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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第382話 拙劣。




 私だけではなく、皆もエアを信じている。

 皆の表情を見るだけで、それが私にも伝わってきた。

 それがまた自分の事の様に私は嬉しく思う。

 ……そんなエアからの信頼に応える為にも、私も私の出来る事をしようか。



 と言う訳で私は、馬車周りで怪我して倒れていた者達を魔法で浮かせると、後方にいる兵士集団の方へと向かって走っていった。……後方にいるあの集団に倒れた者達をササっと渡して、急いでまたこの場所へと戻って来るつもりである。




「──あらぁ~?逃げちゃうの?……でも、簡単に逃げられるなんて思わないでねぇ」



 すると、そんな私の姿を見た『モコ』はギラリと瞳に力を入れ、そんな私の方へと歩いてきた。


 だが、その瞬間エアは横に一歩移動すると、『モコ』の進行方向に立ち塞がり、通せんぼするかのように堂々と仁王立ちしている。

 その立ち振る舞いからは、『わたしがロムを守る』と言う強い意思を感じた。



 ──コテン。



「……痛いっ……」



 少し振り返りながら走っていたら、私は転んでしまった。

 ……いけない、こんな所で転んでいる場合じゃないのだ。


 彼らを運び、後ろから来る集団と話をして彼らが間違ってもこちらへと来ない様に警告をしてから、また急いで戻って来ないといけないのだから。



 正直、気になって仕方がないが、エアを信じて私は私にできる事をしようと思う。



「…………」


「…………」



 ──と言う訳で、早速私は怪我をした者達を連れて後方にいた彼らの仲間だろう兵士達の集団の所へと辿り着いた。


 そして、先ずは彼らへと『君達の仲間が倒れていたのを治療したので受け取って欲しい』と伝えて、彼らをそのまま引き渡したところなのだが、私達の間には何故か不思議な沈黙が続いている。

 ……まあ、彼らからすると私を疑いたくなる気持ちがあるのだろう。

 『こんな所になぜエルフが?』とかなり怪しんでいる様に見えた。



「……とりあえずは、仲間を助けてくれたと言う事で理解はした。……だが、君はいったい何を目的としてこんな所にいるんだ?いや、そもそも──」



 すると、この集団の隊長だと言う男性から、私は色々と質問を受ける事になった。

 聞かれる内容も想定の範囲内ではあったので、私は言葉足らずかもしれないが一つずつちゃんと受け答えをしていく。……当然、答えられる部分だけをだ。



「……ほう、そうか。これも『わからない』と。それじゃあ君は何か?見ず知らずの者達が馬車の周りでナイフに刺された様な傷を負い倒れていた為、持っていたポーションを使って治したと。そして、後方に私達が居た為、親切にもここまで連れて来てくれたのだと。……それから、この周辺は今、そんなナイフを持った何者かが潜んでいる可能性もあり、危険だから、我々にはこのまま来た道を引き返せと、そう言いたいんだな?」


「……うむ、その通りだ」



 ……ただ、私の普段の癖が少し出てしまい、余計な情報を出来るだけ与えたくないと話を小出しにし、答えたくない部分を『わからない』と言ってとぼけていたらそんな説明になってしまった。そのせいで、彼には何やら凄く怪しまれてしまっている。



 でも、既に商人の姿はどこにも無い事もあり、私としては他に説明のしようがない事もまた事実であった。

 『モコ』の事を持ち出しても、そもそもの『モコ』とはなんだ?と言う部分から話さなければいけないし、『そんなものが本当に居るのか?』と半信半疑になるに違いない訳で、大変に面倒な話になるのは目に見えている。



 でも、そんな私の説明下手な部分を彼らは的確に指摘してくるわけで、そこを問い質された私は更に応えあぐねると言う悪循環にもう陥ってしまっていた。



 ……エアの戦いに余計な横やりを入れたくないし、探知は出来なくとも私が見た感じで彼らがこの先に行っても『モコ』にどうやっても勝てなさそうな訳で、危険だろうからと気を利かせて遠ざけようとしているつもりなのだが、全然理解してもらえないのだ。


 この周辺は危ないからこのまま帰って欲しいと何度も伝えたのだが、『帰るわけにはいかない』の一点張りである。

 逆にもう、それだけ行かせたくないのは何か私に疚しい事があるのだろうと、彼らはこの先に行く気満々になってしまっていた。



 と言うか、私が商人の仲間で、商人とその積み荷を逃がす為に今ここで時間稼ぎをしているのではと思われている節さえある。……本当にもう、会話と言うのは難しいものだと私は心から思った。


 ままならない。あまりにもままならないのである。

 こういう時はいつも上手くいった試しがない。

 ……そうして私は心の中だけでしょぼんと肩を落としていた。



 早くエア達の元へと戻らなければいけないと言う気の焦りも多分にあり、いつも以上に私は不器用でポンコツになっている気もする。

 それに、私が隊長と会話をしていると、他の兵士達がこっそりと横から次々にエア達が居る方へと向かおうとしていたので、私はそんな兵士達を全員見逃さず浮かべてしまった。


 『……あー、これこれ待ちなさい。行ってはいけないと言っているだろうに』と、優し気に浮かべただけなのだが、それが逆に兵士達に更に要らぬ警戒を与えてしまった様で──




「──君一人の証言を全て鵜呑みにして帰れる程、我々も愚かではないのだ。魔法を解いてここを通して貰いたい」


「い、いや、断らせて貰おう。君達がこの先に行っても意味が無いのだ。引き返して欲しい」


「意味があるかないかは我々自身が決める事だ。君に指図される謂れはないッ!」


「…………」



 ──とまあ、こんな状況になっているのである。

 ……ううむ、私が口で彼らを説得できる気が全然しない。幾ら言っても兵士達は引き返す気がないようだ。


 と言うか、もう兵士達はなりふり構わず私の隙を見て全力で無理矢理横を通り過ぎようとしたり、私の事を捕まえようとしてくるので、結局は隊長含めて全員浮かべてしまったのであった。


 当然、兵士達は私の前で全員、空中でジタバタとしている。



 『……これ、どうしよう』と言うのが、その瞬間の私の素直な気持ちであった。 



 ただ、そうな風にしていると、不意に私は後ろから肩をポンポンと叩かれたので、クルっと後ろを振り向いてみた──。



「……ろ、ろむ?あの、何やってるの?」



 ──するとそこには、なんと戦っている筈のエア達が全員揃ってそこにいたのであった。






またのお越しをお待ちしております。

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