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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第4話 礼。

2022・09・24、本文微修正。



 『よく眠れたか?』という私の日常的な挨拶に、彼女はコクリと小さな頷きを返した。



「…………」



 ……どちらかと言えば、私も口下手な方ではあるのだが、彼女もどちらかと言うと私と同じ気配を感じさせる。であるならば、私の方から積極的に彼女へと話しかけていく方が会話も自然と進むだろうと考えた。



「どこか身体が痛くはないか?腹は?」


「うん、痛くない」


「机に置いてあった食料は──」


「もう食べたっ!……けどまだ、お腹減ってる……えへへ」



 彼女は私の言葉を聞いて自分の空腹を思い出したのか、そのお腹からはまた急に『ぐーーぐーー!』と素直な欲求を響かせた。無邪気な微笑みも添えて。

 ただ、その様子はまるで花が咲き誇るかのように美しいハニカミで、目の奥に窺える食欲の光が『ビカビカ!』とぎらついていても尚、美しかったのだ。


 ……まあ、兎にも角にも、これはまだまだ食べそうな雰囲気はかなりあった。



「……また、果物と干し肉が良いか?それとも何か他の――」


「おにくッ!あっでも、赤いやつも!いっぱい!あれ美味しいッ!」



 すると、彼女は私の言葉に食い気味で答えながら、興奮気味に手をわきゃわきゃと動かしては、それがどれほどまでに美味しかったのか、食べて感動したのかを言葉足らずまま必死に伝えようとしてくる。……そうかそうか、それほど気に入って貰えたのならば、期待に応えざるを得まいと思う。



 因みに、彼女が言った『赤いやつ』と言うのは、形がリンゴの様な果物で中身は桃の様に柔らかく、味はまるで花の蜜を集めたかのように蕩ける甘さを持った『ネクト』と呼ばれる私の秘蔵の『秘境産果物』の事である。



 一般にはほとんど流通していない特殊な果物で、とある秘薬を生成するための大事な素材の一つだったりするのだが、そのあまりの希少さからそこらの弱小国家では国と引き換えにしても絶対に手に入れる事が出来ない『幻の果物』であった。



 まあ、私の場合は直接採取できるポイントを密かに知っているので躊躇することは一切無い。なくなったならばまた取りに行けばよいの精神で、彼女の目の前へドドンと積み上げてに好きなだけ食べさせることにした。もしもこの光景を見ていたならば、周辺の王族は皆揃って泡を吹いて倒れるに違いない。



「だいぶ気に入って貰えたようだ。良く噛んで食べなさい。喉が詰まったらこの水も飲むといい。傍に置いておくぞ」


「うんっ!おいしっ!これあまいのっ!すごい!」


「そうかそうか」



 ちゃんと言葉が通じているのは嬉しい事であるが、彼女の受け答えはやはりどうにも幼さが目立った。見た目は既に成人していておかしくない様に見える為、若干のギャップを感じざるを得ない。


 これでは本当に『幼子』を相手にしているかのようであると感じた。

 ……何か理由でもあるのだろうか。



「モグモグモグ。むふーっ!んーおいしぃー!」



 だが、嬉しそうにネクトに噛り付き、身体を左右に揺らしながらとても幸せそうな顔で食べている彼女の姿を見ていると……まあなんだか、それら全てがどうでも良く感じてしまう。


 不思議な点はあるものの、あの顔を見ているとそれだけで余計なあれこれを詮索する気もなくなった。


 友曰く、『女性とは神秘の塊であるとの事。あるがままを受け止めよ』と、私の教訓もそう言っているのだ。それが真理だろう。



「…………」



 そもそも私は、これまで『同族の淑女達』からは様々なダメだしを受けて来たので、あまりこの手の繊細な問題(年齢等)は深く追求せず、深くは考えてはいけない事も身に沁みて知っているのだ。


 耳長族(エルフ)の女性たちは総じて美しいが……(小声)ここだけの話、相応にプライドも高く、性格的に苛烈な者もわりかし多い。もちろん個人差はある。



 友曰く、こちらに対して淑女達がずけずけと物申すのは良いが、その逆は『デリカシー』と言う魔法のバリアで守られており、余計な事は決して言うべからずと、どうやらそれを無視すれば酷い目にらしい。……また、『恋人』が出来た場合には、それこそが長続きする為の秘訣でもあるとか。



「…………」



 まあ、私はそこまで器用な人間ではないので、とりあえずは相手が『不快感をあらわにする』まではそのまま様子を窺って待つタイプである。


 だから、自然と目の前にいる彼女に対しても『幼子』に接するかのように対応してしまってはいるが、彼女がそれを『嫌だ!』と言うまでは『そのままでもいいだろう』と思ってしまった。




 しかし、もしもの話で、こんな風に私が彼女と接している所を、礼儀作法に厳しい同族の淑女達が見ていたならばその時は雷が落ちるのはまず間違いないだろう。



 何がいけないのか……未だに私にも良く分からない事が多々あるけれども──。


 『どんな理由があろうとも女性に対しては、常に耳長族(エルフ)の男性達は皆、『紳士』でいなければいけない』らしく、それを侵してしまえば『貴方は女性を馬鹿にしているのですか?』と激しく叱責されるのはまだ序の口で、終いには無法とも呼べる拳や魔法が雨あられと飛んできては肉体言語でちゃんと説教されるのである。(経験済み)。



「…………」



 ただまあ、これだけを聞くと、聴き様によっては悪くも聞こえてしまったかもしれぬが、耳長族(エルフ)は森で生きる種族の一つであり、規律を重んじ互いの個を尊重し合う事を何よりも大事にするからこそ……そういう考え方がある事も理解はしておいて欲しい。女性達は男性達よりも多少その気が強く、敏感でもあるというだけの話だと。



 耳長族(エルフ)は人一倍プライドが高く、常に敬語を使って話してはいるのだが──中々に他種族と打ち解けようとせず、どこか上から目線で冷たい感じがするのだと、一般的にはそう思われがちなのも、単に『礼儀』を重視しがちなだけで、他種族だけではなく自分達にも厳しく規律を重んじているだけと。



 それに、生まれた時からそんな環境で育つので、どうしても他種族の気安い会話や態度にも慣れず、初対面では逆に他種族が軽薄に見えてしまい敬遠しがちにもなってしまうらしい……というのも分からなくはない話だと思うのだ。



「…………」



 まあ、そんな環境で育ったにも関わらず、何故かそんな『礼儀』作法が全く身につかなかった私と言う『変わり者』もいるのだが、それはまた別の話。


 ──ごほん。話が長くなったものの、結局はそんな訳で、元々そこまで礼儀作法に通じている訳でもない私にとって、『幼子』とのやり取りで済む彼女との対話の方が、他の淑女達を相手にするよりも実は幾分も気が楽だったりはするのである。



 『故郷の森』での事も思い返せて、私は自然と彼女と接しているだけで懐かしい気持ちになり、癒されたのだった。



またのお越しをお待ちしております

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