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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第325話 信頼。





「思い出したっ!あの白いエルフの人と一緒にいたお姉さんか!全然変わらないから逆に分からなかったよ!」



 そう言って笑う魔法使いの男性は剣士の女性と共にエアと再会の挨拶をしている。

 私も顔を出した方が良いかとは思うが……すまない、今は剣闘士達に囲まれているので、暫くは無理そうだ。



 あの頃の二人はそれこそ成人したばかりだったと思うが、月日は早いもので、そんな彼らも今では凛々しくそして美しくなっていた。エアも二人の変化を褒めながら楽しそうに笑っている。



 どうやら、あれから街に行って冒険者となり、それからは色々な土地を旅をしてきて、こちらの大陸にもつい最近交易船にのってやって来たのだとか。

 そして、こちらの大陸では剣闘士がかなり人気だと言う話を聞き、興味を引かれたのでこの街の剣闘場に足を運んだのだと言う。



 今日もずっと、二人で試合を楽しく観戦していたのだが、運良く今日は剣闘士達の訓練風景も特別に一部見られると言う事を聞いて居残っていたら、なんとも面白い戦いが始まったので、思わず自分達も参加したくなってしまったらしい。

 エアの鬼人族の特徴である『天元』の効果も初めて目にして驚いたそうだし、エルフの青年達の連携も見事で思わず疼いてしまったのだとか。



 ──だがしかし、残念ながらも彼らは剣闘士ではないので飛び入りの参加は当然の如く認めて貰う事は出来なかった。


 ……まあとりあえずは、このままだと他の剣闘士達の訓練の邪魔にもなるので、一旦エア達は剣闘場から去り、観客席へと移って話をする事にしたようだ。



 周囲にはどうやら観客席で他の剣闘士達もエア達を心配そうに見つめているようで、突然の乱入者がただエアの知り合いだったと分かると皆『ホッ』と安堵し警戒を解き始めている。……お騒がせしてすまない。





「──っすよね。やっぱ、剣闘士にならないとダメかー。……んー、どうしよう。なるか?剣闘士」


「わたしは別にいいけど?でもあんたはどうすんの?武器で戦う?ここじゃ流石に完全に魔法だけで戦う人はお呼びじゃないと思うし」


「だよなー。この際だから、俺もそろそろ杖術でも鍛えてみるかー」


「……もし、本当に入る気があるなら歓迎するよ。俺達も冒険者だし、ここはそう言う部分は寛容なんだ」


「暫く新人さん来なかったからね。わたし達の後輩が出来るのは嬉しいー」




 一方、エアの知り合いと言う事でエルフの青年達も安心したのか、早速何かしらの話し合いを『天稟』の二人とし始めていた。


 お互い既に相手の腕前に興味を持ち始めているようで、両者ともに出来るなら今すぐに『腕試しをしたい欲』に駆られたらしいのだが、この剣闘場では基本的に剣闘士以外の戦いを禁じられている様なので、『天稟』の二人は自分達も剣闘士になろうかと相談しているようである。……得るものは多いだろうと、お互いの顔つきは真剣そのものである。



 ……因みに、ただ腕試しをしてみたいだけならば、街の外にでも行って勝手に迷惑にならない場所でやればいいと普通は思うかもしれないが、基本的に剣闘士と言うのは戦う事を生業にしており、その戦いを観客に見せて楽しんで貰う事をその仕事の内容としている。その為、剣闘場以外での勝手な私闘はあまり推奨されていないのだ。



 これは一応剣闘士としての契約にも確りと織り込まれているらしく、エルフの青年達はその決まりをちゃんと守っていた。エアが冒険者の心得を最初に教えた時に、魔法使いとして契約の大切さも確りと伝えていた為、彼らも確りとそれを守っているようだ。


 ……あと、敢えて言うが『推奨』なので、絶対ではない。

 ただ、この部分がこの街の剣闘場側の良い所であり、最大限の配慮でもあると私は思っている。



 聞けば、街によってはこの部分が『厳守』となっている所もあるそうなので、この街の剣闘場は剣闘士達に対して凄く温かいらしいのだ。



 と言うのも、基本的に武力を商品にしているようなものなのだから、剣闘士がむやみやたらに街中でその力を振り翳したりしないようにする為、またその武力商品が勝手に剣闘場以外で戦う事は剣闘場側の利が損なわれてしまう為に、それらを避ける為の思惑として、色々と剣闘場側は剣闘士の監督責任を考慮するあまり、余所では規則を厳しめにする傾向にあるらしい。



 そして、それらの規則が厳しい分、剣闘士達に対する報酬は高いし、装備の支給や怪我をした時の回復などを剣闘場側で面倒を見てくれると言うのが普通の話なのだが、場所によってはその規則だけが一方的に厳しく、剣闘士達を縛るばかりで面倒も見ず、保障も何も一切ない所もあるのだとか。



 その点、この街の剣闘場は契約を確りと守ってくれているし、保障等も整っている。

 その上、規則もそこまで厳しくないとくれば、剣闘士達からすると安心感が段違いであろう。



 また、中には剣闘士達の持つ報酬を狙い、規則を逆手にとって悪用し、剣闘士達へと街中で喧嘩を売って来る者達もいるそうなのだが、そう言う場合においてもこの街の剣闘場は剣闘士達の名誉を守る為に逆にそんな相手を見つけたら『積極的にぶちのめして来い!』と『推奨』してくれるらしい。



 ……酷い所だと、そんな場合でも剣闘士達を守らず、街中で戦闘した事を規則違反として罰し、剣闘士を奴隷に落としたり、多額の賠償金を支払わせる街もあるというのだから恐ろしい話であった。

 


「──そうじゃなくとも、この街の剣闘場には時々、『凄腕の裁縫職人』と『可憐で鬼強い、治療師兼上級闘士エアさん』も来てくれる事があるんだから。そりゃ余所で剣闘士をするよりは、ここでやった方が一番良いと思うぜ?」



 いつしかエア達の周りには、観客席にした先輩剣闘士達がニコニコしながら集まって来ており、新人になるかもしれない『天稟』二人に向かって剣闘士の勧誘を真剣にし始めていた。



「剣闘士のファンってのは色々な街に行ってその土地の戦いを見て来るそうなんだが、聞けばこの街の剣闘士は余所の街より数倍は強えらしいぞ?どうだ?腕試ししたいならお誂え向きだろ?……それにまあ、俺達の中でも一番ヤバいのが『凄腕の裁縫職人』だっていう部分まで含めて、この場所はおもしれーしよっ!だははははっ!!」



 そう言って剣闘士達は笑い合いながら、暗に『自信があるなら掛かって来いよ』と『天稟』二人へと挑発を仕掛けてもいた。

 すると当然、『そこまで言うんなら、是非ともやってやろうじゃないか!』と受けて立つのがこの天才魔法使いの青年であり、その隣で『ああ、またこんな展開なんだ……』と頭を抱えて相方の剣士女性が溜息を吐くまでが、この二人のお約束であるらしい。



 ……まあ、何にしても彼らが剣闘士みんなと仲良くやれそうで私としては微笑ましい限りであった。是非とも二人共にもこの場所を楽しんでいって欲しいと思う。



 ──因みにだが、私やエアがこの剣闘場に自由に出入りできているのは特例の事らしく、契約などは結んだりしていなかったりする。


 私は『お裁縫』をエアは『治療』を、剣闘士達に頼まれて好きでやっていたら、剣闘場の偉い方々に凄く有難がられたようで、その代わりに私達の事を特例扱いにしてくれたらしい。

 とある日突然彼らはやって来て『これからはもうお二人の好きに使ってくださいね!』と言ってくれたのであった。



 どうやら、流石に剣闘士達の装備や治療の保障をするとは言っても、そんなもの日常茶飯事過ぎてお金がどれだけあっても足りない状況であったらしく、実はだいぶ剣闘場側では資金的に厳しかったそうなのだ。


 それが、私達が時々こうして来る事でかなり助かっていたらしい。

 『経費が半分以下になりました!』と言って剣闘場の方々も嬉しそうに笑っていた。


 ……まあ、私達はただ単にやりたくてやっただけなので、皆が喜んでくれるならばと思い、それからはこうして遠慮なくやっている、と言う訳なのである。



 現に今も……。



「……さて、次は誰かな?」


「ロムさん!俺、最近はかなりその、やられ過ぎてて、持ってる装備殆どぼろぼろなんですけど……それでも大丈夫で──」


「──勿論、構わないとも。さあさあ、どれどれ全部出してみなさい」



 私のモノクルも、今日も元気にピカピカと『遠慮なさらず!もっと持ってきても良いんですよ!』と言わんばかりに光り輝いていた。



 ……うむ。たのしい。



 ──そうして、結局は夕暮れまで私達は剣闘場で過ごし、エアは新人剣闘士となった『天稟』の二人と訓練をして楽しみ、私も心行くまで『お裁縫』を満喫して、大変満足したのであった。

 



またのお越しをお待ちしております。

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