以上はこの戦争で得られる利などない。続ければ続けるだけ損が増えるだけである。



 私としても、こうして浮かべた兵士達にはこの後、素直に退いて欲しいと要求するつもりなのだが、もし言う事を素直に聞き入れて貰えないようであれば、このままの状態でそれぞれの国へと運ぶつもりであった。

 だが、流石にそこまでするのはとても面倒なので、出来る事ならば彼らには自分達の足で歩いて帰って貰いたいと思っている。



 ……まあ、なんにしても、これで争いは一旦強制的に止めざるを得ないだろう。

 それに、もしもまだ懲りずにこれ以上争いたいと言うのであれば、その時は私がそれぞれの王都に運んだ後、そのまま相手になってもいい。



 そこまでしてもまだわからない様であれば、その時は分かり易い形で知って貰おうと思った。

 私の守りたい者達を害そうとするその考えを、『改める』か『存在ごと消え去る』か、選んで貰うつもりである。


 ……だが、如何に愚かであろうとも、それが国の損になると分かれば、他国と争う事に意味が無い事にも気づけるだろう。

 いや、もしそれでも分からない程の愚かしい指導者であるならば、いっそ……。



「…………」



 浮かべたままの兵士達はそのままに、私は友二人の方へと近寄る為に空から降りて行った。

 あの二人であれば、戦いが止まれば自然と攻撃の手も控えるだろうと思っていたが、予想通りに彼らは手を止めている。


 ただ、その表情は未だ険しいまま。二人は私達の存在に気づくと、あまり見た事のない顔でこちらを睨みつけていた。



「…………」



 ……いや、正確には私だけを見て、友二人は怒りの表情を浮かべているのだ。


 そんな二人の表情を見て、『……ああ、そりゃそうだろうな』と、私は内心で覚悟をした。



 これまで色々と、私のせいで二人には本当に多大な迷惑をかけてきたのだ。

 此度の事においても、彼らから見ればきっと私のせいで戦争が起きた様にも見えるのだろう。



 それに、二人からすれば、これまで仲良くしてきた王達の内──『悪ガキ四人衆』とまで呼んで親しんでいた者達の、三人はもう亡くなっているのだ。……いや実際にはもっと、顔見知りであった者達の数も合わせれば、数えきれない筈になっているのかもしれない。



 その上、彼らの第二の故郷とも呼べる場所は、今は戦争に巻き込まれて、荒れていた。

 自分達の『里』とも呼べる場所を、傷つけられて怒らない訳が無い。

 それに、圧倒的に不利な状況だったのだ。下手をしたら二人はまた大事な居場所を失っていたかもしれない。


 故郷を失った悲しさを知っている身としては、その危機をどうにか回避しようと、必死になって第二の故郷を守り続け国を支え続けたこの二人の、その怒りは尤もだと思った。



 二人が私に怒りを向ける理由等、ちょっと考えただけでも、それだけ思い浮かんでしまう。


 私が地に降り立ち、彼らを見ると、二人は憤怒の表情でこちらへと歩いて来ている。

 その拳は固く握られており、二人がその想いをぶつけたいと言うのが一目で分かった。



「…………」



 ……なので、私は、それを受け入れようと想った。

 殴られるくらいの事はしてきたと思ったからである。



 だがしかし、それはこれまでにかけてきた迷惑に対する想いからであり、今回の件に関しては、私は二人に対して謝るつもりは全くなかった。


 なにせ、彼らには彼らの考えや思いがある様に、私には私の考えや想いがあったのだ。

 そして、二人がそうだった様に、私もまた守りたい者の為に『力』を揮っただけなのである。



 つまり、そこに一切の後悔はないのだ。

 私は自分で選び行動しただけ。そして彼らもまた思うがままに選び行動したのだ。

 そうして、互いが思うままを貫いた結果が、こうなってしまったと言うだけの話である。



「ロムッ!お前のせいでッ──!



 普段は冷静なレイオスが、声を荒げて拳を振るう様は大変に珍しかった。

 ……いつもであれば、先にティリアの方が怒りのままに襲い掛かって来そうなものである。


 だが、きっと本当に限界が近かったのだろうな。

 ティリアの腕をチラリと見れば、もう碌に腕を上げていられない程に疲労しており、だらりとしていた。

 ただ、その目付きだけは怒りに燃えているのが見える。

 『あなたのせいでこんな事にッ!』と、そう叫ぶ力すら身体には入らない様に見えるが、その視線だけは痛いほどそう語ってきていた。



 ……きっと、レイオスの拳にはティリアの分まで、気持ちが込もっているのだろう。

 私とは違って、魔法だけではなく運動においても巧者である彼のパンチは、受けたら凄く痛そうな威力ある殴り方をして来そうだった。

 微妙に抉り込んでくるような軌道だ。……受けたらとても痛そうである。



「──ウグッ!!!」


「…………!?」



 ──だがしかしその瞬間、驚いた事にパンチは私ではなくレイオスの方へと当たり、パンチを受けた彼は痛そうな声と共に地面へと転がっていき、その先で地に倒れ伏したのであった。



 ……私は、内心でかなり驚きつつも、隣へと視線を向ける。

 すると、そこには頬を少しだけ『プク―っ』と膨らませた状態のエアが居り、レイオスやティリアの事を逆にジッと睨んでいたのであった。




「あなた達にロムを殴る資格はないでしょッ!自分達の不始末をロムに押し付けないでッ──!!」




 ──そうして、戦場には突如、そんな声を皮切りにエアのお説教が始まったのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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