第38話 真。
森に実りの季節がやってきた、紅葉が広がり、今まで目にしてきた光景が一気に彩を変える。
この季節はその先に待つ寒い季節との移り変わりにある。ほんの少しだけ特別な期間だ。
少し肌寒くはなるものの、食べ物もまた美味しさを増し、エアは精霊達の作ってくれた作物をモリモリと食べている。
最初は食べ過ぎによる体内の魔力変換が過剰になってしまうのを防ぐ意味合いもあって、魔法を学んで貰おうと思ったのだが、最近では魔法に使う分の方が増えて逆に足りないくらいになっている。
今が一番の伸び盛りでもある、モリモリ食べて元気よくいっぱい練習して欲しい。
さて、そうなって来るとやって来るのが第二回のお野菜イベントである。
今回こそはと、実りに実った優秀な作物たちを携えて、精霊達がやる気全開でやって来てくれた。
まあ作る間にその気合の全部を注いでくれたので、イベント自体は緩くエアにみんなで仲良く美味しいお野菜を食べて貰おうと言う、そんな朗らかな内容である。
エアからすると、前回同様、まだ精霊達の姿が見えていないので、美味しいお野菜達が列を成して、またもや自分に食べられに来てくれている様に見えるのである。エア、にっこにこ。
特に今回はサツマイモに似たお野菜が、まるで中に蜜でも入っているんじゃないかと思う位の甘さらしく、一口食べるごとに『んーーー!』と手を頬に当てて喜ぶエアの姿に、みんながほっこりとした。
私なんかよりも精霊達の方が『お料理様』については詳しいらしく、彼らは無理しない程度で私の家で色々と調理をしてからエアへと食べさせている。エアの喜びもひとしおであった。イベントだけの特別な料理と言った所だろう。
ただまあ、精霊達には色々と制約もあるらしく、少し料理をやっただけでも直ぐにくったりとしちゃう者もいる。なので、私は今回その救護班的な役割で、彼らの点滴代わりに魔力を渡して回っていた。
そんな中、このイベントに入れない者達の少し寂しそうな姿がチラホラと見える。
土と水と風のお楽しみイベントと言う事で、火の精霊の男前職人集団がみんなでしょぼーんとした顔をしているし、光の槍も今日は槍ケース型ハウスからひょこひょこっと覗いているだけである。
闇の精霊は今の時間帯はそもそも活動時間外で、きっと今頃はお休み中だろうか。
最近は時々、一緒に月を見ながらお茶を飲む事は多い。
この光景を周りから見えてる者が居たとしたら、これを見てみんなでやれば良いじゃないか、と思ったかもしれない。仲間外れは可哀想だよとも。
だが、精霊達にはそれぞれの領域があり、彼らはみな、それを守り大事にしている。
火の精霊がしょぼんとして見えていたのも、それは次の自分達のイベントはいつやるんだろうのしょぼんであって、このお野菜イベントに参加できなかった、のしょぼんではないのである。
ここらへんの感覚は慣れないと精霊達を勘違いしてしまったり、良かれと思って逆に彼らを傷つけてしまう原因になったりするので、注意が必要だ。
あくまでも彼らは精霊。自然と寄り添う者達なのである。
ただ、それらがちゃんと分かっていれば私達は尊重しあえる。大切な仲間になれるのだ。
彼らの姿が見える見えないの問題じゃない事は、そのエアの笑顔が教えてくれている。
──さて、今回。
前回の反省を活かし、畑の面積を増やして収穫量を倍増させたお野菜精霊ズは、満足したエアの『美味しかったー!』と言う声に勝利に似た何かを得た。
……君達はがんばった。あのエアが満足する程作ったのだから、誇ってくれ。本当にありがとう。とそんな私の言葉に、彼らは目元を潤ませて頑張った甲斐があったなと肩を叩き合っている。凄く嬉しそう。
見れば、収穫物ゾーンにはまだ、美味しそうな取れたてお野菜が沢山残っていた。
今回のイベントですっかりエアのお気に入りになった甘々サツマイモを中心に。その他の美味しいお野菜もまだまだいくつも山になってる程で、今回は完全に彼ら精霊達の準備が勝った状況であろう。
……ただ、なんとなくエアの食べた量が前回よりも少ない気がして、私は後で家に入った後、精霊達が傍に居ない時を見計らってこっそりと聞いてみた。『本当に満足したのか?我慢していないか?』と。
そうしたら、エアは満面の笑みでこう言った。
「デザートがね……いっかいで全部たべちゃったら、もったいないかなって……えへへ」
……そう言えば最近、エアお気に入りの秘跡産果物『ネクト』が在庫切れになってしまい。それを伝えた時、エアはかなりショックを受けていた気がする。……なるほど。学んだのだなエア。
無邪気に笑いつつもそう語ったエアは、少しだけ幼子から精神的に成長している様な気がした。
魔法だけじゃなく色々なものを感じ、色々な経験を経て、素敵で素直な淑女として育って欲しいと私は思う。
因みに、これはまた全然別の話なのだが、耳長族の淑女達に『もう少し素直でお淑やかになってくれれば良いのに』とか、『もう少し言い方が優しくなれば良いのに』とか『淑女って言葉の意味を知らないのかな』とか、そう言った発言内容は、耳長族の紳士達の間で、禁句中の禁句として知られている。
もしそれを言ってしまったら、……まあ、それはそれは男として手痛い反撃を受ける事になると言う事だけ言っておこう。
友曰く『口は禍の元』だとか。この世の真理だと、私もそう思う。
またのお越しをお待ちしております。




