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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第341話 啾啾。




 私の姿が視えなくなった後、バウはまた何度も悲しい声を上げた。

 そして、精霊達は私のローブを見ては皆で嘆き悲しんでいる。



 彼らのそんな姿を見ているだけで、私としては胸が痛くなった。



 だがいつまでもこうして見ているだけでは居られない。

 皆に勘違いして欲しくないのだが、何も私は死んだわけではないのだ。すぐ傍にいるのである。

 君達が『ロムさん……俺たちは惜しい人をなくしてしまった……』みたいな話をしているが、全部丸々と私に聞こえているぞ。忘れないで欲しい。



 私は一応、彼らに触れられないかと思い、一番近くにいるバウの頭をクシャクシャとする様に手を伸ばしてみた。

 だが、やはり想像していた通りに私の手は空を切り、手はバウを通り過ぎて触れる事が出来なかったのである。



 ただ、まずそれをちゃんと確認できた事は良いのだ。

 なにせ、私は成長して変わったばかりで、まだまだ知らない事が多い。

 感覚として大雑把には予想がつくけれど、細かい部分まではまだ何も己の事が分かってはいない状態に近いのである。


 だから今の私が何が出来て、何が出来ないのかをもっと知る事が出来れば、皆とも普通に意思疎通ができる方法が、もしかしたら見つかるかもしれないと私は密かに考えていた。



 そうすれば彼らを、そしてエアやバウを悲しませる事も無くなるだろう。



 今回、急激に色々な事が起きたが、その結果として得た成長を私は前向きに捉える事した。

 例え現状はあまり芳しいとは言えなくとも、この先はまた私の頑張り次第で如何様にも変えていけると思ったのだ。



 それに、私は魔法使いである。

 どれだけ成長し変わろうとも、それだけは決して変わらない。

 私達は魔力を用いて望む結果を思い描き、引き寄せることが出来る生き物である。


 ならばまた皆で、笑ってあの穏やかな時間を共に歩む為にも、私はこのまま立ち止まる事なく進み続けて解決法を探して行こうと思う。



 バウや精霊達が私を想って嘆いてくれる事は、大変に嬉しい。

 ……だが、出来る事ならば、君達もまた悩む事なく歩きだしてくれたらと思う。


 大丈夫。私たちは近くにいる。

 それに私は君達をとても大切に想っている。

 それはこれまでもこれからも、決して変わらない。

 私は皆で、前を向いて生きていきたいのだ。



 と言うわけで、私は魔力を使ってそんな色々な想いを、彼らへと向けて試しに放ってみた。

 ……でも、どうやら上手くは伝わっていないらしい。

 だが、やってみなければわからない事の方が多いので、このまま色々と試してみようと思う。

 ……なーに、失敗してもまた別の方法を試せば良いだけなのだ。




 そうして私は、皆に気付いて貰える方法は無いかと色々と魔法を使い試し始めた。

 火や水、土や風、基本とする魔法を先ずは一通り試してみて、【空間魔法】の収納からみんなの為に作った服や道具や食べ物などを色々と取りだしては皆の前に並べてみたりもしたのである。



 だがその結果、どれも認識して貰う事は叶わなかった。

 私が『次元』を超える寸前に渡した白いローブならば彼らも認識できたみたいだが、今はもう取りだした品物は何一つ彼らに贈れない事が分かったのだ。


 作った服を皆の前でヒラヒラと揺らしているだけの私の姿は、もしかしたら滑稽かもしれない。

 だが、それでもいいのだ。何事もやってみなければ、それがダメなのかどうかさえ分からないのだから。



 『……ん?』

 


「バウーっ!」



 ──するとそんな私達の元へと、エアが帰って来てくれた。


 全力以上で走って来たのだろうか、息は整う間も無く酷く乱れたままである。

 エアはそのまま真直ぐバウの元へと近寄り、エアが帰って来たことに気づいたバウはエアの元へと大きく飛びついた。


 バウは悲しさの全てをエアへと伝えるかのように、声をあげながらエアにピタッと抱き付いている。

 エアはそんなバウを撫でながら、きょろきょろと辺りを見回し、恐らくは私の姿を探していた。



「ろむ……」



 そして私の名を呼ぶと、エアは一瞬だけ泣きそうな顔になったが、一旦大きく深い息を吐くと、ぐっと我慢してバウを抱っこしたまま家の中へと入っていった。

 エアの周りには『マテリアル』に適応した精霊達の姿があり、彼らも私の回復を受けた事で既に元通りの元気な姿に戻っている。



 その精霊達は四精霊とここで何があったのかについて話をし始めると、聞いた話をそのままエアへと伝えてくれていた。



 エアはバウを宥めながら、その話をじっと静かに聞き入っている。

 私に何があり、そしてどうなったのかという話を聞くエアの姿は真剣そのもので、普段魔法の練習をする時の様な笑みは一切見られない。



 だが、話の最後に四精霊から精霊達に白いローブが渡され、更には精霊達からエアへと白ローブが手渡されると……それを見たエアもバウも遂には揃ってぽろぽろと泣き始めてしまったのであった。



 『…………』



 それまでぐっと我慢してきた分も一気に決壊し、止めどなくエアの涙は流れ続けている。



「ろむのばかぁー」



 『ずっと一緒にいるって約束したのにぃ』、『うそつきぃ』と……泣きながら漏れ出てくるその言葉一つ一つが胸に痛い。

 『すまない。ごめん。申し訳ない』と、エア達のその悲しむ姿に、私は何度何度も謝っていた。



 『傍にいるのは分かったけど、会えないのは悲しいのだ』と。

 『なんで?どうして?ロムばっかり』と。

 『ろむ、返事してよっ』と。



 怒りと言うよりは、悲しいものは悲しいのだと、エアは心の底から涙を流し、素直な気持ちを吐き出し続けた。

 そんなエアの姿を見て、精霊達もまた悲しい表情を浮かべている。

 四精霊はエアからは見えないだろうけど、一緒になってわんわん泣いていた……と言うか、彼らはエアよりももっとはっきり私の事を詰り続けている。



 『旦那のばかーっ』『魔法ばかーっ』『不器用』『親馬鹿なのに、エアちゃんをこんなに泣かせてどうするんですかっ!戻ってきてくださいよっ!ばかーッ!』



 ……君達も本当にすまない。



 ──結局、その日は泣き疲れ悲しみ続けて疲れてしまったのか、エアとバウは私の白いローブを持ったまま一緒に眠りについてしまった。



 ……そうして私は、予想していた以上に皆が悲しんだ姿を見て、なんとかみんなと意思疎通できる方法はないかと、一晩中朝まで一人で試行錯誤し探し続けるのであった。


 



またのお越しをお待ちしております。

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