第385話 赤恥。
「見てレイオス!この子の目付きと、この面白くなさそうな表情!!完全にロムそっくりよ!」
「ああ!これは驚くべき事だ!まさか、ここまでそっくりだとは!!おもしろい!!」
「ねえ君、どこの森の子?もしかしてお父さんはエフロムって名前だったりしない?……あっ、もしかしてロムの隠し子かしら?」
「いやまて、奴はそんな器用な奴ではないぞ。むしろ口下手と不器用の権化だ。隠し子と言う線は薄かろう。……だが、そうすると、相手は誰だ?」
「んー、それはやっぱ、あの鬼の……エアちゃんとの子供になるんじゃないの?」
「そうか、あの鬼のお嬢さんがいたか!……ん、だがまて、この子、この太々しい態度も含めて、あの鬼の娘に似ている部分が一つもないぞ。殆どロムの成分で出来てそうだ」
「……うーん。たしかにそうね。可愛らしさもないわ」
「だが、これだけ似ているからやはり奴の子で間違いはないだろう。……でも、まさか奴にも子供が出来る日が来るとはなぁ……」
「……その気持ち、わたしもなんかよくわかる。ロムだもんね。信じられないよ」
「ああ、ロムだからな」
「あんな不器用鈍感男の方が先にお嫁さん見つけたとか考えると……なんかむかむかしてくるわね。ちょっと言葉にしがたい気分」
「うんうん、わかるわかる」
「…………」
……私の事を持ち上げたまま、この二人はいったい何を好き勝手に先ほどから言ってくれているのだろうか。
と言うか、この二人明らかに確信犯だろう!私だと分かっていてこんな事を言っているのだ!
一見まるで私の子供だと勘違いしている風を装っているが、私が先ほどからジト目で見つめていると嬉々として話し続けているから間違いがない。この際だからと思って、言いたい事を言いたいだけ喋っているのである。
……まあ、久しぶりに会ったわけだし、この二人が楽しそうなら一通りこの楽しみが終わるまでは私は静観しているつもりだけれど、状況が分かっていないエア達はキョトンとしてしまっているではないか。
この二人は敢えてエア達にも聞こえる声量で話しており、時よりその横目ではエアの様子もチラチラッと確認している為、明らかに全てがわかった状態でエアの事を私の伴侶扱いしてエアがどんな反応をするのか等を面白がりながらやっているのである。
……まったくもう。こんな時ばかり息ピッタリなんだから、仕方のない友二人だと思う。
だがまあ、見た所二人共凄く良い笑顔をしている。若干疲れていそうにも見えるけれど、この街の様子を見ればそれもまた仕方がない事なのだろうな。
ただ、そうやって暫くはそのまま捕まった状態で二人の好きにさせていると、少し離れた所では友二人を見つめて困ったようにしているこの国の文官達の姿もあった。あの苦笑いを見るに、どうやらこの二人はまだ仕事の途中でもあるらしい。
「…………」
だが、あちらに戻る様子が二人にはない。
……あ、さてはこの二人、少し忙し過ぎてちょっと休憩目的で私の事を弄っているな?それを出来るだけ引き延ばそうとしている気がする。
『本当はまだまだ他にもやる事があるのだろう?そうなんだろう?戻らなくて良いのか?』と。
『幾ら不器用鈍感でも、君達がいまサボっている事位は分かるのだぞ』と。
私はそんな想いを込めながら、眼下の二人をジトーっとした目で眺め続けてやった。
……因みにだが、周囲には普通に街の住人達も居るので、二人はかなり目立っても居る。
この街の要人であり、有名人でもある二人は、客観的に見て大変そうだった。
休む暇もないのだろうか
……だが、そろそろ私の事は下ろしてもいいのではないか?そもそもなんで二人で一緒に持ち上げている?私を休憩の為の出しに使う気満々だな君達。隠す気がない。私だって恥ずかしいんだぞ。
──ただ、そんな私の心の声が聞こえたのかはわからないけれど、暫くしてある程度私を弄る事に満足したのか、友二人は今度、傍にいるエア達の方へと顔を向け、さもまるで『今見つけました!』と言うかの如く、話しかけ始めたのであった。
そして、私の事はもう『飽きた!』と言わんばかりにポイっと脇へと投げ捨てると、エアへと矛先を向けた二人は早速挨拶にかこつけながら、『ロムと結ばれて子供が出来たんですか?おめでとうございます!』みたいな切り出し方で、エアの事をも弄ろうとし始めたのである。
……君達、ここ数年でまた随分と腹芸が上手くなったようだな。
なんか嫌な事でもあったのか?疲れてないか?随分といきなりやってくれるではないか。
──だがよしっ、そっちがその気ならば、私もその悪ノリに多少は付き合ってやろうじゃないか。
私は二人の友として、ここでエアにまで私の様な辱めを受けさせるわけにはいかないと、逆に友二人に対して反撃をしてやろうと思い立ったのである。……言わば、悪戯返しをする企みを瞬時に思いついたのだ。
要は、今の幼子みたいな体躯の私だからこそできる悪戯なのだが、先ほど二人から弄られていた部分をそっくりそのまま返してやろうと、少し配役だけを変えてしまおうと思ったのである。
つまりはその内容として、『私の事を子供扱いするのならば、じゃあ、逆に君達の事を親扱いしちゃうよ?』と言う企みで──友『レイオス』を『父』と呼び、友(淑女)『ティリア』を『母』と呼んで、街の住人達にこの二人が実は夫婦になったんですと誤認させてみようかと思ったわけなのだ。
この二人はこの街の要人で有名人なので、二人が良い仲であると知ればきっと周りの者達は大きく盛り上がってくれるだろうと言う狙いがある。
これをする事で、きっと周りの文官達や住人達も驚く事だろうし、友二人も慌てふためいてくれるだろうと私は思ったのだ。
……それに、先にやってきたのはこの二人なのだから、怒られもしない筈である。
──あと、何気に友『レイオス』が友(淑女)『ティリア』の事を幼い頃から本当に愛していると言う事を、現存唯一知っている私だからこそできる、これはちょっとしたお節介でもあった。
もしこの二人の間に何かしらの変化があるのであれば、これできっと満更でもない空気になるのではないかと、なってくれたらいいなと、そんな願いも少しは込めてあったりもするのである。
……まあ、何だかんだと私は、この二人が一緒に居る姿を見るのが好きなのだ。
だから、その為に一肌脱ぐつもりで、傍にポイっとされた私はムクリと起き上がると、早速二人へと意を決して呼び掛をしてみ──。
「ち、ちちよ、はは、よ……私をなげないでくだしゃ……だめだぁ……うぅーむー」
──たのだが、正直言ってこの作戦は、土台に最初から大きな無理があり失敗した。
何故なら、友二人を『父』や『母』と呼ぶなんて、例え演技だとしてもそんな事、私の羞恥心の方が耐えきれる訳が無かったからである。もっと簡略に言うなら、役者不足が過ぎたのだ。
この二人に対して私が子供の素振をするなんて、無理過ぎて言った瞬間から自分でも鳥肌が立ってしまったのである。それにあまりにも恥ずかし過ぎて、途中で思わず噛んでもしまったのだ。
当然、途中でこれ以上は無理だと演技を断念した私は、最後は頭を抱えて唸る事しかできなくなったのであった。
……最初からやらなければよかったと酷く後悔したのである。
久々にこんな場所まで来て、ダメダメでポンコツ部分を態々友二人の前で披露してしまう私なのであった。
「ぷははははは!なんだそれは!どうしたのだロムッ!!」
「あははははっ!それに何で小さくなってるの?あなたまた変な魔法でも開発したーッ?」
──そうして、ここぞとばかりに笑い続ける友二人。
『頼むから、お願いだからもう忘れてくれ!』と、私は何度も心の中でお願いをするのであった。
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