第35話 伝。
そんなわけで光の精霊用の槍ケース型ハウスを作ってみた。
一見するとただの箱に見える。小さな入口があって、光る槍を収納できるだけの機能をもつ箱だ。
箱の中は槍の取り出しで使用しているスペースが二割ほど、箱の残り八割ほどは生活空間用の小さなスペースに分かれている。
唯一特徴的なのは、その箱全体が光る様になっている事で、箱は一日中淡い光を放っていた。
ただ、光っているとは言っても、間接照明的な光量しかないので、直視しても眩しくない程に調整してある。
もっと光らせようと思えば、中に光の精霊が居れば幾らでも変更可能な上、住居スペースの狭さも魔法を使えばいくらでも精霊達が【空間拡張】できるらしいので問題ないと言う事であった。火の精霊達は今回も頑張ってくれたらしい。
完成した家は花畑の一角に置く。何となくだが闇の精霊の黒はにわハウスとは多少の距離を設ける為に、大樹を挟んだ反対方向に設置した。その方が良い様な気がしたのでこればかりは直感である。
出来上がった家を見た光の槍は、暫く無言のまま、地味に小さくくねくねと動き続けている。望外に嬉しかったらしい。隠してはいるが槍の先端だけが妙に揺れてるので、意外と分かり易い。
誰でもそうかもしれないが、自分の居場所となる場所が出来ると言うのは存外嬉しいものだ。
暫くして落ち着いたのか、光の精霊は私達に『ありがとなのです。わっち嬉しいのです』と言うと、一旦少しだけ槍のまま飛んで行きたい場所があると言いだし、私に外出の許可を求めてきた。
私はその急な求めに不思議さを感じたが、何か理由があるのならばと思い、肯定する。
光の槍的には、エアの槍なので、勝手に居なくなるのはダメなのですと言う事で、私へと外出許可を求めたらしいが、そこまで気にしなくても私達は了承するつもりである。ただ、律儀な性格なのだろう。本人がちゃんと許可を得たいと言う事だったので、私からエアにもちゃんと言っておくから心置きなく出かけて来ていい、と答えておいた。
『では、ちょっと行って来るのですっ!』
そうしてそのまま、私は見送りで暫く光る槍を見つめている。飛んで行くのだそうだ。
だが、不思議な事に、出かけてくると言った光の精霊は、何故か一度槍ケース型ハウスへと戻って、ガシャコンと収納されてしまったのである。……なにか忘れものでもあったのだろうか。
──その答えは、数秒後に、いきなりハウスの上部にニョキっと伸び上がってやってきた。
それはまるで、何かを射出するカタパルトみたいなもので、ハウス上部にいきなりそれが現れたかと思うと、光の槍は既にその上でスタンバイしており、今か今かと発射の時を待っているようだった。
『……3、2、1、行って来るのですッ!──シュンッ!!』
ハウス全体が下部から段々と光が強くなっていき、それが満タンに近付くと自らカウントダウンを始めた光の精霊は、発射の掛け声と共に遥かに音の速度を超える勢いで射出され、一瞬で見えなくなってしまった。……いってらっしゃい。
幸いだったのは、それだけの速度で射出されたにも関わらず、周りには一切被害がでなかった事だ。
機能的気遣いは完璧な作りのようで、余計な衝撃波は魔法で打ち消しており、辺りには穏やかな雰囲気が流れている。
……だが、あれのどこがただの光る箱なのだろうか。
スッと視線を向けると、サッと逸らされるこの阿吽の呼吸。もはやシンクロ。以心伝心。
そして、最早お馴染みとなった火の精霊達とのお話をして詳しく聞いてみたところによると、なんと今回のこれは光の精霊の注文だったらしい。
密かに光の精霊から火の精霊へとお願いがあり、『メカメカしいのがいいのですッ!』と言ってきたのが始まりだとか。正直意外だった。光の精霊は機械的な造形を好むらしい。……もしかして、槍も好きで入ったのだろうか。
ただそう聞いた時、ふと私の脳内に、悪い想像が走った。
光の精霊と火の精霊の合作?……メカメカしい?……光線や熱量系の技の可能性?……まさかビームが付いてるのでは?……うっ、頭が。と言う感じである。
だが、火の精霊達に聞いてみたところ、まだビームは付いてないらしい。
その代わりに、既に槍ケース型ハウスには、箱から手と足が伸びて敵を自動迎撃する機能や、敵わない時には走って逃げる自動逃走機能等が付いているのだそうだ。……メカメカしい。
おかしい。今回は以前にも増してちゃんと見ていた筈なのだが、いつ仕掛けられたのか。
これは私の見る目の無さも問題だが、火の精霊達の隠れて仕込む技がかなり上がっている事に原因が大きいと私は思う。彼ら、かなり腕を上げたに違いない。
別に隠さないで相談してくれれば反対する理由はそもそも無いのだが(危ないビーム以外)、彼ら的に隠れて何かを作業すると言うブームが来ていて、やめようともやめられないらしい。ドキドキしながら作業できて、普段より刺激的で捗り良いものが出来上がるのだとか。……そ、そうか。
私が『かなり腕を上げたに違いない』と言った途端に、みんなしてそこまで照れ臭そうに微笑みだしてしまったら、それ以上私から言える事は何も無い。
君達の腕が良い事は前から知っていた事だし、最近は言葉に出来ていなかったが、いつも感謝しているのだ。と改めて伝えてみたら、火の精霊達の男前職人集団が、みんなして赤面しているのである。
これはまさか、ここまで嬉しそうな顔をされるとは思っていなかった。
私はもう少し、普段から仲間達へと感謝の言葉を伝えていかなければ、と思った。
大切な事なので、しっかりと心がけていこう。
『親しき中にも礼儀あり』、それを良く学べた一日であった。
またのお越しをお待ちしております。




