第383話 戦術。
私が兵士達と一悶着を起こしている間に、エア達の方がこちらへと来てしまった。
そして今、私の方を見ながら『何してるの?』と若干微妙な表情をしている。
「……す、すまない」
……私は、直ぐに謝った。
なにせ、本来ならさっさと怪我人達を彼らに引き渡してエアの方に戻るつもりだったのに、予想以上に拗れてしまって遅くなってしまったのである。
それも今、私の頭上には空中で二、三十人程の兵士達がジタバタしている最中で、その前で固まって眺めている私の事を見えば、そりゃ当然エア達としては『何をしているの?』と問いたくもなるだろう。
「……あっ」
──だがしかし、今はそんな私の事よりも、もっと大事な事がある筈だと私は途中でハッとして気が付いた。
私が気にするべきはエア達の方の状況である。
いったい『モコ』との戦いはどうなったのだろうか。
もう倒してしまったのだろうか……いや、でも、それにしては早すぎる。
だが、そうでないとしたら何があったのだろうか。
まさか、無いとは思うがここに居るエアはもう『モコ』に喰われてしまっているなんて事は……
「ないよっ!だいじょうぶだからっ!わたし怪我一つしてない!……えっと、実はね──」
──すると、エアは着ている白いローブを翻しつつ、自分の身体に怪我がない事を私に見せながら、私が去った後の事を教えてくれた。
それによるとどうやら、エアは『モコ』に対し私が絶対にとらない方法で戦ったらしく、その戦術で巧みに時間稼ぎをし、最終的にはそのまま『モコ』の撃退にも成功したのだと言う。
「……でも、『戦術』っていうほど大袈裟な事はしてないよ?」
とエアは微笑みながら言うが、エアがとったその『戦術』とは、なんと信じられない事に『モコと、会話をしていた』のだと言う……。
『なんだそんな事か』と思う者もいるかもしれないが、あの『モコ』と普通に会話をすると言う事が、如何に難しい事かを私はよく知っているのである。
……因みに、これまで一度として私は上手くいった試しがない。毎回直ぐに戦闘になってしまうのだ。だから素直に凄いと思ったのである。
……ただ、エア自身も最初は『モコ』と普通に会話できるとは思っていなかったらしいのだが、戦えばそれ以上に厳しい事なると、思い切って話しかけてみたのだとか。
『ロムが戻って来るまで時間稼ぎが出来ればいい……ロムと一緒に戦えば絶対に勝てる』と、エアは私を信じて覚悟を決めていたらしい。
「──でもロム、全然戻って来る気配が無くて……」
……うぐっ、その一言は本当に胸に痛い。
シュンとしているエアの表情に、私は本当に申し訳なく思い、ぺこぺこと何度も頭を下げた。
すると、エアは『うそっ!冗談っ!』と言って、悪戯な笑みを浮かべている。
「実際はね、すごく話が弾んじゃったんだっ!わたしもびっくりしたよ」
そうして、思い切って話しかけてみるとエアと『モコ』は思っていた以上に話が合ったのだとか。
エアからも『モコ』に尋ねてみたい事があり、『さっき話していた、愚かってどういう事なの?』とか問いかけてみると、意外にも詳しく教えてくれたらしい。……エアからすると、『モコ』はもう普通の人と話しているのと何も大差ないと感じたそうだ。
『普通に楽しかったんだ』とエアは微笑んでいた。
そして、『モコ』に尋ねる代わりに、エアからも『モコ』に聞きたい事を色々と教えてもあげたのだとか。
「『ここはどこなのかしら?』って最初から聞いていたでしょ?だから、この大陸の事も教えてあげたの──」
そうしたら、『モコ』は突然『えっ、うそ……それじゃあ、ここって白銀の……』と呟いたかと思うと、飄々としていた雰囲気も一瞬で消え去り、急に焦ったようにキョロキョロしながら『わたくし、こっちの大陸には天敵がいるから、長居しちゃいけないって言われてたの思い出しましたので、帰りますわぁ~!』と言って飛んで行ってしまったのだとか。
来るときもあっという間ならば、去る時まであっという間だったそうな。
……だが、『モコ』の天敵だと?そんな存在がこの大陸には居たのか?
まさか、赤竜かな?……ふむ、いったい誰の事なのだろう。
「……??」
「──えっ?……ふふふっ、ロム、わかんないの?」
「……うむ、見当がつかないな」
そう言って私が首を傾げていると、何故かエアが嬉しそうに笑っていた。
……だがまあ、結局はそれが誰であったとしても、とりあえずはエア達がこうして無事に戻って来てくれただけで私はホッとしたのであった。
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