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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第344話 鑑。

2020・10・19 物語の流れを変える為、ほぼほぼ書き直し。書き直し前の話を読んでしまった方は申し訳ございません。




「げほっ……げほっ……」



 『大樹の森』にある精霊達の憩いの場の一つである『魔力の滝』の前で、エアは膝立ちのまま気持ち悪そうな表情をして少しだけ咳き込んでいる。


 だが、具合が悪そうな見た目には似合わずエア本人は至極真面目であり、その目には熱い決意も宿っているように見えた。


 そして、そんなエアの傍らには頼れる相棒としてバウの姿もあり、気持ち悪そうにしているエアの背中をずっとさすってあげながら、【回復魔法】をかけ続けている。



「すーはー、すーはー、ありがとバウ……ふーっ、もう一回いくよ」


「ばうぅー」



 エアは何回も深呼吸をして呼吸を整えると、魔力の殆どを費やして『お食事魔力』を生成した。……これでだいたい五回目位になるだろうか。エアも段々と手慣れて来たようである。


 作成までにかかる時間もだいぶ早くなってきており、早速出来上がったものはバウへとパスして、受け取ったバウはそれを一口でパクリと飲み込んだ。


 そして、エアは『お食事魔力』を食べたバウは、声を出して嬉しそうな笑みを浮かべている。……どうやら段々と味も良くなってきているみたいで嬉しそうだった。



 するとエアは、そんなバウの嬉しそうな顔を見ると自分もニコリと笑みを浮かべて、少しふらつきながらも直ぐに立ち上がり、大樹の近くある『魔力の滝』へと近寄りながらまた『天元』に魔素を通す為に集中し始めたのである。



 エアは宣言通りに『アンチエイジング魔力放出法』という訓練をしながら、一緒に『お食事魔力』の練習も重ねて行っていた。

 まだまだ食べ足りていなかったバウにとってはこれはなんとも嬉しい訓練であろう。



 一回食べる毎にバウの反応も良くなってきて、訓練の成果が上がっている事を肌で感じる事が出来ている為か、多少具合は悪く見えるがエアの訓練に対する気合は凄く高い。



 本来、魔力を放出し直ぐにまた意識して強制的に回復するというその作業は、ある種の苦行カテゴリーにも入る訓練法ではあるのだが、エア程の魔法使いにとっては気合でどうとでもなるレベルであるようだ。……さすがエアである。私も見習わなければと思う。





 それにもう一方では、同じくバウの『お食事魔力』の為に、『マテリアル』に適応した精霊達が自分たちの魔力に宿る『苦味』を取り除くために、あれこれと相談しながら訓練を重ねていた。


 そんな彼らの目の前には、エアの作った『お食事魔力』が一つプカプカと浮かんでいる。


 自分達の発する魔力に『混ざり』がある事を知った彼らは、エアからお手本となるその『お食事魔力』を一つだけ借り受けて、それを凝視しながら魔力の純度をあげる為に真剣に取り組んでいた。



 普段から何気に使っている自分達の魔力を『無力透明』だとすると、その透明感にも個人ごとに違いがある為、それを意識して魔力を調整し、もっと透き通って澄んだものにしようと彼らは頑張っているのである。



 エアは普段から『天元』に魔素を通す事で、各種属性の純度を上げるという行為にも慣れていた為、精霊達よりもこの能力が段違いに優れており、魔法巧者である精霊達が『見本』にしたいと思う程に素晴らしかった。

 『お手本にしたい』と精霊達に頼まれた時のエアの嬉しそうな顔は、私としても当然喜ばずにはいられない光景だったのだ。



 それに、よく視ると精霊達の成果も着実に上がって来ているようで、魔力の調整は上手い事行きそうな雰囲気もある。皆調子が良いらしい。


 最初はどうなるかと思われたバウの食事事情ではあったが、この調子ならば問題ないだろうと私は思った。



 ……ただ、こうして皆が良い雰囲気だと、私もそれに続きたいとも思う。


 それに、皆の頑張る姿を見つめながら歯痒い思いを感じていた私だが、なにもただ見つめていただけではなく、確りと自分でも出来る事を必死に頑張り続けていた。



 そもそもの話、折角私は成長したのに、前より出来る事が減ってしまったのでは本末転倒だった。

 折角成長した意味がない。


 なので私は、皆を見習って、とりあえずは自分でも魔力の調整をしようと思ったのである。

 



 ──するとだ、私はそこでとある発見をしたのであった。



 因みにだが、私はあの日から、何気にずっと各地の様子を視たままの状態で過ごしていたのである。

 それも成長によって、私はもはや魔力の探知を使うまでもなく、意識をただ向けるだけで各地の様子を手に取る様に知ることができ、意識を向けるだけで無意識に魔法さえも自在に使える様になっていたのであった。



 ……つまりは、そんな事が無意識で出来ていた事に、私は今の今まで気付かずにいたのである。



 そんな馬鹿な話があるわけないだろうと思うかもしれないが、基本的に私達感覚派の魔法使いは感覚のみで魔法を使う為にどうにも差が測り難いのだ。

 ただ、一度気付けば以前はここまでじゃなかったとハッキリとわかったのである。


 小難しい『詠唱』をする事も無く、『威力はこれだけ、範囲はこんなもの、属性はこれがいい』など面倒な条件指定まで極論だが態々考える必要もなくなっていた。



 ただただこの世界に己の魔力をもって魔法を発現させ、『結果』のみを意識するようになっていたのである。



 ──要は、自分の魔力で世界に色を塗り、そこを己の『領域』として扱い、意志のままに好きな魔法の影響を及ぼすだけの存在になっていたのだ。



 そして、五つの大陸と言う広範囲において、私は自分の分身とも呼べる魔力の塊である『ドッペルオーブ』を付加した『白い苗木』を植え、そこを『大樹の森』とし、その土地や空間に最早自分の意識していないレベルで魔力を分け与えていた事によって、疑似的に自分の存在自体も大きく膨れ上がっていた。


 そのおかげで私は、遠距離から広範囲に魔法を使う事が出来ていたのだけれど、そのせいで皆の事には意識が向くばかりで、自分の事がよくわからなくなっていたのである。




 ──そして、もっと重大な事を簡単に言うのならば、エア達の傍に確かに私の意識はある。

 ……だが、気づけば私は、自分の身体が未だここに無い事に全く気づいていなかったのであった。



 『…………』



 ただそれも、身体をあの瞬間に失ったと言うわけではなく、身体の感覚は感覚としてそのまま残っているのだが、その存在は疑似的に膨れ上がった状態のまま、私の身体は全て魔力へと変換されたままになっていたのである。


 バウ達の事を撫でようとしていたのも、ただただ私の意識と感覚が込められた魔力が『領域』内を動いたに過ぎず疑似的に手の形になっていただけなので、そりゃ当然触れられる筈もなかったという訳であった。



 そして、白いゴーレム達が私の事を視えた理由も、彼らは基本的に他の誰かやよくわからない存在に勝手に支配されたり操られたりしない様にする為、私の魔力を特殊に識別できる機能を彼らに備えさせていたが事が理由だと私は気づいたのである。




 なので少し遠回りはしたが、結論として、身体を再び魔力から再構成すれば簡単に私は元通りになる……筈。そんな気がする。

 ただまあ、今はまだ恐らく、完全には元通りにはならないだろうとも思った。



 何故なら、有難くない事に私には『領域』内から『信仰』という力も現状は流れ込むようになっており、その力が増えたせいで私一人分の身体はそれを押し留めておくだけに足る器の余裕がないのである。


 そのせいで、今無理矢理元に戻ろうとしても、最悪は力に耐えきれず元の身体は弾け飛ぶ事になるだろう。そんなのは嫌だ。


 だから、きっとそうならないように私の感覚が無意識的に今までは私の身体を魔力へと変換してくれていたのだとは思うのだが、現状はまだ元に戻る為に一部をまだ疑似的に魔力に変換したままにしておいた方が良いと私は判断したのである。




 ──そこで早速とばかりに、周りの皆の良い雰囲気に続けるように、私も魔力の一部だけを変換し、精霊達の『精霊体』に似た身体を構成して密かに戻ってみたのであった。



 『……ふむ』



 ……うむ、そこまで悪くはなさそうである。

 ひっそりと戻った上に、魔力的にも抑え気味で殆ど綿毛の精霊達レベルの魔力量しかない為にまだ誰も気づいていない。

 そこで丁度良く、私の目の前には四精霊がエア達の方を応援して見守って背中を向けて居た為、私は彼らに戻った事をまず知らせようと思って近寄った。


 四精霊達は私の接近に全く気付かかったが、私がポンポンと火の精霊の肩を叩くと、彼はこっちにチラッとだけ視線を向けると、『なんだ錯覚か……』と呟きながらまた前を向き、そして数秒後にまたこちらへとガバっと身体ごと振り返ったのであった。



 『だああああああああああああーーーーーーッ!!!!』




 そして、再度振り返ったと同時に彼はそんな奇声を発し、綿毛の精霊達位の力しか備えていなかった私は、その圧で存在ごと消し飛ばされてしまったのであった。


またのお越しをお待ちしております。

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