第394話 希。
友ティリアの小さな溜息が聞こえると、心臓がキュッと小さくなっていくような感覚は覚える。
チラリとその顔を見るに、彼女の声が聞くまでも無くここまで伝わって来るようだ。
──『ロムあなた、とんでもない事をやってくれたわね』と。
王達からしても、そんな力があるのであればこれは見逃す手はないぞと、勧誘にも熱が入っていた。
「……それでどうですか?我々の、そしてこの国の、三人目の『相談役』として一緒に支えてはくれませんか?」
「魔力の増加は、調べさせた所既に民衆にも広がっていると言う話だ。その情報は今更を止めようがない。噂は広がるだろう。恐らくは他国にも伝わる。それどころか今後、目を付けた様々な輩から狙われる事にもなりかねんぞ。だから、この国であれば其方や、其方の弟子であるあの鬼の娘の事も守る事が出来る。よく考えてみて欲しい」
「国民一人一人の魔力量が増加すると言う事は、それだけ個々の力が上がると言うだけではなく、この国の国力そのものの増加にも繋がります。周辺諸国からしても、この国の力が高く強いと知れば態々攻めて来ようともしなくなるでしょう。結果的に、戦争の回避にもなります。ですからどうか、平和の為にもこの国に仕えて頂けないでしょうか?」
「それとどうか、その魔法技術をこの国の更なる発展の為に──」
──みたいな話がずっと続いていた。
……まあ、話は分かる。
彼らからすると、様々な観点から私と言う『力』をこのまま野放しにしてはおけないと思う状況なのだろう。
他国に取られるのは不味いと考えるのは勿論として、この国の発展の為に使えるなら、搾れるだけ搾り取りたいと考えているに違いないのである。
私も、国の代表者であるならば当然それ位は考えるべきだと思うし、それを考えられる存在だからこそ、彼らがその立場を任されている事もわかってはいた。
そうでなければ、彼らはこの場に居ないだろう。
ここで、こうして実際に行動している事こそがまさに彼らの存在理由なのであった。
呑気に指を咥えて無駄な時間を浪費するだけの愚かな輩に、国の運営や発展など任せられるわけがないのである……。
ただ、それとは別に、この場に友二人が居る事は純粋に彼らの優しさであり、配慮でもあると私はわかっていた。ちゃんと私と友二人の関係を考えてくれているのである。それだけは本当に有難い話だと思った。
ただ、私はこれまで、他国でも似た様な状況になった事が幾度もあり、その度に断ってきたと言う経歴を持つ。
その際、最初はそんな素振が無かったとしても、最終的に力尽くでもどうにかして手に入れようとしてきたり、無理してでも拘束して来ようとする者達ばかりであった。
国と言う『強い力』を持っていると、それを揮いたくなるものである。
手に入るのが難しい物だとしても、無理を通せば手に入れられるとなった場合、強引な思考に染まってしまうのを止められない時もあるのだ。
だからそれを思うと、如何に今彼らに思いやりがあり、優しく見えたとしても最後まで油断は出来ないとは思っている。
……当然、王達と友二人が私の事を無理矢理捕まえようとしてくるなんて、そんな状況も決してなくはないのだ。彼らからすれば、それは限りなく善意に近い行動であるのだから。
まあ、だが余程の事が無い限りはないとは思うけれど、私は一応そんな警戒も心には秘めていた。
ただ、流石にこの国は違うと……そうではないと思っていたい。
ここは友二人が居たいと思った国であり、思いあう心を持つ者達が多く生きる国なのである。
彼らが、自分達の事だけではなく、亜人である私達の事までを考えて国づくりをし、先を見据えている事も十分に分かっていた。
──だから今回に限っては、少し私からも彼らに対して一歩だけ歩み寄ってみようかと思い、ちょっと試しに幾つか訊ねてみようと思ったのである。
これからする質問は、普段であれば全く聞く事がないものだ。
それに、もしかしたら友二人にも私からはその手の話をあまりした事がないかもしれない。
なので、もしその答えに彼らが望むような答えを返してくれるのであれば、その時には何かしらで協力をする事も吝かではないのかも、と私は思っていたのであった。
……思い遣りには、私も思い遣りで返したいと思う。
と言う訳では、早速私は彼らに尋ねてみる事にしたのであった。
『幾つか質問したい事があるのでそれに答えて貰えるだろうか』と、先ずは前提を述べてから……。
『その答えによってはもしかしたら、協力する事も考えるかもしれない』と、私のそんな正直な気持ちを彼らに伝えたのである。
そうすると、私のその言葉に対して王達は自信があるのかニヤリとした笑みを浮かべて、友二人は不思議そうな表情をして首を傾げたのであった。
……王達は私に対して手応えを感じる機会を得られたと思ったのだろうか。
……友二人に関しては、初めて耳にしたから純粋に疑問に感じているのかもしれない。
ただまあ、正直言えばこれから本当に質問をするわけだけれども、あまり期待はしていなかった。
そもそも、この質問があまり他者には受け入れられないものである事を私は察しているのである。
ほぼ九割以上……は、望む答えが得られる事はないだろうとは内心で思いつつも、私はこう尋ねてみたのであった。
『──君達は、精霊の事をどう思うのだろう?』かと。
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