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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
345/790

第345話 堵。

(注意・前話を書き直しておりますので、書き直し前の話を読んでしまった方はご注意ください。)




 『ああああっ!?旦那がぁーーー!!』



 火の精霊のそんな叫び声に、周りの精霊達が一斉に振り返り彼に注目が集まった。



 『ど、どうしたの急にっ!?』『悪戯?』『みんな頑張ってるんですから、あまり邪魔してはいけませんよ?急に寂しくなってしまったんですか?気持ちは分かりますが……』

 

 その中でも特に、火の精霊の傍にいる風と水と土の精霊は『またロムさんの事を思い出してしまったんですか?仕方ない人ですね。我慢してください』みたいなニュアンスで窘めている。

 彼以外に私の事を見た者が居なかったので、まるで火の精霊が私の事を想って急に叫び出したくなったみたいに思われているらしい。


 ただ、流石にそんな事はないのだと、火の精霊は必死に首を横に振って否定している。

 『いや、違うんだ!今旦那が後ろにいたんだよ!お前らも見たろう!?』と。



 『えっ、見てないけど?……あっ』『錯覚……あっ』『あっ……えっと、その大丈夫ですからね?あの方はちゃんと私達の傍に居て見守ってくれていますから。安心してください』



 だが、それに対して三精霊は『見ていない』と首を横に振るばかりか、火の精霊の事を見て気の毒そうな顔をし始めた。

 まるで『あぁ、遂には幻覚まで……』『心が……』と言いたげなその表情に、流石に私も彼が可哀想になったので、すぐさま再度身体の構成をし始める。



 先程の彼の声の圧で一体目の私は掻き消えてしまったけれど、次の私はもっと上手くやる事だろう。


 単純に先の身体は少しだけ込める魔力が少なめだっただけなので、今度はそれよりも少し魔力量を増やした体を四精霊の目の前に形作った。


 ……うむ、まだ少し調整が難しいけれど、先ほどでコツは掴んでいたので今度はすんなりと上手くいったのである。



 『やっぱり旦那だっ!ほらな、俺が言った通りだったろっ!!』『ええッ!?』『っ!?』『うそっ!?』



 そして、私の急な登場に、かーくん以外の三精霊とそれ以外の周りの精霊達が皆一様に驚いていた。……あっ、すまない。ただいま戻りました。


 これでは本当に私がただ悪戯してびっくりさせる為に姿を隠していたみたいだが、そんなつもりはこれっぽっちもなかったのである。


 普通に私は頑張っているみんなの邪魔をしないように、静かに戻って来た事を知らせたかっただけで、驚かすつもりは全くなかったのだと先に弁明しておく。



 すると、そんな私の弁明を聞きながら四精霊は色々と質問をして来たのである。

 特に、今の私の姿は彼ら精霊達とほぼほぼ見分けがつかない位に似ている為、彼らは皆嬉しそうな表情をして『旦那は精霊になったんですか?』と尋ねて来た。


 私はそれに対し『偶々そう言う同じ身体の作りにしただけで、厳密には違うんだよ』と説明しているのだが、『そうなんですかー!へー!同じ身体なんですねー!』と言って皆ペタペタと私の身体を触って来るし、匂いをクンクンと四人揃って嗅いでくるのである。



 ──と言うか、周囲の精霊達も皆集まって全員が匂いを嗅いでくるのだが。……どうしたのだ君達。お、おちつきなさい。私はそんな特殊な匂いをしていないだろう?していないよな?



「……ん?みんなどうしたのっ?」



 すると、そんな精霊達の異変を何となく感じ取ったのか、訓練をしていたエアやバウが『マテリアル』に適応した精霊達の様子を見てそう尋ねていた。

 そして二人も、精霊達から今何が起きているのかを教えて貰うと、こちらへと向かって満面の笑みを向けてきたのである。


 それに、心底『ああ、よかった』とでも言いたげな『ホッ』とした表情も浮かべていた。

 『姿が見えなくなっても傍には居るんだよ』とは言われていても、やはり不安に感じていた部分が密かにあったのだろう。


 考えたくはないが、『もしかしたら本当は私は完全に消えてしまっていて、精霊達が気を遣ってくれているだけなんじゃないか』、という可能性もエア達の視点で視れば充分に考えられた話ではあったのだから。



 まあ基本的に精霊達はそう言う嘘を吐いたりしない事を私は知っているのだが、精霊達の安堵する表情を見て、エア達もようやくちゃんと安心できたようであった。


 そんな皆の表情や、沢山の精霊達から不思議と匂いを嗅がれている今の状況なども鑑みて、私は自分がそれだけ心配をかけていたのだと改めて知ったのである。……皆、本当にすまなかった。



 ……ただ、少し前まではこうして皆に謝りたくても謝る事さえ上手く出来なかったので、私は謝っているこの瞬間にも少しだけ嬉しさを覚えていたりする。


 やはり皆が悲しむ姿をただただ見守る事しか出来ないのは、正直、かなり辛かったのだ。



 私は一人でいた期間が長かったために、時々忘れそうになるが、こうして皆と話が出来るだけできっと特別で大切な事なのだと、そしてきっと今の私は大きな幸せに包まれているのだと思った。



 君達は、私の言葉で『ホッ』としてくれたかもしれないが……君達は知っているかな?

 君達の存在に、私の方がもっと『ホッ』として安堵を感じているのだという事を……。


 ……ま、まあ、そういう繊細な話は未だ誰かに伝えるという事が私は上手く出来ない部分なのだが、その分、皆にはちゃんと感謝を伝えておこうと思う。




 ──そうして、その後も私達はそれまでの不安を打ち消すかのように、不思議な安堵に包まれながらのんびりと夜遅くまで話し合いを続けるのであった。




またのお越しをお待ちしております。

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