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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第318話 揚揚。



 新作魔法道具の開発は残りの寒い季節の間では完成まで至れなかった。

 元々、期間が少なかった事もあるし、そもそも『淀み検出と簡易空気浄化』の魔法道具と、『水刻式魔法陣──初期型』は、お父さん達が前々から密かに研究していた物を今回の事に合わせて急遽突き詰めて作りあげた物である。

 



 現状、その魔法道具に不足している部分を埋める為には、後は安全性を高める『抑制』の効果を上げるだけなのだが、これは言葉にするほど簡単な話ではない。

 魔法道具自体をもう少し大きくすれば、単純に『抑制』の効果は追加できるかもしれないが、それだと全体のバランスも崩れる上に、普段使いする時に少し使い難いサイズとなってしまう。

 よって、私たちとしてはどうしてもまた一から磨き直す必要があると感じている。



 もっと言えば、単純に威力を上げる為にはそれだけ魔力も必要になると言う事で、魔石の消費も上がってしまうだろう。そうすると、一個一個の魔法道具の値段も高くなって一般的にお手頃なものとは言えなくなってしまうのだ。



 当然、お父さん達や私が作りたいと思うのはそれではないし、無理矢理に詰め込んで出来ただけでは納得もいかない。

 大変だろうとは思うが、出来る限り良いものを作りたいので、散々悩んでどんどん試していきたいと思う。

 ……まあ、たった一個機能を増やそうとするだけでもこんなに問題が増えてしまうのだから、なんとも遣り甲斐がある話ではある。そんな話を私としながらお父さん達はよく笑っていた。



 基本的に私とお父さん達では役割が異なり、今回の出来事で周囲の『淀み』がどれくらいの量なのか分からないのは大変だと言う事がよくわかった。



 なので、その為に魔法道具に備えるべき『抑制』の力がどれだけ必要なのかを簡単に判別できるよう、私は『淀み』専用の計測できる魔法道具を作り、お父さん達にはその先にある果てしなく地味で遣り甲斐ある作業をお願いする事になったのである。



 ただ、そんな果てない作業でもお父さん達は常に楽しそうに相談し合い、作っては失敗し、失敗しては少しずつ改善し続けていた。

 そして私も、『淀み』計測器が出来た後はその話し合いに混ざりながら皆で頑張って魔法道具を少しずつ作りあげていったのである。




 ──そうして、和やかに日々は過ぎ。




「次の寒い季節までには何とか形にしてみせますよ!楽しみにしていてください!」



 そう言って、お父さん達は笑っている。

 ……そう。気づけば、季節は芽吹きの時節へと変わっていたのであった。


 今回は魔法道具作りに随分と集中していたと自分でも思うが、日々の進みのなんと早い事かと思わずにはいられない。



 ただ、同時にこの時期になると『今年もまた冒険の季節がやってきたな』とも感じられて、自然と嬉しくもなってしまう面もある。

 芽吹きの風を肺にいっぱいなるまで吸い込むと、エアやバウと今すぐに冒険へと旅立ちたくなるのだから、私も根っからの冒険者なのだと思った。





 そう言えば、次は何処へ行こうか、とふと思う。

 元々、私たちの旅はあてもなく色々な場所へと好きに歩いていくだけのものだったが、最近では精霊達のお願いで色々な大陸へと赴き『大樹の森』を作ったり、エアに旅の間で得た大切なものを思い出してもらう為に『振り返りの旅』などをしていたが……さて、どうしようかな。



 精霊達の話では、『空飛ぶ大地』を『第五の大樹の森』へとした事で、『とりあえずこっちはもう充分です!』と言う言葉を頂いている為、そちらはまた求められた時で大丈夫だと思う。



 ならば、また全く新しい場所へと向かうか、それとも再度『振り返りの旅』を続けて懐かしい場所へと赴くかだが、『ダンジョン都市』にも行ったので……次に向かうとすれば目的地となる思い出深い場所は、それこそ今居る暑い大陸にある『言祝ぎの里』になるだろうか。



 そうすると、ちょうどこの『白銀の館』にはその『里』からやってきて、この街で『剣闘士』となり、今では立派に成長したエルフの青年達が居るわけで……久しぶりに彼らの里帰りも兼ねて赴くのは中々に良いのではないかと私は思った。



 そこで、エアにもその事を相談してみると、『うんっ!良いねっ!みんなで行こっ!』と言う力強い返事を貰う事が出来た。……バウも良いと思うか?「ばう?……ばうっ!」そうかそうか。



 因みに、エルフの青年達五人は未だ冒険者のランク的には『緑石』で、目標の『金石』まではまだまだ遠いのだが、それは『剣闘士』としての活動が多かった為だ。彼らは実力を上げる事を優先していたので、冒険者としての活動や経験こそは少ないけれど、戦闘能力自体はかなり『金石』の冒険者に近しい所まで来ているんじゃないかと私は思っている。



 ……正直、『金石』の冒険者の戦闘能力の基準がどれほどのものなのかは知らないので、こればかりはなんとなくの想像である。



 ただ実際、彼ら的にはどうなのだろう。

 もしかしたら、本人達はまだ『金石じゃないから帰るのは早いですよ!』と言うかもしれない。

 彼らは向上心も高く、意地が強い面もあるので、あり得なくはないだろう。

 ……まあ、実際に聞いてみれば早いかと思い、尋ねてみることにした。


 すると──。



「あっ!良いですね!俺達も街でお土産買って『里』の皆に会いに行きたいです!」


「ちょっと様子を見てみたいとは思ってたんですよーっ!!」


「何買ってく?食い物?それとも武器買ってく?剣は?」


「食べ物の方が良いんじゃないか!それぞれが美味しいと思った物を買って帰ろうぜっ!」


「お父さん元気しているかなー」



 ……うむ。行く気満々だった。ならば一緒に帰る事にしようか。

 来た時よりもだいぶ成長したからな、きっと『里』のみんなも驚く筈である。

 それに『里』の方も、近くにある『ダンジョン』の管理の為に今ではギルドから冒険者が派遣されるようになっている筈なので、もしかしたら新しい建物とかが沢山増えている可能性もあった。



 どちらにしても楽しみな事には違いない。

 正直、今回ばかりは私達の『振り返りの旅』と言うよりは、エルフの青年達の『振り返りの旅』に付き添うだけという形になるかもしれないが……それでもいいかな?



「うんっ!楽しみだねっ!どうしよう!わたしは何買っていこうかなっ!?」



 するとエアも、エルフの少女二人と一緒に何を買うか楽しそうに話し合い始めた。

 こういう旅もまた良いものである。みなで賑やかに帰る事にしよう。

 




またのお越しをお待ちしております。

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