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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第34話 屁理屈。



 『ずるいのです』


 最近はエアが魔法の練習にお熱で、とんと登場が無かった光る槍こと光の精霊が、久しぶりにかばんから出してもらった途端に私にそう言って来た。因みにエアはもう家の外で魔法の練習中である。

 まあ光の精霊の気持ちは分からなくもない。かばんの中はやはり住み心地が良くなかったのだろうか?



 『悪くはなかったのです。のんびりできたのです』



 ほう、そうなのか。では、それ以外に不満の原因があると言う事か。

 ……具体的にはどうして欲しいんだろう。私に出来る事なら叶えたいと思うが。



 『わっちは光の精霊なのです。わっちの幸せは元気な子を傍で見ている事なのです。光を与え光を与えてくれる、そんな関係を築くために存在したいのです。だから近くで見れてない状況はなんとなく嫌なのです』



 ふむ。つまりは、かばんの中にしまうのは出来れば控えて欲しいと言うことであってるだろうか?



 『はいなのです!そうして貰えば十分なのです!わっちは多くを望まないのです!ただそれだけなのです!家を作れなんても言わないのです!粗茶を一緒に飲む必要もないのです!ただそれだけなのです!』



 かばんの中に居たのによく知っている。やはり精霊達の耳の早さは驚くべき程だ。

 だが、必要な家を作る事ぐらいはべつに多くを望むうちに入らないと私は思っている。大豪邸をここに建てると言うならまだしも、もし欲しいなら光の精霊用の少し光る家を作るのは吝かではない。なんならその槍がちょうど収まる位のケース型の家でも作るか?



 『……いいのです?』



 もちろんだ。それに闇の精霊とはいずれエアとも一緒にあの家でお茶を飲む約束までしている。

 なので君もまた同様にエアが声を聞けて姿を見える様になったら、一緒にお茶会が出来る家が欲しくなるのではないか?その槍の姿のままだと出来ない事も多いとは思うのだが。



 『でも、わっち、"家を作れなんて言わない"ってもう言っちゃったのです。精霊は自分の発言に責任を持たないといけないのです。わっちは正しく在らねば、わっちはわっちじゃいられなくなるのです』



 ……ふむ、それは初めて聞いた。

 もしかすると、それぞれの属性に傾倒する精霊達は、それぞれ独自のルールでもあるのだろうか。

 基本的に己の領域を守り、他の領域を侵すべからず。そんな厳しい戒めでもあるのかもしれない。

 いや、だからこそ彼らは……。



 ……だが、それは今は置いておくとして、この場合はもっと簡単な解決方がある。

 そう思った私は、頭に浮かんだとある思い付きを光の精霊へと提案した。



「では、エアに力を貸してくれているお礼に、私達からのプレゼントと言う事で贈らせて貰うのはどうだろうか?"家を作れ"といわないだけで、"家に住まない"と言っているわけではない。そうだろう?」



 『それは、そうなのです。けど……』



 粗茶も一緒に飲む必要はないかもしれない。

 だが、飲み物はお茶だけではないのだ。いずれ行うエアとのお茶会では、紅茶でも一緒に飲んであげてくれると、私は嬉しく思う。



 『そんな屁理屈……ありなのです?』



 私はありだと思う。物は言いようだし、考えようだとも言うぞ。

 精霊達はみな、ほどほどというのが少し苦手らしいから、私はいつも君達にそれを伝えたく思う。

 大丈夫。少しくらいの屁理屈をこねた所で、君達の正しさは失われない。


 光の精霊だから特にそこに拘るのかもしれないが、火の精霊達なんかはそこら辺の判断が上手く、緩くておちゃめが過ぎるくらいだ。

 ただ、そんな彼らでも、ちゃんと守るべき所は守り、侵さず、冗談は言うが決して嘘は吐かない。

 それに、言葉の成否の判断は、受け取り手の判断にも委ねられる事がある。この場合は私だ。

 だから、私は再度告げた。



「大丈夫。少し屁理屈をこねた所で、君達の正しさは失われない」



 領域が異なれば考え方も変わるのかもしれないが、君達の基本的な部分はみんな変わらないと、今まで多くの精霊達と接してきた私は思う。



 エアの槍だと君は前に言ってくれたが、槍にも形状は沢山あるのだ。

 心にその自覚があるならば、例え人型だろうと槍は槍だと私は思っている。

 その覚悟があるならば、紅茶を飲む事くらいはできるだろう?

 因みに、こっちは屁理屈ですらない。その覚悟があるかないか、それだけの話だ。



 『ふふふっ、わっちはなんだか、面白くなってきたのです』



 ……君達はエアの傍に居たいと言ってくれた。

 だから、私は私の出来る領域で、君達に最大限の何かを返していきたいと思ったのだ。



 『なんで、あの子の為にそこまでするのです?』



「それは簡単だ。私がそうしたいと、出会った時に思ったからだ」



 君は何故、あの子の槍になってくれる気になったんだ?

 と、今度はお返しに、私がそう光の精霊へと尋ねた。

 その問いに、光の精霊は笑みを含んだ声で、こう返す。



 『わっちが一目で、そうしたいと思ったからなのです』と。



 そうして、私達の間には穏やかな空気が流れた。

 今日にでも、光の精霊の家を作ってあげようと私は思う。


 だが結局の所、光の精霊はどんな家を好むのだろうか。

 光る事は前提として、本当に槍のケース型ハウスを作ってみるのは一興かもしれない。

 そう考えた私は、密かに心で笑みを浮かべた。



またのお越しをお待ちしております。

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