第33話 茶。
『そちゃ』
私は今、闇の精霊の小さなお家、黒はにわハウスへとお邪魔していた。
そして、今は黒はにわさんこと闇の精霊にお茶を出して貰って一緒にずずずーっと飲んでいる。
落ち着く。こういう一時に、心の安らぎを感じるのは自然なのだろう。
穏やかな日差しの中で飲む紅茶、夕暮れの珈琲、夜のお酒に、深夜の粗茶。どれもいい。特に最後。
と言う訳で、日付が変わる様な深夜帯、花畑の一角にちょこっと建っている黒はにわハウスの中で、私と闇の精霊の二人だけのお茶会は静に幕を開けた。家への入り口は小さいがそこは己にまやかしを施して身体を小さくしてから入る。
「住み心地はどうだ?」
おもてなしの心が沢山詰まった粗茶を堪能した私は、闇の精霊にそう尋ねた。
なんと言っても、急ごしらえで作った為なにか不備がないだろうかと言うその言葉に、闇の精霊は首をコクリと一度縦に頷きを見せる。
『さいこう』
どうやら喜んでもらえているらしい。流石精霊だけあって、魔法の扱いはお手の物なのだろう。私が作った時には無かった家具や内装が色々と増えていた。はにわ型ベットに、はにわ型タンス。その他色々のはにわグッズ、そのどれもが可愛らしい一品ばかりである。深いこだわりを感じた。
あまりじろじろと見つめ過ぎるのは失礼にあたるかと思って自重し、私は一言だけ可愛らしくていい部屋になりましたねと闇の精霊に言った。
『ありがと』
また小さなお手てを目の上の位置に当て、くねくねと黒はにさんは身体を左右に揺らし、嬉し恥ずかしそうにしている。今回はご招待と言う事で私はここにいるが、やはりまだ人付き合いは不慣れらしく、他の精霊達もあれから姿を見ていないらしい。これから少しずつ慣れていって貰えたら嬉しいと思う。
『おかえし、したい』
今回、黒はにさんが招待してくれた理由が、この家をプレゼントしてくれた事に何かお返しできることがあればお返ししたいんです。と言う事らしかった。私としては今後ともエアや私共々仲良くしてもらえたらそれだけで十分なのだが……。
『かん、どう』
ふむ。どうやら闇の精霊さんは黒はにわハウスを一目見た時から、気絶するほどの感動を覚えたらしく。はにわ愛好家としてはこれに何もお返ししないのは、はにわ道的にあり得ないのだと言う。今後ここで気兼ねなく暮らす為にも何でもいいのでお返ししたいのだとか。……なるほど、私も長年生きて来たがこの世にはまだまだ知らない事がいっぱいあるのだと敬服した。はにわ道か。未知の言葉である。
と言う事であれば、私は一つの願いが思い浮かびそれを教えて貰えたらと思った。
それはズバリ、闇の精霊達についてお話を聞く事である。
基本的に同じ精霊とは言っても、どの属性に力が傾倒しているかによって、彼らの種族は違うと思っていた方がいいらしい。だからか彼らは自分達の事ならまだしも、他種族の事をベラベラと他人に喋る様な事をしない。それが精霊達の最低限のマナーでもあるのだとか。
私はそれを最初に精霊に会った時に教えて貰い知っていたので、会ったばかりの闇の精霊達や光の精霊達についてはまだ殆ど知らないばかりなのだ。
だから、何が好きで何が苦手かは何となく想像つくが、これをされたら困るとか、実はこうなんですとかがあれば、最初に言っておいて貰った方が何かあった時にも対処がし易く、単純に精霊達の事を知れるのは私的にも喜びなのだと、色々と教えて貰えたら嬉しいですと、お願いしてみた。
『はずかしい、でも、いい』
急なお願いにも関わらず、はにわ道精神に篤い黒はにさんは二つ返事で了承してくれた。
それによると、他の精霊達と同様に基本的に色んな所で暮らして居るのは変わらないらしい。
ただ、不思議な事に闇の精霊達は自分の領域とする場所が広めで、黒はにさんも自分のテリトリーはかなり広いのだとか。因みに、今まで住んでいた場所よりここの方が良いのでこの度見事にお引越できたのだと言う。
今までの場所は他の精霊達の姿が少なかったので、ここに居られるのは本当に楽しくて嬉しいのだそうだ。ありがとうと何度か言われたので、私も来てくれてありがとうと返す。するとその度に黒はにさんはくねくねと恥ずかしそうに揺れていた。
また今の姿は実は仮初めの姿なのだとか。まあ光る槍に入り込んだ精霊を一人知っているので、たぶんそうなんじゃないかと私は思っていたが、闇の精霊もそうだとは思っていなかった。
黒はにさんも、最初は普通に女性型の精霊体で生活していたのだが、このはにわのこのデフォルメされたシンプルなキュートさに魅了されて、それからはずっとはにわ体で生活しているらしい。
聞くと、本来の姿はかなり大人でナイスバディなのだとか。くねくねくねくね、自分でそれを言っていて恥ずかしかったのか、黒はにさんは暫く、くねくねし続けていた。
得意な事はやはり、『かくれんぼ』らしい。本気で隠れてて見つかった事は今までたったの一回しかないのだと言う。
まあその一回と言うのが私だったらしく、初めて見つかったので凄く驚いたし、見つけて貰えて凄く嬉しかったらしい。他の闇の精霊達に自慢できると嬉しそうにまたくねくねして語っていた。
そんなこんなで、楽しい時間はあっという間だった。
もうそろそろ日の出も近くなり、なんとなく黒はにさんの気配も薄く感じてきた為、私はお暇を告げる事にした。
黒はにさんは少し名残惜しそうにしていたが、日中はやはり眠くなるらしく、私がまた今度来るからと告げると嬉しそうに見送ってくれた。
次回は是非ともエアも一緒でと言ってくれたので、エアが魔法使いとして成長したら必ず来ると約束する。
その際、何も言っていないけれど、今の内から歓迎の準備を整えておくと言う凄い張り切りの雰囲気を感じたので、私がくれぐれもほどほどでとお願いすると、ぎくりとして、黒はにさんはくねくねを繰り返していた。……どうやら図星であったらしい。
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