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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第395話 浅慮。




「『精霊をどう思うか』、ですか?」



 私の問いを聞いた王達は、その言葉の意味を深く考えようとしているのか、少しだけ沈黙した。

 ただ、最終的には情報を欲したのか、魔法に関係している分野の話だと判断し、『宮廷魔導士長』の方へと彼らの視線は集まっている。


 彼らが精霊をどう思っているのかその仕草だけでもう伝わってくるようだが……まあ、とりあえずは話を聞いてみようかと思い、私は耳を澄ませる事にした。




「──精霊とは、そうですね。世間一般に伝わっている情報から申しますと、魔法に愛されし者達とでも言えばいいでしょうか。それと同時に自然の管理者でもあると私達は捉えています。その姿は目には出来ずとも、我々の傍には必ず居るだろうとされておりますな。そして、稀にですがその存在を感知できる者がおり、そんな精霊達と『契約』を結ぶ事によって、彼らからその『力』の一部を借り受け魔法を使う事が出来ると言う『精霊魔法士』と言う魔法使いが現れると言う事があります。また、近年では多少あやふやな部分はあるものの、例の『マテリアル』と言う力が台頭してきた結果なのか、精霊達の存在を感じる事が出来る者も増えてきたとか……そうですな。だいたい私が知っている情報としたらこれくらいでしょうか」


「……なるほど。それで?その情報を得ているこの国は……いや、王は精霊に対してどう思っている?」



 そこで『宮廷魔導士長』が語ってくれたのは、ただの客観的な情報に過ぎなかった。

 その為、私は再度同じ質問を王達へと繰り返す。


 ただし今度は、確りとこの国の代表者である王へと視線を向け『君が代表で語ってくれ』と視線で促しておいた。



 すると王は、『宮廷魔導士長』から聞いた情報を自分の中に落とし込んでいるのか、何度か頷きつつも考えている様で、それを元に『精霊を自分がどう思うか』『精霊に対してこの国がどうあるべきか』を考えている様子である。



 ……ただ、その様子だけでこれまで精霊に対して気にした事が無かったと言うのが一目で分かってしまった。

 だが、流石にそこまで彼につっこむのは可哀想な話である為に、私は彼が答えを出すまで静かに待つ事にしたのである。



「…………」



 それに、私の隣からは友二人分の無言の圧も感じる。

 チラリと見ると、友レイオスと友ティリアが訝し気な視線を私へと向けており、『ロム、なんで今、そんな話をするんだ?』と、その視線は物語っていた。

 ……理由が分からず、心底不思議に思っているように見える。



 森で暮らしていた二人からすると、精霊達の存在は王達よりも身近に感じている筈なので、その存在自体は疑う事は無く、信じてはいるだろう。

 だが、正直その姿が見えていないと言う部分では同じな為、精霊達についての理解はそこまでは深くないのである。



 だから正直な話、王達や友二人からすると、私が協力するか否かの件において、なんで態々『そんな精霊なんて言うあやふやな存在の事を持ち出してきたのだろうか』と、疑問に思っているのだ。



 『精霊と何の関係があるのだろうか』と。

 『そんなに精霊が大切なのか』と。

 『まさか、その力は精霊に関係があるのか』と。



 そんな風な事を考えていそうな彼らの様子を見て……私はこの場で一人、ただただ悲しくなった。



「…………」



 『旦那……』『……わたし達の事はいいのに』『……うん』『…………』



 そんな私の背後には、今日もまたいつもの様に四精霊達が居る。

 そんな彼らは、少しだけ寂しそうにしながらも、『それは仕方がないよ』と受け入れている表情をするのであった。



 『精霊達がどんな存在なのか』、その全てを私も知っていると言う訳ではないだろう。

 知らない事だってまだまだ多くある筈だ。


 だがしかし、それでも私が知っている事と彼らが知っている事では、大部大きな開きがあるのである。

 ただそれを言葉で伝える事は、感覚に『差異』があると、大変に難しいのだ。


 感じる事も干渉する事もできない関係に、それ以上の何かを求めるのはとても難しい事である。

 それは、知らない分野や、興味のない分野を、他者に無理矢理に好きになれと言っている事に近い行為と言えるかもしれない。


 私が少し前までエア達へと一切の干渉が出来なかった事もあったが、あの距離感は本当にどうしようもなく遠く、そして、言葉では言い表せない程に寂しい感覚なのである。



 最初にその存在を感じられているならばまだしも、全く見れず感じ取れない精霊達を、私と同じ位に『この寂しさを一緒に感じてくれ』『精霊達をもっと愛してくれ』と皆に必死に訴えかけても、当然思った様な理解はされないのが道理なのだ。



 ……これを覆そうと、私は数百年と言う人生の中で、何度も挑戦してきては失敗してきたのである。

 そして、その度に何度も思い知らされてきたのであった。


 私が口下手である事も原因の一つとなっているのだろうが、何ともままならぬ悔しさばかりを感じてきたもので、その度に私の考え方も少しずつ変わっていったのである。



 『無理に他者へと理解を求めるのは間違いである』と。

 『考え方や感じ方は人それぞれなのだから、自分の考えを押し付け過ぎずにそれぞれの感性を大切にするべきなのだ』と。



 だから、そう生きていく内に、いつの間にか私は周りへと理解を求める事を諦めてしまっていたのであった。……友と話す時にすら控えていた様に思う。私は自分の力の無さを痛感する事しかできなかった。



「…………」



 だがしかし、その代わりとして、他の誰よりも精霊達の事を大切に想う事を私は心に誓ったのである。



 魔法使いとして、私が力を求めるきっかけになったのも、実はこれが理由であった。


 ──そう。最初のきっかけは『精霊達を守りたいが為』だったのである。


 誰にも気付いて貰えない彼らを、誰にも守られない彼らを、せめて私一人だけでもいいから守れるようになりたいと、そう思ったのである。



 そして、彼らの優しさや、その生き方を知るにつれて、私は増々その想いが強くなった。

 一人でも多くの精霊達を助ける為に生きていきたいと、考える様になったのである。



 だから、私のこの『力』の大元は、『精霊達』の存在が切っても切れないものなのだ。

 私は彼らの為に力を使いたい。大切な者達以外の為には、この力はあまり使いたくないのだ。


 ……だからその為、王達にも尋ねた訳なのである。

 『君達は精霊の事をどう思うのか』と。



 ここで態々尋ねたり、面倒な事をしたりせずに、私が素直に精霊達の事について説明していれば、すんなりと王達にある程度の理解は得て貰えたのかもしれない。

 それをしていれば、それをきっかけにしてこの国の者達も精霊達の事を大切に考えてくれる様になったのかもしれない。



 だがしかし、結局それは私の力に興味があったから、精霊達にも興味を持つ様になったと言う、そんな話なのである。

 だから私としては、正直そんな微妙な考えしかない者達は信じられないと思ってしまったのだった。


 表面上だけを取り繕って『精霊達の事は大切に想っています』なんて言われても、『嘘つけ!』と即座に返答したくなるのである。



「…………」



 そして今、考え込んでいる王の姿を見るに、まさに現状はこれまでのパターンとそう変わりがない事を簡単に予想ができてしまった。……正直言って、彼らも今まで興味を抱いた事がなかったのだろう。

 自然がそこにあるのと同じ様に、姿が見えない精霊達の事も『ああ、そこら辺に居たのか』位にしかきっと考えていなかったのである。


 ……ならば、これまで通りでいいではないかと思うのだ。

 分を弁え、多くを求め過ぎず、ほどほどでいいではないかと。

 答えの如何によっては、『私の力は君達の為にあるわけではないのだ』と、ハッキリと伝えるつもりであった。


 だから私としてはあまり期待はせずに、王がどういう事を話すのかと待ち続けている訳なのだ……。



「……余からすると、精霊とは神秘に近い」



 ──すると暫くして、王はゆっくりと語り始めた。


 そして、彼は考えた結果、『これまでその存在は、触れて良いものなのか悪いのか。知って良いのか悪いのか。それすらも分からぬ神秘であった』と。


 『……ただ、理解する機会が今回与えられるのであれば、精霊達の事を今後はもっと知っていきたいと考えている。そして、この国に彼らの力を貸して貰えるのであれば、精霊達の事もこの国で確りと守れるように制度等を整えていきたい。──そうして、いずれは精霊達と我々で互いに支え合い、守り合えるような良き関係を築いて、共に良き国へとしていけたら……』と、そう答えたのであった。



「……そうか」



 当然、そんな彼の答えを聞いて私がまず思ったのは『……やはり、そんなものだったか』と言う、そんな小さな失意である。

 と言うか、初めからそもそもあまり期待はしていない為、そこまで残念には思ってはいない。


 ……だが、想像以下(・・)ではあったので、話はこれでもうお終いにしようと思う。私から言いたい事も、もうあまりなかった。彼に尋ねたい事も無くなったし、力を貸したいとも思えなくなってしまったのである。



「……話はここまでにしよう。それでは、私は失礼させて貰う」



「──あっ、いや、待って欲しい!この国はきっと、精霊達にとってもより良い国になる。そうなるように力は尽くすつもりだ!余は、その力を誤った方へと使ったりはしない!皆が幸せに暮らせるように良い方へと発展させるとっ……」 



 私が席を立ち、部屋の出口へと身体を向けると、背後からは驚いた様な息を飲む音と、王のそんな焦ったような声が聞こえて来た。

 ……彼らからすると、『何がいけなかったのだ!?』と言いたい気持ちなのかもしれない。

 なので、このまま行かせてはいけないと思ったのか、急いで引き止めていると言う訳である。



 だがまあ、私からすると、彼らのその答えは期待していたものではなかったので、受け入れる事は出来なかった。

 ……正直、言葉を尽くせばいずれは理解できるかもしれないが、まだまだ手を取り合う日は遠いだろうと思ったのである。



 何しろ、彼らは少し都合よく精霊達の事を捉えすぎている部分があった。

 そもそも精霊達は生きているのである。心だってちゃんとあるし、好き嫌いだってちゃんとあるのだ。


 なのに、彼らは精霊達の『力』にばかり目がくらんでいるのか、基本的な彼ら自身の事について、全く考えが及んでいない。


 精霊達は物ではないのだぞ?……それが本当に分かっているのだろうか。

 魔力や『マテリアル』の様な、そんな都合のいい『力』の一つみたいに考えてはいないか?

 姿が見えないからと言う理由があったとしても、それは流石に認識が甘すぎると思ったのだ。



 先ず、精霊達の住みやすい国とはなんなのか、それも少し考えてみれば王達と精霊達では目指す先が異なる事が直ぐに分かるだろうに……。



 君達はこの国を自然の中に戻したいのか?

 更地にして、木を植え直すか?建物を壊して、ここに大きな泉でも作りたいのか?

 ……いやいや、恐らくはそんな考えは一切ないだろう。


 精霊達や私の『力』を、ただただ自分達の良い様に扱いたいだけなのが、透けて見えてしまっているのである。

 当然、そんな誘い文句にのる精霊達ではないし、私も嫌だ。

 現状、精霊達を食い物にする事しか考えていないこの国の王達からは、逆に私が精霊達を守りたいとさえ思ってしまっている。



 正直、そんな薄っぺらい言葉を聞かされて、話すんじゃなかったと後悔する気持ちの方が私は強くなった。

 ……まあ、元々こうなるんじゃないかなとは思っていた訳だし、期待もしていなかった訳なのだが、流石にこの話をすると、どうしても私は無性に大切な者が軽んじられている様に感じてしまい、イライラとしてしまう。

 


 だから、とりあえずは一旦、冷静になる為にもここは距離を開けておくべきだろうと思ったのだ。

 こんな状態のままで、王達とこれ以上言葉を交わせばきっと拗れるだろうと判断し、私はさっさと部屋を出る事にしたのである。



「…………」



 去り際、引き止められる声が幾つも聞こえてくるものの、私はそれらを全部無視した。

 すると、その際にチラリと横を見れば、友二人が既に私の事を察してくれているような顔をしていた為、私は彼らへと目配せをして後の事を頼む事にしたのである。


 ……友二人は、その目配せに気づくと、小さく肩を竦めて『了解』の合図を返してくれた。

 『いつも面倒をかけて、本当にすまん』と、私は心の中で友二人に謝っておく……。



 王達とはもう話したいとは思わないが、後ほど友二人が来たら、私の素直な気持ちを伝えようかとは思った。……エア程に理解をしてくれるとは思わないが、二人ならばきっとわかってくれそうな気がする。



 結果的に、またこの国の王族達とは微妙な関係になりかけてはいるけれど、こればかりは仕方のない話であったと思う事にした。

 ……だが、どうしても晴れないモヤモヤとした気分があり、私は無性にエア達へと会いたくなったのだった。




またのお越しをお待ちしております。

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