第333話 確乎。
私とエアとバウは『大樹の森』へと帰って来ている。
約一月ほど連日降り続いていた雨もようやく上がったので、皆に見送られながら私達は屋敷を出た。
その帰り際、見送りで玄関前に揃った皆の足元には彼らにどことなく似ている小さいゴーレムくん達がチョコチョコと後を追いかけながら、主と一緒に私達へと手を振ってくれている。
元々は、屋敷の広い一室に作ったフィールドの中でのみ自由に動ける仕様で製作したミニミニゴーレムくん達だったのだが、子供達の激しい希望もあって、屋敷の中までなら『第三の大樹の森』から魔力の補給が受けられるように改良し、ずっと動き回れるようにしたのであった。
流石に屋敷を出てしまうと動けなくなってしまうのだが、屋敷だけでも十分だったようで、子供達は自分の相棒とも呼べる改良されたミニミニゴーレムくん達と一緒に屋敷を駆けまわって遊んでいた。
ある程度は判断能力もあり、自分の主の指示には従うので、大人達にとっても中々に彼らは好評である。
『あれを持ってきて欲しい』『誰々を呼んで来てほしいんだけど』とお願いするだけで、コクコクと頷いて全力でスタタタタ―と走り出して行ってくれるゴーレムくん達の姿は可愛げの塊で、その一生懸命な様子を見るだけで不思議と屋敷の皆は癒されている雰囲気であった。……ペットを愛でる感覚なのかもしれない。
因みに、各種装備品によるゴーレムくん達の能力上昇カスタムも屋敷の中なら有効なので、戦うわけでもないが、各々ゴーレムくん達は思い思いに好きな格好へと着せ変えさせられていた。
ただ、カスタムによるゴーレムくん達の能力変化は地味に馬鹿に出来ず、攻撃力重視で良い剣を装備させたミニミニゴーレムくんは水が沢山入った大きな水瓶などを『ひょいっ』と軽々持ち上げてくれる様になる。
また、速度重視で良い靴を装備したミニミニゴーレムくんは、伝令役として皆に食事時を知らせる係として活躍しているし、杖を装備させたミニミニゴーレムくんはある程度の魔法も使ってくれる様にもなるので、お父さん達の魔法道具作りの手伝いや、お母さん達の料理の助手などで幅広く活躍していた。
何気に、もし屋敷に『ゴブ』が現れたとしてもある程度時間稼ぎをしてくれるので、屋敷の皆の安全面を守る上でも役に立ってくれているのだ。
屋敷の皆は安全面で不安のある例の魔石を使った魔法道具の指輪をしておらず、お父さん達が改良型の『ゴブ避け』魔法道具を作ってくれるのを待っていた状態と言う事も相まって、ゴーレムくん達の存在はかなり有難かったらしい。……『正直、冒険にも連れて行きたいくらいですよ!』と語る冒険者組に、お父さん達はいずれゴーレムくん達用の補給魔法道具も作りたいと言って笑っていた。
『作りたいものが沢山あって困る』と嬉しそうに語るお父さん達。今後も是非とも頑張って貰いたい。
──そうして、長雨で気分が落ち込みがちだった屋敷の皆の元気も戻った為、私達は『大樹の森』へと帰って来た訳だったのだが、こちらはこちらで何やら凄い変化が起きており、何故か物々しい雰囲気に包まれていたのであった。
と言うのも、イベントにやって来た精霊達だと思うのだが、何やら彼らは全員武装をしているのである。
普段はまるで街の住人とほぼほぼ変わらない姿だったり、各種属性に沿ったとても趣のある姿をしている事が多い精霊達なのだが、今回はほぼほぼ皆が剣だったり槍だったり盾だったりを必ず身につけているのだ。……これはいったいどうしたことなのだろう。
『あー、旦那。実はこれ……』
そこで、いつもの四人の内、偶々近くにいて凄い疲れた顔をした火の精霊に聞いてみた所……どうやら彼らは『白銀の館』での私達の様子を見ていたらしく、それを他の精霊達に情報として流したらしい。
と言うのも、なんでも彼らは今回のイベントで、今度こそ絶対に『ゴーレムくん軍団』を倒したいと言う熱い意気込みをもって臨むらしく、あの日からずっと臥薪嘗胆の精神で対策を練り続けて来たそうなのだ。その為の訓練も沢山重ねたらしい。
……だが、訓練を重ねて幾ら強くなっても、精霊達にはどうしてもとある不安要素が拭えなかったのだと言う。
それが何かと言うと、つまりは──私と言う存在だ。
『──旦那は絶対に何かして来ると思ったんで。だから俺たちは密かに情報収集に励んでいたんですよ……』
──私と言う存在が、きっと何かしらの奇策を用いて来る筈だ。ならばそれにも対処しなければいけない。そうしなければ『ゴーレムくん軍団』に我々は勝てないだろうと、精霊達は完全に本気で、全力で対策を立てて、取り組んできたようなのである。
そして、私が何をして来るのか分からないならば、先ず偵察を行なうべきだろうと、私の行いをずっといつも以上にそっと隠れて監視していたのだとか。……通りで最近、君達の登場が少ない気がしたが、そんな確りとした理由からだったのか。
彼らは私が『ミニミニゴーレムくん軍団』に専用装備を作って戦わせている様子を見て、きっとこれまではずっと魔法戦主体で戦ってきた『ゴーレムくん軍団』が、今回からは接近戦も挑んでくる様になるだろうと判断したらしく、その為に精霊達の中でも凄腕の鍛冶職人集団として知られる火の精霊達にここ連日頑張って貰って、参加する精霊達全員の分の装備品を整えて貰ったのだそうだ。
そのせいで多くの火の精霊達は虚ろな目をしているけれど、代わりに彼らが作った装備品はどれもキラキラと光り輝いて見える。よく見ればそのどれもが一切の手抜きのないオーダーメイド品ばかり。私はそこに精霊達の本気を感じたのであった。……あっ、火の精霊達は無理せずに、うむ。みんな休んでなさい。
それに実の所……彼らに言ったりはしないが、彼らの偵察は正解で、読みも正鵠を射ており、私が今回ゴーレムくん軍団に授けた作戦はまさに『近接戦闘』にあった。
……正直、内心では大量の冷汗をかかざるを得ない状況である。
流石は長年の付き合いもあって、精霊達は私の事をよく分かっているらしい。
だがしかし、作戦はバレてしまったかもしれないけれど、私としては今更急に作戦変更を命令するつもりはなかった。
と言うのも、『ゴーレムくん軍団』に授けた作戦は毎回一つではなく、その状況状況に応じてボスゴーレムくんの判断に任せる仕様となっているのだ。
なにより、ボスゴーレムくんに私が『他にも作戦を増やすかい?』と尋ねた際、彼は胸を張って静に首を横に振ったのである。
その様はまるで『今回はあちらが一枚上手であったと言うだけですな。……ですがなーに、充分です。心配はありませんよ。あちらが本気である様に、こちらもまた本気なのです。負けるつもりは一切ありません。それに、彼らが学びを得て成長したように、我々もまた成長している。同じ分だけ成長しただけでは彼らは決して我々に追いつく事は敵わないでしょう。……閣下、ですから安心してご覧になって頂きたい。我々は絶対に勝ちます。此度の戦も必ずや閣下に勝利の美酒をお届けする事でしょう!』と……言うかの如く自信に満ち溢れていたのであった。
当然、そこまで言われれば私も、後は彼らを信じるだけである。……がんばってくれボスゴーレムくん。
「…………」
──だがしかし、そんな各自の思惑もありつつ始まった待ちに待ったイベント戦。
『ゴーレムくん軍団』は、大敗を喫したのであった。
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