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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第378話 熨斗。




 エア達と赤竜の戦いが一旦落ち付いたのを見計らい、私はすっかりと仲良くなったバウと赤竜の子を一緒に連れてエア達が居る方へと急いで向かっていた。



 ただ、魔法で浮かべているバウと赤竜の子は、浮かんだ状態でも変わらずに一緒にじゃれ合っていてずっと遊びに夢中である。とても楽しそうだ。


 特に赤竜の子はバウに対して助けて貰ったと言う恩が強いのか、親愛の情を示すかのようにずっとバウに抱き付いてはペロンペロンとバウの顔を舐め続けている。そして、それがどうやらバウには凄くくすぐったいらしい。……ずっとご機嫌なまま笑っているので、嫌ではないみたいだ。



 そんなバウ達の様子を見て私はほっこりとしつつ、エア達の方へと転ばない位の速さで足を進めていく。

 正直、向こうの方はまだピリピリとした空気をまとっていて、遠目から見てもとてもドキドキする。

 まあ、つい先ほどまで互いに命を賭けて戦い合っていたのだから、そうなるのはおかしくはないとは思うのだが……。



 ただ、どういう訳かそんな雰囲気になっているのが、エア対赤竜と言う組み合わせではなく、白い兎さん対赤竜と言う組み合わせになっているのが、私としては少し首を傾げざるを得ない光景ではあった。



 野生に生きる者同士として、何かしら感じ合う部分があったのか、赤竜はジーっと白い兎さんを見続けているのである。

 『お前、ずっと私に気付かれずに隠れていたな、強いんだろう?そうなんだろう?戦ってみないか?』と、赤竜はまたもや戦い相手を誘っている様な気配があった。この竜も懲りないものである。



 だが、そこは冷静な白い兎さんであるからして、戦うつもりこれっぽっちも無いらしく、つーんとした態度を貫き通すとプイっとそっぽを向いたまま全く相手にしていなかった。



 ……まあ、身体の大きさだけでみたら赤竜の方に軍配が上がるだろうが、白い兎さんはその小さな体に信じられない程の魔力を蓄え続けているので、もし勝負になったら一瞬で決着がつきそうだと私は内心で思っている。




 ──だがそもそも、この赤竜はよくこんなに元気があるものだと、私は内心不思議に思った。



 と言うのも子育ての時期と言うのは、子供である幼竜にとっても、親の赤竜にとってもとても危ない時期である筈なのである。

 何せ子供はご飯に大量の魔力が必要だし、親はその魔力を与える為に自分の巣でぐったりとしている事も多いからだ。


 ……だからまあ、普通もっと疲れきっているものだと思うのだが、そんな気配があまりない。

 逆にたくさん寝れた事で元気が有り余っているのだろうか。


 ただ、そんな風に親がぐったりとして寝ている隙をつき、好奇心から子供が巣の外へと飛び出てしまう事件や問題が時々起こる事は私も知っており、此度の事も恐らくはそれと似た様な状況だったんじゃないだろうかと私は勝手に予想している。



 バウとじゃれ続けている無邪気な赤竜の子の姿を見ても、好奇心旺盛な子だと分かるのできっと間違いはないだろう。ただなんにしても手遅れにならず、無事に親元に返す事が出来て私としては一安心したのであった。



「…………」



 だが、そうしていざその幼竜を赤竜の方へと引き渡そうとすると、その子はバウと離れたくないのか、いきなり『ぴーーっ!?ぴ~~~~ッ!!』と激しく鳴き始めたのであった。


 赤竜が『ほ、ほら、そろそろ家に帰るよ。その子は余所の子だからもう離れて、ね?』と言いたげな雰囲気で声を掛けても、幼竜は何度も首を振ってバウにしがみ付き続けているのである。



「……ば、ばうぅ」



 ……う、うむ、そうだな。幾らバウが優しいとは言え、流石にこれは困ってしまう状況だ。

 それに私達としてもどうしようもない。

 なんとか赤竜に親として説得を頑張って貰いたいと思うが……。



「ぴ~~~っ!ぴ~~~~っ!!」



 ……だが、やはり嫌なのだそうだ。幼竜の言葉が完全に分かるわけではないが、バウと離れたくない事だけは私達にもよく分かった。


 そして、そんな赤竜の子の気持ちに同情してしまったのか、私の隣でエアも『かわいい……良かったらバウと一緒にうちの子に──』みたいな事を呟き始めたので、……私は今回、仕方なくも悪役側に回る事にしたのである。……敢えて苦言を呈していこうと思う。



 なので、私は魔法で少し強制的に赤竜の子とバウを引き離すと、泣きながら駄々をこねる赤竜の子に向かってはっきりと告げたのだった。



 『今の君にはバウと一緒に居る資格はないよ』と。

 『今の君は弱く、己の身の程も弁えず、周りに迷惑をかけるだけの存在だ』と。

 『バウと一緒に居たいと思うのならば、もっと強く立派に育ちなさい』と。

 『そして、大きくなってもまだバウの事を想うのであれば、その時こそはバウの事をよろしく頼む』と。



 ……そんな、どこぞの貴族の子に対して、家柄が釣り合わない相手の子を諦めさせるかのような、そんな雰囲気の台詞回しで口下手の私が何とか説得すると、赤竜の子は『ぐすっぐすっ』と瞳を潤ませながらもコクコクと何度も頷いていた。



 そして、『絶対に強く立派に大きく育ちますから、その時はその子と番にならせてください』と言いたげな雰囲気で鳴いて尋ねて来るので、私達は皆揃って頷きを返したのである。……私の隣でエアとバウも一緒に頷いているので、どうやらそう言う事で良かったらしい。



 ……まあ、私としては内心、資格なんぞ関係なく別にその子が弱いままでも立派じゃなくても、バウの傍に居たいと思ってくれるなら居ていいだろうとは思っているのだが、また此度と同様に勝手に赤竜の子だけがフラフラと外へと飛び出してしまって、また色んな所で危険な事に巻き込まれぬようにしたいと思い、そう言ってみたのだ。……健やかに育って欲しいと思う。気を付けて。



 それに、バウとしてもまんざらではなさそうなので、是非とも末永く仲良くなって欲しいと思った。

 ……あと今更ではあるが一応、バウは男の子で、赤竜の子は女の子である。



「ばうっ」


「ぴーっ」


「…………」



 『大きくなったらまた会おうね』と、二人で再会を誓いあっているのか、幼竜達はお互いにペロンと相手の顔を一度だけなめ合うと、ちゃんと『さよなら』をしていた。



 そんな光景を眺めていると、親である赤竜としては色々と物申したい事もあったのかもしれないが、不思議と途中から最後まで赤竜はずっと沈黙を守り続け、去り際にだけ鼻先に子供を乗せたまま、一言『──ギャウッ!』とだけ呟いて飛び去って行ったのである。



 ──正直な話、それがなんて言ったのかまではよくはわからなかったのだが、バウが不思議と照れている表情をしているのを見て、私達は内心でニヤニヤと見守るのであった。






またのお越しをお待ちしております。

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