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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第336話 流行。




 屋敷に顔を出し、とりあえず皆に大きな問題が無い事を確認できて私は安心を得た。


 正直、『マテリアル』と言う存在には複雑な想いしか抱けないが、皆に害が無ければそれでいいとも思う。



 周囲の空間にある魔素や『淀み』の量と言うのは長い時間の中で気付かぬ内に微妙に変化していくものなのだ。だから基本的に人の力ではどうしようもない問題なのである。仕方のない話だ。



 ただ、今回の様にいきなり『淀み』が増加し、世界に大きな影響を与える事は極めて稀な事なので、私としてもより周囲の状況には気を配って行きたいと思った。

 今回は増えたが、少ししたらまたいきなり減少する事もあり得るので、長い目で見て警戒をしていく事にしたのである。


 よって現状は、危険ではあるけれど、大騒ぎにする程ではないと判断し……ん?



 『旦那……』『相談があるよー』『問題』『少し予想外の事が起きていました』



 だが、そうして『大樹の森』へと戻ってきた私を出迎えてくれた四精霊の表情はとても暗く、何か問題が起きてしまったと言うので、その理由を尋ねてみた。


 ……すると、なんでも『マテリアル』の影響を受けて力を増した精霊達、それも今回のイベントで特に活躍した彼らが不思議な状況になっているらしい。



 そもそも『淀み』の影響をあまり受けにくい筈の人でさえ様々な影響があったのだから、自然により近い精霊達はその影響がもっと大きく出るのは分かる話ではあった。



 基本的に『大樹の森』や私の周囲は、居心地良く過ごせる様に周囲の環境の調整を魔法でしている為、暑くも寒くもなければ、余計な『淀み』が溜まりそうなときには直ぐに浄化で払ってもいる。


 その為、近くにいる精霊達は気づくのが遅れたようだが、空を飛ぶ『第五の大樹の森』等で他の場所を経由してやって来た各地の精霊達は『マテリアル』への適応が既にかなり進んでいるらしいのだ。



 ただ、適応が進んでも今の所は大きな問題にこそないと思っていたのだが、彼らは今まで以上の力を得た際に『差異』を超えていたようで、逆にこちら側へと一歩を踏み出していた事に気づいたのであった。



 つまりはその結果、何が起きているかと言うと──



「はいっ!エアちゃん!これどーぞ!わたしの『領域』の近くにある綺麗な果物なの!」


「わたしの方も、見てみて不思議な形だけど甘いのよ?」


「俺の方は丹精込めて作った野菜だ!この周辺よりもずっと寒い地域で作った選りすぐりの野菜だからな!また旨みが違うんだ!是非とも味わってほしい!」


「わーっ!みんなありがとうっ!嬉しいっ!」



 ──なんと、精霊達の姿がエアに普通に視えているのである。



 私達の視線の先では、『マテリアル』に適応した精霊達とエアが普通にお喋りしていた。

 ……つまりは、適応した精霊達はある程度高レベルの魔法使いならば、普通に精霊達の姿が視えてしまうし、会話も出来るし、触れ合う事も出来る様になっているのである。



 エアは優れた魔法使いではあるが、まだ『差異』へと至れるまでの魔法使いではない。

 だがそれも、精霊達の方から一歩を踏み出してくれたならば話は別である。


 エア程の技量を持つ魔法使い達はそうそう多く居る訳ではないが、精霊を普通に見る事が出来る様になった変化はきっと大きい影響を及ぼす事になるだろう。



 きっと多くの者達が驚き、そして驚く以上にこれにまた『利』を見出す者が沢山出てくると思う。



 何しろ『精霊』とは魔法使いの世界において『力』の象徴そのものである。

 だからこれまで、そんな彼らと話をしたくても出来ずにいた魔法使い達は星の数ほどいた。

 思惑は様々あるだろうが、『精霊の協力を得たい』、『精霊達が使うような魔法を自分でも使いたい』と考えを持つ者は多いと聞く。



 なにより、ある意味で憧れの存在である彼らと、普通に話せるだけで喜びを感じるものは沢山居るだろう。

 


 それに、嬉しいのはなにも人の側だけの話ではないのだ。

 精霊達にとっても、ずっと魔法使い達や気になるあの人と普通にお喋りしたり触れ合ったりしたいと想っていた者は多いのである。



 彼らはずっと、これまでは一方的に見つめる事しか出来なかった。

 彼らはずっと、言葉を交わしたいと思ってもそれが出来ずにでいた。

 彼らはずっと、普通に人と触れ合い、そして愛したいと想ってくれていたのだ。



 『マテリアル』は精霊達にとっても、『救い』となろうとしている。

 互いに求め合う者同士を繋ぐ、まさに『希望』だった。

 そんな両者の邂逅はきっと美しく見えるだろう。



 しかし、それはまだ一部の者同士のみの話。

 精霊達の中では『マテリアル』に適応した力のある精霊だけが、己の『領域』を広げてこちらの世界へと一歩を踏み出して来られる。


 そうしないと、人と話す事が出来ない。

 ……ならば、『マテリアル』に自分も適応したいと考える精霊は沢山増えると思う。


 だが、そうすると問題が色々と出て来るんじゃないのか?と言う──そんな話であった。



 『旦那、きっと人の中には俺達と上手く生きられない者もいるだろう?』『怖がられたり拒まれたりする可能性もあるよね?』『……でも、好奇心は止まらない』『わたし達はマテリアルにも適応力が高いようですし、いつの間にか変わってしまうかもしれません。自分が勝手に変わってしまうのが怖いです』



 『……だから、どうしたらいいでしょうか?』と言うのが四精霊の悩みであり、それは今後の精霊達全体の悩みでもあると言えた。


 精霊達は基本的に人と友好な関係を築きたいとは思っているが、人側も必ずしもそうであるかと言えば、きっとそうはなり難いのが現状なのである。



 なにせ、触れ合う事が出来る様になったと言う事は、つまり互いに愛し合う事も出来る様になった訳ではあるが、同時に傷つけあう事も出来る様になったと言う事。……その機会は多くなりそうだと私も思う。



 それに、魔法使いは精霊達を好意的に見るかもしれないが、他の者はそう思わないかもしれないし、魔法使いの中でも精霊達を独善的に扱おうとする者がいるかも知れない事。……精霊達を無理矢理捕まえようとするものや、必要以上に恐れてしまうものも出るかもしれないな。



 そして、それらの危険性がある事は知りつつも、それでも尚、人と同様に『マテリアル』に積極的に関わろうとする精霊や、逆に関わりたくなくても自然と環境状況によって『マテリアル』に適応してしまう事を恐れている精霊がいる事。……新しい変化と言うのはいつだって良くも悪くも何かしらの影響を与えるものである。



 これでもきっと一部ではあるとは思うし、時間が経てばもっと大きな問題が沢山出てくることだろう。

 だからきっと、それを思うと彼らは不安で仕方が無いのだ。



 いつだって私達はのんびりとやってきたから、急激な変化にはついていけない気もしているのだろう。

 ……だが正直、それは私だって一緒だった。

 そんな彼らと共に、ずっと生きて来た私なのだ。その気持ちはよく分かる。



 だから、私は不安そうな四精霊をギュッとまとめて抱きしめると、屋敷で老執事に言われて嬉しかった言葉を自分なりに少しだけ変えてから彼らにこう伝えた。



「──私が居るから。いつでも君達を絶対に助ける。私を信じて欲しい」



 ……正直言って、この先にどれだけ大きな問題が起きるのかは現時点では私にもわからない。彼らの不安も直ぐには解消してあげられないだろう。


 だが、例えどんな問題が起きたとしても、その度に私は君達と一緒に居て、その問題を解決する為に尽力するからと、屋敷の皆を守る様に、私は君達の事もきっと守るからと。



 だから、信じて任せてくれと──。



 私の腕の中で、四精霊はひとまとめにされて苦しそうにしながらも、どことなく嬉しそうに笑っている。

 私はそんな彼らの微笑む姿を見ながら、『守りたいものは何があろうとも絶対に守り抜く』と、改めて固く心に誓うのであった。




またのお越しをお待ちしております。

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