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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第364話 悋気。




 修道女と傭兵が『白銀の館』にやって来てから数日が経った。

 ……二人の仲はその間、増々良くなっている様に感じる。



 二人共、元いた場所には帰れない事情がある事や、教会に伝わっている『聖人』の逸話や『祈り』に関して理解がある事で、共通点もあり話が合うらしい。


 それに傭兵が修道女に話を合せるだけではなく、修道女の方も傭兵の話に興味がある様子で、よく二人で食堂で向かい合わせに座ったまま楽し気に話をしている姿をここ数日はよく見かけていた。



 『祈り』と言う行為は傭兵達にとっても関係が深いもので、『戦いに赴く前に俺達傭兵はこんな風に祈ったりするんだ』と、彼のそんな生々しい話を聴き、彼女は今まではただただ『聖人』に対する想いだけを『祈り』に込めていたのだが、これからは命をかけて戦う男らしい傭兵達の為にも祈る様にしたとかなんとか……。



 正直、そう語る彼女の後半部分は明らかにとある人物(彼)に対してのみの『祈り』だろうと私達は察していた。間違いあるまい。



 ……まあ、そんな訳で、二人の仲はじっくりとだが確実に深まっていると言えるだろう。

 ただ、お母さん方としてはそんな二人の関係は若干もどかしくも感じてきたらしく、最近では二人を見る視線に込められた想いが『微笑ましさ』から、『早く想いを伝えればいいのに!』と言いたげな感じに変わりつつあるように見える。……どうやら見ていると少しじれったいらしい。



 ただ、ここで周りの方が勝手に焦れて騒ぎだすのは間違いだろうと、お母さん方はみんな心中は穏やかではないかもしれないが、表情はとても優し気なまま二人を見守っている。……私や精霊達からすると、どうか二人をあたたかく見守っていて欲しいと思った。





「はぁ~……」



 だが正直言うと、そんなお母さん方の事よりも、今はエアの方が問題があったりする。

 現に、食堂で楽し気に話し合う二人を視界の隅に入れながら、深いため息を吐いて、凄く気怠そうに机に突っ伏してエアは溶けていた。

 額の上にある角の鮮やかな赤色も、今では若干淡くなってきている様な気がしないでもない。



「はぁ~…………」



 エアにとっては大変珍しい事に、やる気が全く感じられない状態であった。

 いつも元気で笑顔が絶えない事で有名な筈のエアは、自分でも良くわからない程の虚脱感に苛まれていたのである。ご飯も沢山食べて、よく寝てもいるのに、何故か力が出ないのだとか。


 つい数日前まではあれほど、お母さん方とニヤニヤと悪い事を企んでいるかのように楽し気に笑い合っていたのだが、今は切なさに溢れる溜息ばかりを零している。……魔法の練習も身が入らないので、今朝はこうしてずっととろけながら食堂で休憩していたのであった。



 寒さの厳しい季節はこれから後半へと向かう所で……それが過ぎて、また芽吹きの季節になるまでは今年も『白銀の館』に留まる予定ではあるらしいのだが、私はそんなエアを見ていると酷く心配になった。


 いっその事少し面倒かもしれないが、来た道を引き返して『大樹の森』へと早めに帰って休んだ方が良いんじゃないかとまで思っている。


 ……やはりこういう時、何もできないのは辛いものがあると、私はほとほと痛感していた。



 ──キョロキョロ、ジーー。



 そして、そんな私の心配は周りにも伝わってしまったのか、机に突っ伏しているエアの目の前にあるお気に入りの古かばんの中からは、白いゴーレムくんが顔を出しており、エアの事を見つけると心配そうに見つめている。



 『…………』



 ……あれ?君、いつの間に勝手に鞄から出て来れるようになったのだ?

 本来は入れた人物じゃないと、中身は取りだせない様になっている筈なのだが……え?根性?頑張ったら出て来れたと?そ、そうなのか。


 ……まったく、私の作ったゴーレム達は時々こうして不思議な行動をする事があって驚きを覚える。

 そんな機能は入れていない筈なのだが、何とも不思議な話である。


 ただ、そうして頑張って鞄から出てきた白いゴーレムくんは、何やらエアが落ち込んでいるようだと察すると、ぴょんと鞄からジャンプして、机に降り立つと溶けているエアの頭の傍まで歩いていき、その後頭部をぽんぽんと撫でていた。



「──んわっ!?」



 すると、突然頭を触られた事でエアも驚いたのか大きな声を出して、勢いよく姿勢を正した。

 そして、自分が突っ伏していた机の上に、白いゴーレムくんの姿を確認すると、今度はガシッと白いゴーレムくんを掴んで、何度も頬擦りして再度突っ伏したのである。



「ろむ~~……はぁ~……」



 そうして、突っ伏したまま白いゴーレムくんを頬擦りつつ、エアは溜息を吐くかのように私の事を呼び始める。

 ……そのなんとも言えない切なく寂しい声音は、凄く既視感があった。


 これはあの日、私の姿が見えなくなってしまった時とそっくりなのだ……。



 『…………』



 エアは、涙こそ見せてはいないものの、今の姿はあの日の姿にとても近しい事に私は気づいた。

 ここ最近は旅をしてずっと走り続けていたから、忙しくてそれどころではなかったかもしれないけれど、一人になるとバウ達に隠れて涙を零していた事を私は知っている。


 それに、屋敷に来る途中で傭兵とも出会い、彼のおかげで旅も騒がしくなって、エアがまた元気そうに笑っていたから忘れかけていたが、本当は……。

 バウや白い兎さんも最近はずっと屋敷の子供達の面倒を見てくれているし、傭兵も……。



 『そうか……』



 そんな色々を踏まえて、私はエアが今どうして、虚脱感に苛まれているのか、その原因について直ぐに思い至った。



 『……エアは恐らく、傭兵が彼女(修道女)と仲良くなってしまったから、その寂しさで──』


 『──旦那はお馬鹿かッ!なんでこういう時に限ってポンコツを発揮するんだっ!』『なんでそっちっ!!普通に考えて違うでしょっ!!』『その捻りは要らない』『エアちゃんは……あなたに会いたいのではないですか?それで寂しがっているのでは?』



 ──コクコクコクコク!



 『…………』



 ……ど、どうやらそう言う事らしい。

 私が色々を踏まえて出した推察は、傍にいた四精霊に速攻でダメだしされてしまった。

 その上、エアに頬擦りをされている白いゴーレムも激しく同意するかのように何度も頷いている。



 『……すまん』


 『旦那、俺たちに謝らないでくださいよ!』『そうそう!謝らなきゃいけないのは向こうでしょっ!』『空虚……』『本当にもう。あれだけ心配させているんですから!謝らなきゃいけないのも安心させなきゃいけないのも、エアちゃんが一番最初です!』



 ──コクコクコクコク!



 未だ、『信仰』と言う未知の力を制御する術は私にはない。

 だが、無いからと言って、このままずるずると引き延ばしていてはいけないのだと、それを今一度強く思い知った。



 ……もう少し頑張ってみようか。

 多少は無理をする事になったとしても、頑張らなければいけない時はある。

 エアをこのままこれ以上、待たせてはいけない気がしたのだ。


 ──だから私は、この寒さの厳しい季節の間に、どうにかして元へと戻ろうと本格的に動き出す事に決めたのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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