第401話 瞭然。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
──そして、懸念していた事態が、起きてしまった。
案の定と言ってしまうのは悲しくなるのだが、……案の定、問題が起きてしまったのだ。
それも私達が思っていた以上に、状況は悪そうな噂を耳にしてしまったのである。
……と言うのも、友二人が居るあの国において、戦争が起きたらしい。
もっと言うのであれば、あの国は今、他国から攻め込まれているのだそうだ。
戦っている両国の元々の関係性までは私もあまり詳しくは知らないのだけれど、恐らくはあまり良好とは言えなかったのだろう。
それも、あの国には今、『宰相』『騎士団長』『宮廷魔導士長』と言う、これまで国の中心的存在だった三人が突如として居なくなってしまったそうだ。
だから、友二人の良る国は現在、かなり状況が良くないらしい……。
「…………」
……いや、違うか。もっと正確に言った方が分かり易いだろう。
その三人は、一部貴族や文官集団、そして騎士団と宮廷魔導士団の一部と合わせて、少なくない数の者達が揃って同時期に亡くなってしまったらしいのである……。
それも、その三人を中心に、亡くなった者達は皆が国において大事な役割を担う者ばかりであったらしい。
当然、その件での影響は大きく、瞬く間に国中へと悲報は広がる事となり、不安を感じた民衆達は『国が怪しげな実験をしていたせいだ』とか、『他国からの暗殺があったのだ』とか、そんな色々な思惑を錯綜させてしまっているのだと言う。
それで国は今も尚、荒れている最中なのだ。
……そして、そんな荒れた国の隙を突く形で、簡単に勝てると踏んだのか、他国が攻め込んで来ている状態なのだと言う。
あの国は今、外交するにも内政するにも、国をまとめる人が少なく、兵士の数も十分に足りているとは言えないらしい。
きっと、普通であれば到底戦争など行なえる状態ではないのだ。
──だがそれでも、彼の国の王は諦めてはいないようで、自身を筆頭に『至高の耳長族』である友二人と共に戦争の先頭へと立ち、なんとか抵抗していると言う。
そして、苦戦こそしているようだが、友二人の力が大きいのか現状では若干押されながらも戦線は拮抗しているそうだ。
友二人の居る国は、亜人達に対しても平等な考えを持つ素晴らしい国であると聞く。
そして、攻め込んで来ている国はあまり亜人達が住みやすい国とは言えない政策をとっているらしい。
なので、この戦いは自然と国を巻き込んでの大きな戦いへと発展しつつあるのだとか……。
……当然、その影響は自然にも及び始め、今では精霊達にも悪影響が出始めているらしい。
「…………」
……正直私は、その噂を精霊達から教えて貰った時に、肩を落とした。
起きては欲しくないと思っていた事が、まさか本当に起こってしまった事に、愕然とする。
『約束』は『約束』のまま、確りとその役割を果てしておいて欲しかったのだ。
破って欲しいから『約束』をするのではない。守って欲しいから『約束』をしたのだ。
一方的に結んだ『契約』の形であったとは言え、彼らに事情があったように、私にも事情があるのだ。こればかりは私からは譲れない部分である。
だから、私は本当に、心からそれを破って欲しくはなかった……。
簡単に『約束』が破れない様にと、今回は警告代わりに痛みが出る様にもしていた。
……気づけなかったとは言わないだろう。
でも彼らは、その警告すらも無視して無理矢理にその『約束』を破ったのである。
当然、その結果が、彼らの現状である。冷たい事を言うようだが、私からすると自業自得だとしか言いようがなかった。
──ただ、それでも私のその『約束』を引き金にして、その戦争が引き起こされたらしいと言う状況に、私も言葉が出てこなかった……。
『……何故そこまで?』と言う気持ちは強い。
私の身体の色々な現象に何らかの原因があったように、彼らにも何かしらの原因があったようにしか思えてならなかった。
あの国の者達にどのような思惑があり、そこまでの無理をして契約の違反に該当する行動をとったのか、私には心底わからない。
そんな事をしていなければ、それこそ警告があった時点で止めていれば、私の『約束』によって契約違反の執行が起こる事などなかった筈なのだから。
……それに、友二人も傍に居た筈だ。それなのになんで。なんで止められ無かったのだろう。
止められる筈だろう。あの二人が。あの二人が傍についているのならば……。
それが何故……。
「…………」
無言のまま佇む私の心には、幾つもの疑問が浮かんでいた。
『彼らは、そこまでの事が起こると思っていなかったのだろうか』と。
『『約束』を甘く考えて……そこまで被害が広がるわけがないと高を括っていたのだろうか』と。
……だが、その度に私は心の中で否定し、心の中で首を横に振った。
『……いや、そんな訳があるまい』と。
『流石にそれは愚かが過ぎるだろう』と。
私の目からみても、亡くなったあの国の王の側近とも呼べる者達は、そこまで愚かな事をする様には思えなかったのである。
そもそもが国を動かす者達なのだ。最悪の場合だって想定している筈であろう。
魔法使いとの『契約』を破った場合の被害なども当然分かっている筈である。
その危険性を知って然るべきなのだ。……そうではないのか?
安直な事しか考えられない様な、目先の利益に目がくらむような者達が、国を運営する立場に立っていたと言うのか?
……いや、『力』に執着しそうな雰囲気こそ感じたが、あの国自体の在り方には私も好感が持てていた。
それに、あの友二人が居るのだ。私の中であの二人に対する信頼はとても大きい。
だから、あの国でそんな事が起こるなんて……と。
そんな答えの出ない疑惑が、ずっと私の頭の中をグルグルと巡り続けている。
終いには……『もしかしたら、元々戦争の気配自体はあって、それに備える為に戦力増強を求めてしまったが故の結果なのだろうか』とか、そんな都合の良い言い訳を自分で作り、自分に言い聞かせている様な気がした。
『敵国と戦うだけの『力』を求めて、一人でも多くの国民達を守る為に、彼らも仕方がなかったのだろう……』と、そんな何とも耳心地の良く、納得できそうな理由で……。
「…………」
──だがしかし、それを一通り過ぎた後には、虚しさだけが残った。
……そして、そこで私は、自分の心を諫める事が出来たのである。
『……違うだろう。何を勝手な想像をしているのだ。目を背けてはいけないだろう』と。
『考えるべきはそこではなく、私が気にしなければいけないのはもっと別にある筈だ』と。
──私の方針は最初から変わらないのだ。
自分の大切にしたいと思う者達の為に、この『力』を使うと決めている。
だから、彼の国の指導者達がどうとか、こんな事をしてしまったとか、正直私にとってはもうどうでもいいのだ。
今為すべき事は、大切だと思う者達の為──悪影響を受けつつある状態の精霊達を助ける為に立ち止まらず、先ずは動く事。
そして、友二人を助け、出来る事ならば彼の国の王や国民達を、襲い掛かって来る敵国の脅威から遠ざけてやる事。
──私にできるのはそれくらいだけだ。
「…………」
……例えどんな理由があったのだとしても、彼の国の者達の一部が、私の『約束』を破ってしまった事に変わりはない。
だがしかし、間違えてはいけないのが、それは一部の者達が引き起こした事であると言う事である。
つまりは、みんながみんな、同じではない。決して、一緒くたに考えてはいけない。
一人一人考え方が異なり、感じ方は異なるのだ。
国がそうであったから、そこにいる国民全てが罰を受ける必要があるのかと問われれば──当然、私は無いと考える。
……だから私は、魔法使いとして、私が感じるがままに、泥臭くとも動き始める事にしたのであった。
余計な事はもう考えない。少なくとも、このままここで静観している事もまた有り得ないだろう。
だから私は、私のやりたいようにやるのみである。
「──エア、バウ、共に来るか?」
「うんっ!もちろんっ!」
「ばうっばうっ!」
──私の傍で、大切な二人が微笑んでいる。それに勝る心強さはあるまい。
……そんな何よりも強い支えを感じながら、私は再度あの国へと向かう事にしたのであった。
またのお越しをお待ちしております。




