第301話 温故。
イベントも終わり、後の事は精霊達とゴーレムくん軍団に任せる事にし、私達は再び旅立った。
ゴーレムくん達の家となる『待機所』も完成したので、『空飛ぶ大地』に新たな住人が増えたようにも感じる。
そして、ゴーレムくん達はボスの指示のもと、外敵が来た場合には守りについたり、普段は精霊達のお手伝いを何かとしてくれるらしい。
……ここもかなり賑やかになってきたと感じる。嬉しいものだ。
「ねえロム、ここを歩くのも何度目になるかなっ」
『大樹の森』で数日休み、魔力と体調を整えた後、私達は今森の中を歩いている。
エアにとっても、既にここは庭の様なものだと感じているのだろう、ニコニコしながら私の横に並ぶと嬉しそうにそう問いかけて来た。
何度目だろうか……考えた事もなかった。
エアとこの森に入る事など常の事過ぎて、それこそ天気が余程に悪い時以外は毎日の様に歩いてきた様な気もする。
魔法の訓練をした。獲物を狩る為に樹上を駆け飛んだりもした。のんびりと採取もして回ったな。
……うむ、数えきれない。
「たくさん、だな」
「そうだね!たくさんっ!」
何か深い意味があっての問ではなかったのだろうか、エアはそれを聞くと満足そうに微笑んだ。
『この森を歩くより転移で直ぐに行こう』と言う話でもなく、この時間を楽しんでくれていると言う事らしい。
……口には出さないが、私もこういう時間は嫌いではないので嬉しく思う。
「…………」
「えへへへっ」
するとエアはこんな不愛想な私の表情を見るともっと笑みを強めだした。最早ニマニマしている。
どうやらまた普通に表情を読めたらしく、私が喜んでいる事が分かったらしい。
相も変わらず良くわかるものだと感心するが……あの、そんなに顔を覗かれ過ぎると少しだけ恥ずかしい気もしますので、あんまり見ないでください。
私たちはいつも通りの他愛無い会話を続けながら、のんびりと歩き続ける。
すると、その会話の中でエアは『またこの前みたいな旅がしたい』と語りだした。
『凄く楽しかったし、他の街にもまだまだ会いたい人が沢山居るんだ!』と。
エアにとって、それだけ得るものが大きかったと言う事でもあるのだろう。
とても良い経験になったようだ。
……ならば、今回もまたそうする事にしようか。
この旅を続ける事は色々な意味を持つ。
きっとそれは、エアの為になってくれるだろう。
それに、なんとも素敵な話だ、とも思った。
会いたいと思う人の数だけ、旅が煌いて見える様な気がしないでもない。
お土産は品物も話も潤沢にある。
きっとまた楽しい旅になる筈だ。
──と言う訳で、私達は先ず『ダンジョン都市』へとやって来たのであった。
ここは、ついこの前まで居た様な気になる程に、思い出が詰まった場所でもある。
ドライアドの店長がやっている喫茶店にはよく通ったし、エアと共に『ダンジョン散歩』にもいった。冒険者ギルドの職員として働いたりもしたな。
それにエアは道場にも通ったり、一緒に黒いとんがり帽子の魔法使い達から追いかけられ逃げた事もあった。エアが私の為に怒ってくれた事も多かった様に思う。
……まあ、ざっと思い出すだけでもそんな色々が直ぐに思い返せる街だった。
そう言えば、今や私の大事な宝物である『私とエアが一緒に微笑む絵』を描いてくれた画家の卵の女性も、探せばまだここの街の近くに住んでいるかもしれない。……あの絵は本当に素晴らしいものだったので、また是非ともあの人にも会いたいものだ。
私でもこれだけ思い出せるのだから、人付き合いが多かったエアはもっと多くの再会が待っている事だろう。
そんな皆にただただお土産を渡しに行くだけでも、充分に楽しそうである。
今回はダンジョン目的ではないが、私達は以前と同様にワクワクしながらこの街の東にあるギルドへと足を運んだ。
この街の特色として、ダンジョンの難易度により街は四つに区切られている。
そして、私達がよく足を運んだそのギルドはこの街の中でも最も難易度が低い『白石』の者達が集まる場所であった。
『お散歩ダンジョン』や『ドライアドの店主の喫茶店』もこっちの方面にあった事をよく覚えている。
ただ生憎と、冒険者ギルドに行く道中に少し喫茶店を覗いてみたら、未だ閉まったままであった。
どうやら『金石』冒険者であるドライアドの店主はまだダンジョンに潜っているようで残念である。
ただ、辿り着いたギルドの方では、知り合いのお母さん方だったり、元受付嬢で現ギルドマスターである女性が、皆元気そうに働いていたので私達は嬉しくなった。
「わあっ!ロムさんっ!お久しぶりですー!」
「エアちゃんも一緒ねっ!おかえりー!!」
ギルドに一歩入っただけで私もエアも気付かれて名前を呼ばれた事に驚きを覚えた。
……ちゃんと覚えていてくれたらしい。
それに、ちょうどギルドが忙しくなる時間帯でもあったので、ヘルプも頼まれ、私達はそのまま少しだけギルドの手伝いをする事になった。
数年前から仕事場の配置も殆ど変わっていないようで、私達の身体は自然と昔のままに動けてしまうのも面白い。
懐かしくもほぼ問題なく手伝いが出来てしまったので、仕事終わりにギルドの皆と私達は笑い合うのであった。
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