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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第37話 帰。




「あおーい」



 自分の髪が綺麗な青色になった事で、鏡を見てエアはその猫の様に大きな目をぱっちりと開くと、自分の姿をジーっと見ていた。自分の髪の毛を頻りに触って、青くなっている事が不思議そうにしている。


 彼女は暫く見ていると今度は私へも視線を向けてきて、目が合うとエアはジーっと私の目を見つめてきた。

 なんだか興味深そうに私を見つめているのはわかるのだが、どうしてそんなにエアに見られているのか分からなかったものの、とりあえず私は一度深い頷きをエアへと返した。



 すると、エアはにんまりと嬉しそうに笑って、また家の外へと走り出し、魔法の訓練へと戻っていく。

 その後姿はどことなくご機嫌であった。




 今のエアの状態は普段は無色透明の体内の魔力をほぼ水の魔素で青く染め上げた状態である。

 一応はまだ私のサポートありきでないとなれない完全な変化ではあるが、エアはこの状態で川や海などにいけば、水の上を走るくらいは朝飯前であり、水の中でも自由に走って動き回る様になるだろう。

 呼吸が出来る様になるわけではない為、活動限界はあるだろうが、これでエアに渡れない土地は無くなった。



 この世の大体は大地と海で出来ている。海の先には他の大地があり、その大地の先にはまた他の海がある。

 だが、エアはこの力があれば冒険者としてどこまでも歩いていけるだろう。彼女の足はこの地平を踏破できる力を得たのだ。



 実際にこの状態だとどれだけ凄いのか、その感覚を深く知ってもらう為にも、私はそこそこ大きい湖分位の水量を水球として出し、それを宙に浮かべてそこの中をエアに走って貰った。

 エアはその水球の中を、普通に地上を全力で走ってるのと変わらない速度で楽しそうに走っている。



 試しに川や海を想定して、水の上に流れを加えたり波が高く上がったりなどの変化を付けた状態でも走ってみてもらったが『きゃあああーたのしいーーーっ!』と言って笑っていた。これは凄い。嵐だろうが何だろうが全然平気らしい。



 それはまさに自由以外のなにものでもない。人は水を渡るのに船がなければいけないが、エアはその身一つで海を渡れるし、横になっても沈まないので寝れもする。もし沈まない家でもあれば、エアは海の上でずっと生活できる事だろう。……不便かどうかは別として。




 ただ、まだこれは最初の一歩に過ぎない。今回エアは全部を身体中の魔力を青で染めたわけだが、それにかかった時間を今後の精進次第でもっと短くしていく必要があるだろう。


 それに、今は触れるくらいに近い距離に通したい魔素の元がないと、集中して魔素を通す事が出来ない。少しでも離れてしまうと、上手に出来ないらしい。

 もちろん魔法で代用する事自体は可能だけれど、自分で魔法を制御しながら『天元』に通すのは、まだエアには難易度が高過ぎる事が分かった。幾つか問題点も見えてきた感じである。



 恐らくは今後、エアの目標になって来るのは、『天元』で魔素を通す時間をもっと短縮する事と、距離が離れても通せるようになる事。最後はその通す時にもっと濃くして強度を増やす事などが結果的に考えられるだろう。


 今は一日かかっているそれを、もし瞬時にできるようになればその便利さは言うに及ばず。

 それがもし距離も関係なしに、強度も思いのままに出来るようになれば、例えば敵対する存在が魔法で攻撃してきても、それの魔素を通す事でその魔法の耐性を瞬時に得て、直撃でくらっても無傷で済むようになるかもしれない。


 現状は理想に過ぎないとはいえ、そこまでできれば、エアはどんな魔法使いと対面しても、まさしく文字通りの無敵になれるだろう。



 まあまだ、そこへの道は長く感じるが、エアは着実に実力が上がっている事を実感したのか、もう次の魔法の練習へと貪欲かつ楽しそうに励んでいた。


 今はきっと何をしても楽しい時期、そういう頃合いに居るのかもしれない。

 今の内にどこまでも大きく深く育って欲しいと、私は心から思った。




 まだ暖かい頃に出発した光の槍が、漸く戻ってきた。見た所無事そうで何よりである。おかえりなさい。



 『ただいまなのです!』



 随分と遠くまで行って来たようだったが、大丈夫だったのだろうか。

 問題があって帰るのが遅くなったんではないかとエアは特に心配していた。

 私や精霊達は気が長い方なので、十年以内に帰って来ないならばちょっと近所を探しにでも出かけようかと話し合っていた。もしかして木か岩にでも刺さったまま抜けなくなっているかもなんて話もあった。



 『わっちももう少し早く帰るつもりだったのです。でもわっち、お引越しって初めてで、思ったよりも大変だったから、こんなに時間がかかっちゃったのです』



 要は闇の精霊と一緒で、光の精霊もここを気に入ったので、元々住んでいた場所からこっちへと移って来たのだそうだ。その支度やなんやかんやで手間取っていたらしい。荷物も沢山あって整理が大変だったと言っている。


 見た目光の槍にそこまで荷物があるようには見えないけれど、精霊達は大体が大なり小なり【空間魔法】を使えるので、きっと隠れた所に沢山の荷物を持って来たのだろう。これから荷解きかと尋ねると数日かけてのんびりやるので、今日は帰ったら家で収納されて身体を休めたいと言っていた。さもありなん。ゆっくりと休んで欲しい。



 『あ、向こうの特産品なのです。良かったら貰って欲しいのです』



 と光の槍からはお土産として、不思議な木の苗を私は受け取った。

 どうやら育てば特殊な『アブロ?』とか呼ばれているオレンジっぽい果物がなるらしい。凄く美味しいのでエアも喜ぶだろうからと持ってきたそうだ。

 私も嬉しく思い、有難くそれを受け取る。


 ここにはお野菜等の育成に一家言を持つ腕自慢達も多い。

 精霊達と一緒に、私もこの木を楽しんで育てていこうと思う。



 後年、この時の苗木がちょっとした問題になる事を、この時はまだ誰も知らなかった。




またのお越しをお待ちしております。

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