第390話 挑。
「何で引き受けたのよっ!それも口下手のロムがスピーチでいったい何を話すの!というか話せるの!?わたし見た事ないわよ!あなたが数分間も喋っている所なんて!」
「俺も無いな」
「それもあの子達ってこういう時の悪巧みは昔から徹底しているから、きっとやる気満々だわ!だからロム、あなたとんでもない高所に立たされた状態で、大勢の人達に見られながら話す事になるわよ!そんなのできる?無理でしょ!出来る光景が思い浮かばないわっ!」
「……まあ、『高所の耳長族』と言う名に相応しい状況にはなるだろうな」
「……す、すまぬ」
私達が王達との話し合いを終えて客室へと案内されると、暫くして友二人が突撃してきた。
そして、私はそれからずっと友二人からお叱りを受けているのである。
友(淑女)曰く、『王と宰相と騎士団長と魔導士長はね、あいつら昔からただの悪ガキ四人衆で、事あるごとにやんちゃしてばっかりなのよ!ほんとはただの悪戯坊主達なんだから!まったく困ったものだわ!』と。
友曰く、『まあ、昔から色々と厳しく指導はしてきたので能力だけは高いのだが、そのせいでか大人になってから悪戯もより一層上手くなってな。俺達の事を師匠扱いしてよく持ち上げてくれる様にもなったのだが、その分人使いも荒くなったんだ』と。
友(淑女)曰く、『でも、困った事があると直ぐ相談してくるし、泣きついて来るのよ!ほんと困った子達なんだから!』と。
友曰く、『まあ、でも何だかんだ国の事を考え良くやってはいる。それにあいつら同士の仲は昔から良好なんだ。だから他国である様な派閥争いみたいなものが無いのは良いな。だから、ここは俺達にとっても居心地は悪くないんだ』
……と言う事らしい。
それに、友二人の事を大事に思ってくれているのも本当らしく、所謂『亜人』達でも住みよい国にしようと頑張ってくれているのだとか。
人種によって差別がある国も多い中、この国が多くの者達で賑わっているのも、ちゃんとした理由があるのだと言う。
そして、そんな国の礎を、彼らと共に作り、支え続けて来たのが、この友二人なのである。
……そりゃ当然、この二人のこれまでの貢献度を考えれば、称号の一つや二つは贈って当たり前だろうと皆が思うだろう。
──だがしかし、当の本人達からすると、実はそこまで称号に対してあまり良い想いを抱いてはいないらしく……
「──『至高の耳長族』だっけ?わたし達、そんな仰々しい称号なんて要らないわよ?別に偉いわけでもないのに。正直、それだったらもっとお休みとか多くなった方が嬉しいし、お金もっと貰って甘いものとか美味しいものとか食べる方が絶対に楽しそうだわ!──ねえ、レイオスもそう思うでしょ?」
「──ああ、そうだな。俺も個人的な趣味に時間や金を費やしたいと思う。それに、そもそもだが、その称号だと周りのエルフ達に勘違いされそうだしな。僭称が過ぎるだろう。俺が客観的に聞いたら、『なんだそのエルフ達。ちょっと調子乗り過ぎじゃねえか?』と思うぞ。お前はそうは思わないか、ロム?どうだ?よく考えて欲しい」
「……お、思うかも、しれないな」
「でしょう?だから、前々から断ってたのよ。必要ないわよって。でも、それにも関わらずあの子達も全然諦めないから、それならもうあなたを巻き込んで、貴方からもはっきりとあの子達に『ダメだ、良くない、要らない』ってきっぱり断って貰おうと思ってたのよ。それならば完全に諦めるって話もあの子達との間でついていたのに!それをロムが……」
「……まあ、お前ならば必ず断るだろうと思っていた俺らにも責任はある。まさか丁度あんな忙しい時分にお前が国に来るとは思いもしていなかったから、碌に説明も出来なかったのが痛かった……」
「そうね。でもまさか先に行っててとは言ったけど、即行でロム達があの部屋に連れ込まれるとまでは想像もしていなかったわ。……普通にあの子達だって忙しい筈なのよ?それなのに、どれだけこの件に関して本気だしてるのって思わない?ほんと抜け目ないわねあの子達」
「だがそれにしても、ロムがああもあいつらの思い通りに誘導されてしまうとは思わなかったぞ。……まったく、お前らしくもない。どうした、身体が縮んでから考え方まで変わってしまったか?……それも、なんだか絆されてもいたそうだな?あいつらはニヤニヤとしていたと聞いたぞ」
「それよね。ほんと予想外。大人の時なら不愛想な態度で中々な威圧感があったかもしれないけど、子供の状態だと無愛想でもなんか可愛らしいだけだって言ってたわよ。それに『思っていたよりも、チョロかった』『簡単に了承して貰えました』ですって、さっき帰りがけにあの子達に言われちゃったわ」
「……す、すまぬ」
……ぐぬぬ、なんと言う事なのだ。
私はどうやら彼らの掌の上で転がされていたらしい……。
『やっぱり王城なんて来るべきではなかったのだ』と私は強く思った。
だが友二人にしても、断りたかったのならばもっと分かり易いヒントが欲しかったのである。
『──ロムがきっと、それを嫌がると思うから』では分かり難いのだ。
私はてっきり別の意味あるものだとばかり。勘違いしてしまったのである。
本当はもっとちゃんと説明して貰えていれば私だって上手に対応できていた筈で──
「──はぁー。だがまあ、決まってしまったものはしょうがあるまい。ここでロムを弄っていても結果は変わらない。こうなったら甘んじて俺達も称号を受け取るしかないな。……だが、『至高の耳長族』だったか?……うーん、俺はちょっと響きが気に入らんがなぁ」
……えっ、良い響きじゃない?
「まあ、仕方ないわね。受け入れましょう。……あと、因みに言っておくけど、どうやらわたし達とロムだと本当に称号の意味合いが違うらしいわ。ロムは本当に『高所の耳長族』と言う事みたいよ。当日はその称号に恥じぬように相応しい立派な高台用意しておくってあの子達張り切ってたから」
……えっ!?嫌である。
「だからまあ、後俺達から言えるのは、当日のスピーチを是非とも頑張ってくれと言う事だけだな。……因みに、俺達のスピーチはないらしい」
……えっ!?どうしてなのだ!!
「わたし達の場合はこの国の人達にだいぶ認知されているから、今更するまでもないって感じなんでしょ……でも、ロムの場合そうじゃないから。だから一緒に称号を貰う前に、みんなにあなたが誰なのかをちょっとだけ知って貰おうって考えみたい。わたし達との昔話にどれだけの効果があるのかは分からないけど……。きっとあの子達からしたら、それで少しでもわたし達の恥ずかしい話でも引き出せたら嬉しいって感じなんでしょ?本人達は散々わたし達にやんちゃな姿を晒しているから、今回はきっとそんな悪戯なのよ。まったく……はぁ、でもロムからはいったいどんな話が聞けるのかしらねぇ、そこだけはわたしも楽しみにしておくわ」
「俺もだ。……ロム、頑張ってくれ」
「…………」
……正直言って、やりたくなくなった。今すぐに帰りたい気分である。
だが、引き受けてしまったからにはもう、やらざるを得ないだろう。
ここで引く事は、単純に友二人にも迷惑をかける事になる。
……何よりも、国がどうとか、王やその側近達がどうとか言う前に、私がこの二人に対して真摯でありたいと思った。
少し勘違いしてしまった部分はあったけれど、何にしてもこの二人は私を頼ってくれたのである。
……それに対して上手く応える事は出来なかったものの、この二人から逃げ出したり裏切る事だけはしたくないと思ったのだ。
──だから私は、に、苦手ではあるけれども、スピーチをする事とそこから逃げない事を、決めたのである。
……ち、因みにですが、当日はメモを見ながら話してもいいんですか?……えっ?ダメなのッ!?ぐぬぬぬぬ……。
──だがそれでも、何とか頑張ってみよう、とそう思った。
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