第322話 調和。
『言祝の里』へと帰省してから二日後。
歓迎会の翌日であった昨日は、里の中をブラブラと歩いてみたり、里長の大きなお家の一室にてのんびりと過ごして、私達はゆっくりと旅の疲れを癒したのであった。
……まあ、実際はそこまで疲れていたわけでもなく、少し予定外の事があった為に休みしたのである。
──と言うのも、その日のお昼くらいには青年達も含めて、私達は全員で集まり『ダンジョンに行ってみようか!』と話していたのだが、……その青年達がお昼を過ぎても一向に起きてこなかったのだ。
歓迎会の日の夜は、随分と遅くまで話をしていたようで、沢山のお酒も飲んで楽しんだらしく、結局は夕方くらいまで彼ら五人は起き上がって来られなかったのであった。因みに、寝不足と二日酔いのダブルパンチである。
まあ、久しぶりの帰省で少し羽目を外してしまったらしく、起き上がって来た彼らは二日酔いで頭が痛む中、常に片手を頭に添えつつ、私達に凄く申し訳なさそうにして頭を下げて謝っていた。
だが、私達も十分のんびりする事ができたわけだし、ダンジョンが逃げるわけでもないし、彼らの気持ちも十分にわかったので『気にしないでいいから、寝てきなさい』と告げて彼らを寝床へと返し、私達はその日一日をゆっくり過ごした、という訳なのだ。
ただ、冒険者になり、剣闘士として彼らが頑張る様になってから、これほどまでの失態らしい失態を彼らがしてしまうのは今まで見た事がなかった。
彼らは向こうではいつも真面目に『ちゃんと真直ぐに前を向いて』やっていたので、これほどまで羽目を外してまった原因はやはり、帰省がとても嬉しかったと言う事なのだろう。
……いや、もしかしたら、内心ではもっと前から『里』の様子が気になっていたのかもしれない。
『ダンジョンの危険性』や『里に冒険者が来るようになる事』など、彼らが気にならない筈がないのだ。
だが、『金石になるまでは帰らない……』と本人達は思っていただろうし、ずっと我慢してきた事などを思えば、ついついはしゃぎ過ぎてしまった気持ちもよく分かると言うものだった。
……私も、もっと察してあげられたらよかったと、今更ながらに反省する。
そもそも、私達は全然気にしてないのだから、謝らなくてもも平気なのだ。
それに、『ダンジョンも明日行けばいいから』と伝えると、彼らもようやく少し笑顔を取り戻してくれたのであった。……うむ、良かった良かった。
「──もうっ、」
──だがしかし、話はそこで終わらなかった。
なんと急に、私の横からとある人物が一歩だけ前に出ると、『──ロムはこう言っているけど、自分の限界以上に飲まない様に気を付ける癖を付けてね。お酒は怖いんだよ?毎回べろんべろんになったら冒険者としても剣闘士としてもやっていけません!依頼の日とか、剣闘試合の日とか、今日みたいに寝過ごしちゃったら皆の信用問題になるからね。だから、今回限りにして以後気を付けるようにっ!』と、珍しくもエアが青年達へとお説教をし始めたのである。
「──ッ!?」
それには思わず私も内心で『えっ!?』とビックリしてしまい、暫し一歩先にいるエアの後姿をジーっと眺めてしまった。
……何気に、剣闘場ではいつも私は忙しくお裁縫をしている事の方が多かったので、青年達とエアがここまで『先輩後輩ぽい』やり取りをしている姿をこれまであまり見る機会が無かったのである。
だから、なんというのか、少し不思議で複雑な感動を、私は今味わっていたのであった。
因みに、青年達はエアからの指摘を受けると、すぐさま五人共姿勢を正して『はいっ!気を付けますッ!!』と声を揃えて応えているのだ。青年達のそんな姿もまた、私にとっては新鮮なものである。
……なんとも、知っている様で知らない事は身近にも沢山あるものだと、しみじみ思った。
それと、エアや青年達のそのやり取りを見て、感じ入っていたのはどうやら私以外にもいたようで……里の人達の表情もとても穏やかなものになっていたのである。
どうやら皆、笑顔を浮かべてはいるけれど、その内心で街に旅立った青年達の事をずっと心配していたのだと思う。
でも、そんなエアと青年達のそのやり取りを見た事で『ああ……向こうでも元気にやれているんだな』と知れたらしく、ようやく一安心できたようだ。
『ホッ』としている雰囲気が私の所まで伝わって来たのである。
……もしや、エアはそれさえも狙って敢えてこの瞬間にお説教をし始めたのだろうか。うむ、エアは天才だからな。思いやりもあって素晴らしい子なのだ。みんなの気持ちを察した上で行動した可能性はかなり高いと私は思っている。なにせエアは天才だから……。
──その後、昨日した事と言えば、青年達が寝床に行くのを見送ってから、私は少しだけ里の中をエアと一緒に出歩いて、里の中を見回ったりしていた。
元の里の姿をあまり覚えていないので、以前とどれだけ変化したのかは正直そこまで分からなかったが、冒険者用に建てられたお店で普通に買い物をするだけでも十分に楽しかったのである。
実際に、里がどれだけ変わったのかは青年達がいる時に聞いてみようと、エアとそんな話をしながら私達はのんびりと歩いていた。
因みに、バウはその間も朝から夕方までひたすらに絵に没頭していたようで、本人は降りて来た情熱を全部ぶつけられたらしく、とても充実した一日になったらしい。帰った時には凄く嬉しそうにしていた。
──そんな昨日を経ての今日。
青年達と一緒に私達は早速ダンジョンへと向かっている。
準備は確りと整えて、体調も万全。
昨日とは違って私達が良く知る良い顔つきをした彼ら五人がそこには居た。
道中、私達は昨日聞きたいと思っていた里の変化を青年達から教えて貰いながら、他の冒険者達と足並みを揃えてダンジョンの方へと向かっていく。
そう数は多くないが、どの冒険者も上級ダンジョンへと挑むに足る実力者ばかりなのだろう。
ダンジョンに近付くにつれて、周囲の空気が研ぎ澄まされて行くかのように感じた。
そして、自然とその空気を感じたのか、青年達の表情も普段以上にキリっとしている様に見える。……どうやら気合もかなり入っているようだ。
そうでなくとも、ここは彼らにとっては因縁の場所なのだから、彼らがやる気にならない訳が無かった。
……ただ、そんな中で、私とエアとバウだけは、いつも通りにのんびりと歩いており、少しだけ場違い感が漂っている。
だが当然、それは気を抜いている訳ではなく、常に魔力で探知もしており、油断が無い自然な状態であるとも言えた。
余計な力が入っていない分、普段のパフォーマンスを最大限に引き出せる状態だとも言えるかもしれない。
少なくとも周りの冒険者達からは、私達はきっと異質な存在だと思われた事だろう。周りの視線がそれをよく物語っていた。
そうして、暫く進んだのちに私達はダンジョンの手前までやって来た。
そこでは入口の前にギルド職員だと思われる人達が居て、冒険者達の対応に忙しなく動いている。
そして、そんな冒険者達がダンジョンに入って行くのを、『白石』冒険者である私達と『緑石』冒険者であるエルフの青年達は、横で静かに見送り続け……暫くした後に里へとのんびり歩いて戻ったのであった。
……ん?中に入らないのかって?うむ、ランクが足りないからね。入れて貰えないのである。
またのお越しをお待ちしております。
祝320話到達!
『10話毎の定期報告!』(次回は330話を予定)
皆さん、いつも『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ。』を読んでくださってありがとうございます。
だいぶ過ごし易い季節になりましたね。
個人的には、秋は小説の季節だと感じております。
普段は読まないジャンルの作品とかにもついつい手を出したくなる季節です。
一人でも多くの方々が色々な作品に興味を持って貰えると純粋に嬉しくなります。
当然、読んでて合う合わないは出て来るとは思いますが、それでも皆で小説を盛り上げていけたら最高ですね。
……そして、出来たら『鬼と歩む追憶の道。』も皆さんに好きになって頂けたら幸いでございます。
読んでくださっている方々、いつも応援ありがとうございます。
誤字修正の報告、助かります><すみません。
感想も凄く嬉しいです!
そして、ブクマをしてくださっている九十人の方々(前回から四人増)!
評価をしてくださっている二十七人の方々(前回から二人増)!
皆さんのおかげで、この作品の総合評価は436ptに到達しました!
(現在の総合評価の第一目標は500ptですので、……残りは64ptです!)
本当にありがとうございます!
今後も油断なく頑張って参りますので、引き続きどうか応援よろしくお願いします^^!
──それでは、いつものやつを確りと言葉にしていきたいと思います!声を出して、それを現実に!
「目指せ書籍化っ!」
『鬼と歩む追憶の道。』略して『おについ。』を、是非とも宜しくお願いします!
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