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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第369話 強引。





 今にも別たれようとしている傭兵と修道女の姿を見て、私は動き始める事にした。

 とは言っても、この場合私が出来る事はほんの些細な事位だろう。

 だが、それでも何かしたいと思ったのである。

 ……想い合っている二人を、背景達は微笑ましく見守っていたいのだ。



 だが現状、『マテリアル』と言う力を大切にしたい傭兵と、その傭兵から『マテリアル』を遠ざけたい修道女と言う関係が、両者の想いを引き離そうとしている。

 相手に好意は寄せているけれど、互いに譲れない部分が彼らを衝突させているのだ。

 そのせいで二人は、互いが嫌いになる前に、その気持ちを諦めようとしているのであった。



 そんな様子をずっと眺めてきた背景達としても、二人のその悲しくも切ない光景に、これ以上は見ていられないと言う表情をしている。二人には出来る事ならば、またいつものように食堂で楽し気に笑っていて欲しいのだ。



 その気持ちはきっと皆の総意であったのだろう。

 いつの間にか、背景達の視線はエアの背中におぶさったままの私へと集まっていた。


 そんな皆の視線からは『どうにかできませんか?』と言う言葉が聞こえてくるようである。

 ……なので、私もそんな皆を見つめると、『なんとか手を尽くしてみる』と言う想いを込めて頷きを返した。



 ──要は、二人の関係改善には、どうしても『マテリアル』が問題となってくるのである。



 だから、これをまずはどうにかしなければいけない。

 それさえ解決してしまえば、後はまた勝手に二人は仲直りするだろう。

 背景達の気持ちはきっと一緒であった。


 『ロムさんならば、マテリアルの事もどうにかしてくれる筈だ』と、皆の表情から伝ってくるそんな期待に、私も応えていきたい。



 色々な問題を起こしてくれる『マテリアル』にはほとほと困ったものだと思うが、とりあえずは二人と少し話をしてみようかと、『そこの二人、ちょっといいか?』と私は話しかけみた。



 ──だが、話しかけるつもりではあるものの、基本的に私は口下手なので会話だけで上手く二人の仲を取り持ったりする事を考えているわけではない。



 ただ今回の場合において、私は既に幾つかの対処法を思いついたので、二人にはとりあえずその思い付いた三つ程の対処法の内から、どれが良いのかを選んで貰おうと思っている。



 ──先ず一つ目の対処法としては、彼の身体の中の『マテリアル』がもし暴走した時の事を考え、それを抑える為の何か専用の魔法道具でも開発して渡すと言う方法であった。


 それがあれば身につけておくだけで、もしまた騒ぎが起きた時にも回復や浄化が勝手に発動する様な仕掛けを施しておく事により、彼はまた直ぐに元通りになれると言う寸法なのである。

 そうすれば修道女の不安も小さくなるだろうし、彼としても安心して傭兵家業に戻れると言うメリットがある。


 ……ただ、デメリットとしては、開発できるまでの日数がかかる事と、今の私が回復系統の魔法を使えないのでエアの協力を仰がねば魔法道具が作れないと言う問題があった。



 だが、これについても、エアからは『わたし何でも協力するからっ!』と言う積極的な雰囲気が背中から凄く伝わって来るし、この屋敷には天才の魔法道具職人が揃っているので、開発には数か月もかからないだろう。……個人的には一番現実的な対処法であると思っている。



 ──次に、二つ目の対処法だが、彼の身体の中の『マテリアル』がもし暴走した時の事を考え、それを抑える為に彼女にその方法を教え込むと言う方法がある。


 傭兵はあまり魔法を得意として無い為にこの方法を教える事は適わないが、彼女においては敬虔な浄化教会の修道女と言う事で、浄化や回復の魔法に関しての素質が高いと思われる。


 それに彼女からしても、好きな相手を自分で守れる力を備えていればこれに勝る安心はないだろうし、何だったら回復要員として彼と一緒に傭兵家業についていく事も出来るだろう。


 一緒の時間を過ごしたい二人にとってはこれが一番お勧めな方法だと思われる。

 戦闘においては彼女は彼を頼り、回復は彼が彼女を頼る。

 そんな互いに支え合っていくと言う対処法であった。


 ……ただ、こちらもデメリットとして、彼女がそれを身につけるまで日数がかかる事と、今の私が探知系統の魔法も殆ど使えない為に、彼女の習得状況の把握も適切なアドバイスもできず、魔法をまともに教える事が出来ないと言う問題がある。



 だが、こちらについても、私の目の前には【回復魔法】と【浄化魔法】のエキスパートであるエア先生が居る為、そんなエア先生に付きっきりで教えて貰えれば本人のやる気と頑張り次第でちゃんと身につける事もできるだろう。……全ては彼女次第という対処法だ。



 ──そして、最後三つ目の対処法だが、こちらはもう言わずもがな傭兵自身が自分で完全に『マテリアル』を制御すると言う対処法である。


 もしまた騒ぎが起こり暴走したとしても、その時に完全に自分で抑える事が出来るならば他の対処法など何も要らなくなるだろう。



 それに、それだけの制御能力があると言う事は、普段の戦闘面でも更に『マテリアル』の力を引き出せるようになると言う事で、彼が活躍する場がもっと増える筈だ。

 完全に制御できるのであれば彼女の不安も少なくしてあげられるし、彼自身もいつ騒ぎが起きても平気だと言うのは心強いと思う。

 『マテリアル』に対して一番二人が安心できるようになるのが、この対処法であると言えるかもしれない。


 ……ただ、例によってこちらにもデメリットがあり、制御できる様になるまでどの位掛かるのかが全くわからない。それに私は『マテリアル』を教える事も出来ないので、あれが制御できるものなのかどうかさえも若干怪しい部分がある。



 だが、それでも完全に可能性が無いと言う訳でもないだろうし、私達の身近には同じく『マテリアル』に適応した精霊達も居るので、彼らと共に制御方法の訓練をする事で得られるものは大きいと思う。


 それにそもそもの話として、この屋敷の中には『第三の大樹の森』と言う浄化が富んだ不思議な空間があるので、余所で試すよりも格段に制御練習がやり易いと思う。多少は無理な事をしても簡単には『マテリアル』も暴走しない筈だ。


 だからきっと、彼にとって訓練するならばこの場所以外は有り得ないと言える程にここは最適な場所だろうと私は思った。

 


 ──以上、そんな感じで、とりあえずはその三つの対処法から好きな方法を選んで貰おうと思い、私は『そこの二人、ちょっといいか』と、幼くなった事で若干高くなった声で問いかけた。



「…………」



 だが、そうして急に外野から話しかけられた二人としては、今がとても彼らにとって大事な局面だし、邪魔をされたくないと言う想いが強かったのだろう……。

 だから、二人は少しだけ私へと視線を移すと、エアに背負われたままである私の姿を見て、『なんだ子供か』と思ったようで、直ぐにまた両者へと向き直ってしまったのであった。


 ……う、うむ。完全に無視されてしまったのである。



 二人のその真剣な様子からは『今は子供に邪魔をされたくないんだ!ちょっと黙っててくれ!』と言いた気な雰囲気を感じた。

 ……まあ確かに、今の私の姿を見たら、そう思うのも仕方がない話だと私も思う。


 それに、屋敷の皆は私が帰って来た事を知った時には喜んでくれたが、私の大人姿を知らない二人は微妙な顔をしていたのだ。初対面の時に『ロムだよ!』とエアが紹介しても、『ほんとうにこの子が師匠……なのか?』と、あまり信じて貰えてなさそうな雰囲気だった事を私は今更ながらに思い出した。


 二人からすると、私は屋敷に居る子供達とそう大差ないように見えているのだろう。

 現に今も、私はエアにおんぶされている訳だし……威厳も何もないのである。



「……ふむ」



 だがそんな二人の気持ちは分かるが、皆の期待もあるし私としてもここで引くわけにはいかなかった。

 なので仕方が無いかとは思うが、私は自分が使える魔法で、二人へと強制的に干渉してみる事にしたのである。

 ……因みにその際、エアにもコソコソと耳打ちして協力を仰いでおくと……『いいよ!』と、エアからは即答で了承してくれた。……よしよし。それでは、私の力を少し二人にも知って貰う事にしよう。



 という訳で、私は今自分が使える最も得意とする魔法──『お裁縫』用の魔法を発動すると、彼らの目の前で凄い長くて大きな真っ白いマフラーをいきなり製作し始めたのであった。



「えっ!?」


「は?な、なんだこりゃっ!?」



 すると、当然それには二人も驚いたらしく、彼らの近くでいきなり作られ始めた巨大なマフラーに、二人は『ビクッ』となる。……ふむふむ、案の定驚いたようだ。


 だが、そうすると彼らはその突然の現象に狼狽えてつつも、危険を感じたのか直ぐさま傭兵はサッと修道女の方へと動きだし、修道女の方もまたそんな彼の背中へと直ぐに隠れたのである。……なんとも自然な行動で私も思わず感心する。


 屋敷の者達はそのマフラーに見覚えがあったのでなんてことはない表情をしているけれど、二人だけはマフラーに対してちゃんと警戒もしていた。



 その一方、私としてはそんな二人の様子は見ながらも、全力でその巨大な白いマフラーをどんどんと編んで伸ばし大きくする事の方に力を入れていた。


 そして、数分も掛からずに『通常マフラーの何倍も大きく、それでいてふわふわしっとり滑らかな質感の巨大なマフラー』は完成したのである。……ふむふむ、これで二人とも私の力が分かってくれただろうか。子供の姿だけれども中々やるのだぞ?


 正直、これだけの大きさがあれば、二人をそのまま包めるくらいである。

 ……なので、実際に包む事にした。


 私は仕上げたその巨大マフラーを更に操ると、それでそのまま二人を抵抗する暇もなく一気にグルグルと包みこんで、二人が顔だけ出た状態の『巨大な白い繭』みたいなオブジェを制作したのである。……ちょっとした出来心だ。



「──っ!?」


「さて、それではエア、この状態の二人をもてるか?」


「うんっ!……よいしょっと、大丈夫だよっ!」



 ……よし、完璧だ。捕獲も完了である。


 いきなりの事で驚かせてしまったかもしれないが、二人の雰囲気を見るにこの場で説明しても中々に話を聞いてもらえるか難しいと判断したので、ちょっとだけ強引に私は場所を移す事を選んだのだ。



 私はエアの背から降りると、二人が入ったその大きな白い繭をエアに協力して持って貰う。

 ……頼られて嬉しそうなエアの表情に、内心で私は微笑ましくなった。



 そうして、二人を急に捕獲した事で屋敷の皆も少しだけ呆然としているが、私は『後は任せてくれ』と言葉を残すと、連れ去られる二人の悲鳴を響かせながら私とエアは一緒に食堂から走りだして行ったのであった──。





またのお越しをお待ちしております。

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