第302話 浅酌。
久々に来た『ダンジョン都市』と冒険者ギルドは良い意味で変わりが無いように見えた。
皆元気そうである。
職員として働いているお母さん方の表情も柔らかく、現ギルドマスターも回復や浄化をかけてあげなくとも平気な顔色をしていた。
聞けば最近はだいぶ落ち着いてきたと言う話で、街の皆との連携もこの数年でかなり円滑になり、余裕が出てきたのだとか。
今日はたまたま忙しくなってしまったのだけれど、これにも理由があり、他エリアの高位ダンジョンを攻略中だったお子さん達が無事攻略を終えて急遽帰って来れると言う情報が入った為に、ギルドマスターである彼女が関係者であった職員やお母さん達に『早退していいですよ』と告げたからだったのだと言う。
『それでも十分に回せる人数だと思ったんですけど、少しだけ足りませんでした。ロムさん達はいつもちょうどいい時に来てくれるんで、本当に助かります。それでは、ささっ、窓口の方もお願いしますね!』と、彼女もだいぶ人使いが上手くなったようで、ギルドマスターらしさが板についてきたらしい。
そして、その後は仕事も一段落すると、夜担当である職員さんが来てくれたので彼らと交代し、少しだけお土産を渡してから私達はギルドマスターや職員のお母さん方と一緒にダンジョン攻略の祝賀会が開かれていると言う場所にお供する事になったのである。
なんでも攻略に成功したお子さんたちと私達は無関係ではないと言う話なので、『是非とも一緒について来てください!少しだけ顔を見せてくれるだけでも良いですからっ』と、頼まれたので来てみた訳なのだが、到着した先で私達は懐かしの『道場青年』達と再会し、納得したのである。
そこは、祝賀会の場所も道場からほど近い場所で、今回攻略した『道場青年』のパーティの若者達を中心に、道場主やお母さん方が開いた祝の席であったようだ。
彼らは今回のダンジョン攻略で『金石』冒険者に昇格する為の試験資格を得る所まで至ったらしく、次の試験に受かれば見事冒険者として最上位の『金石』として認められるようになるのだとか。それはなんとも目出度い話である。
『そうか。それほどまでがんばったのだな』と私達が感心して遠くから眺めていると、その視線に気づいたのか途中で道場青年が『えっ……』と驚いた声をあげたので、周りの者達にも私達の事が一瞬ばれたのであった。どうやらここの皆も私達の事は覚えていたらしい。
皆は突然やってきた私達に気づくと、男達は皆エアの方を最初に見て喜色満面になり、次いで隣にいる私を見ると少しだけ微妙で変な顔をし始めた。……なんだ、私が居ると嬉しくないのか。随分と正直な顔ばかりなのである。まあ、気持ちは分からなくはないが……。
「ロムさーん!お久しぶりですー!ささっ、こちらへ来てください!一緒に酒でもどうですかっ!」
「エアちゃーん!こっちこっち、馬鹿共が騒ぎ出す前に女の子達で楽しみましょー!」
だが、そんな一連のやり取りだけで、周りからは笑いが巻き起こり、私達は誘われるまま宴席へと参加する事になった。
私が宴席に着くと、大人組と言えば良いのか、道場主や一緒に道着などを補修した『お裁縫仲間』であるお母さん方がどんどん私に渡したコップへとお酒を注いできたので、私はその都度軽く感謝を述べつつも、それら全てに返礼として酒を注ぎ返していったのである。
正直、私はあまり酔わない方なのでどれだけ飲んでも平気なのだが、皆嬉しそうに注いでくるので私もついつい応えてしまったのだ。
皆『道場青年』のパーティの活躍を語りながら、心から嬉しそうな笑顔を浮かべている。
その嬉しさからか酒を飲むペースもだいぶ早い。
流石に、飲むペースが速すぎたようで、その祝賀会が始まって直ぐに主役である道場青年やそのパーティメンバー、道場主などはもうあっと言うまにべろんべろんになってしまったほどであった。
……まあ、一緒に居た道場主の酒の酔い方は、共に飲んでいて悪い気がしないまだ穏やかな酔い方をしていたので、私としてもとても楽しく酒を交わす事が出来たのである。
『おめでとう。君のご子息も立派になられたな』と告げれば、『いやー、まだまだそんなことありませんよー、あいつには俺はまだ顔面を殴られた事ないんですからねーまだまだですー』とニッコニコで何かを自慢しながら笑っている。……それはなんともほっこりする笑顔であった。
また、エアの方も道場に来ている女性陣に手を引かれると皆との再会を喜び、酒こそ苦手としているので飲みはしないみたいだが、祝賀会の料理を美味しそうに頂きながら朗らかに微笑みつつ皆との会話を楽しんでいる。
……ただ、その途中、女性陣の方に数名の男性陣が意気込んで突入していき、何かプレゼントの様なものを渡してからエアへと何かを告げ始めた様な姿も見受けられたが、『お前はダメだ!帰れっ!』『出直して来い!』『却下!』と、そのほとんどがまた懐かしくも途中の女性陣で追い返されており、何とも懐かしさを感じる光景を視てしまった。
だが、それでもまだ諦めずに、食い下がろうとしている者も居たので、彼らもまた成長した、と言う事なのだろうかと思い、なんとも微笑ましさを覚える。
『おっと、良かったら、私からもお土産があるのでそれも貰って欲しい』と私は大人組のお母さん方にお土産を渡し始めた。
持ってきた品物の中には、こういう宴席にもピッタリな物が幾つもあるので、良かったら一緒に出して貰えたらと思ったのである。
そうして、各地のお魚だったり、果物や私では食べられないけど美味しいチーズだったりといった、おつまみを渡したり、序でにエアには不人気だったが味は最高級らしい『酒精が強めのお酒』だったりを振る舞うと、案の定皆は凄く喜んでくれた。
私はあまり酔えないので、ちょこちょことお料理を摘まみながら隙を見てバウにも『お食事魔力』を食べさせつつ、皆の話の聞き役に徹している。それだけでも十分に楽しめた。
最終的に、酒を幾ら飲んでも酔わない私と、ずっと料理を作ってくれていたお母さん方、それから『お裁縫仲間』のお母さん方の何人か以外の宴席参加者は全員酔っ払い、眠りだしてしまった為に、彼らの寝床の準備も私は手伝った。
……因みに、眠った者達の中にはエアの姿もあり、いつの間にかまたお酒の匂いだけで酔っぱらってしまったらしく、他の者達と一緒に幸せそうな寝顔をしていたのであった。
道場主や道場青年などの男性陣を寝床へと運んだり、宴席の片づけを手伝っていたら途中でトイレに起きて来たのか寝ぼけた道場青年に急な再戦を挑まれかけたりもしたので、その日は結局道場で一泊お世話になる事にしたのであった。……道場青年の方も、酔って暴れて漏らす前に、一発で寝かしつけ、一応は浄化をかけて寝かしつけておいたので大丈夫であろう。
……まあ、そんな風になんとも濃い一日にはなったが、とても楽しい一日であった。
またのお越しをお待ちしております。




