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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第296話 近思。

手直し等はまた明日に。おやすみなさい。




「……む」



 気づけば一月程が経っていた。……おかしい。いったい、いつの間に。

 思わず私も、素の『……む』が出てしまうほどに驚いた。



 ここ暫くの私達は、以前も来た事がある仕立て屋さんで少しだけお手伝いをしていたのである。

 正式に仕事を受けたとかではなく、あくまで指導だったり『お裁縫』を楽しみながら遊ぶ感覚で再びこの街での生活を満喫していた訳なのだが、気づいた時にはかなりの日数が経っていたようだ。



 その間エアは久々にこの街で再会した知り合いや友達と一緒に街を巡って遊んだり、すっかりと二児の母となっていた友の姿を間近で観察したりしていた。

 数年見ない間にすっかりと雰囲気が変わってしまった彼女の話を聞きながら、エア自身も何かしら思う所があったのか、一生懸命彼女と一緒に家事をしたり、買い物をしたり、お話したり、お茶したり、服を作ったり、子供の世話をしたりと、色々と普段の冒険だけでは決して覚えられない分野を一つ一つ興味深そうに学んでいたのである。



 魔法の練習とはまた違った大変さがある様子で、慣れない部分では何度もつっかえてもいたようだけれど、遣り甲斐も確りと感じているのか友達と一緒にエアは楽しそうに笑っていた。


 知識を増やすだけではなく、実際に身体を動かしてみなければ学べない事は多い。

 特に普段の生活と言うのも案外と専門的なコツが必要であったりするので、例え家事一つにおいても簡単にできるなどとあまり侮らない方が良いのである。

 あれほどピンキリがはっきりする分野も中々にないのだ。簡単だからこそ技量の差が分かり易い。

 やってみて初めてその大変さを覚え、世のお母さん方は偉大だと気づく者も多いだろう。



 そして、きっとそれらを知る事は必ずやエアの見識を広げてくれる事にもなると私は思った。

 それもまた成長である。冒険者としても魔法使いとしても得るものは多いと思う。


 一方、そんなエアの成長を魔力で探知しながら、私は自分の手も確りと動かし続けていた。



「ロムさん次こっちお願いしまーす!」


「ロムさん、そのドレスの次はこっちにも『お手伝い』をお願いします!」



 ……うむ。今行く。すぐ行く。任せて欲しい。



「あ、あの、先輩!あの人、何者なんですかっ!やばくないですか!あの手さばきとか!あの人、本当に男性ですよね?それもエルフで──」


「──おっと、ロムさんの事を詮索する暇があったらもっと手を動かしなさい!それにあの人は、ちゃんとした私達の先輩ってだけ。それで十分でしょ?少し前までここに居て、全ての従業員に新しい縫製のやり方とかを仕込んでくれた凄い人だし、言わば私達みんなの先生みたいな人なのよ!凄くて当然だし、私たちの目標であり尊敬すべき人よ!ほらっ、もう口は良いから手を動かしましょっ!」


「は、はいっ!」



 正式にギルドで斡旋して貰ったわけではないので、『手伝い』の範囲でしか『お裁縫』はやらせて貰えないが、冒険者の装備にある穴の修繕は久々に来たら嬉しい程に沢山溜まっているし、新作のドレスのデザインを教えて貰える代わりにそのドレスの大量生産の『お手伝い』などもやらせて貰える事になったので、手を抜かずに心行くまで私は『お裁縫』を楽しんだ。



 何やら新人で入った子達は、いきなり現れた見知らぬ私が突然仕事に混ざった事で混乱してしまっている様子で申し訳なくは思うが、オーナーをはじめ前からの知り合いであるここの『お裁縫』仲間の皆は『ロムさん!あの子達は気にせずどんどん手伝ってください!その方があの子達にとっても良い刺激になりますからっ!』と言ってくれた為に、遠慮なく作業を続ける事にしたのである。



 それが何というのか、控えめに言っても、まー楽しい。

 モノクルも興奮しているのがいつもの倍以上に『ピカピカ!』と光って自己主張しているほどであった。



 最近では、エアの服を作っても『ロム、もうダメっ!作り過ぎないでっ!』と怒られてしまう事の方が多くなってしまい……少し寂しく思っても居たので、作れば直ぐに次のオーダーがやってくるこの環境は私にとって久々の新鮮さがあった。……いざここで溜まっていた『作りたい欲求』を十分に発散させて頂くとしよう。



 ……因みに、作業場とは違う一室には、従業員のお母さん方の小さいお子さん達の託児室みたいな場所が新しく出来ていて、そこには今、絶賛大人気中である白い糸目のプニプニドラゴンのぬいぐるみそっくりの『バウコスチューム』を着た子供達が増殖している。

 そんな子供達は今、皆気持ち良さそうにお昼寝だ。



 そして、そんな子供達の中心で本物のドラゴンであるバウは、子供達の様子を見ながら適度に魔法を使って室内環境を寝苦しくない様に涼しく整えてあげたり、時には隠すことなくプニプニと歩み寄っては子供達の寝相の悪さを正してあげたりしている。……なんと賢く良い子だろうかと思い、私はそんなバウを見ると毎回褒めてあげたくなるのであった。今日の『お食事魔力』はいつもよりふんだんにあげたい。



 お母さん方には未だバウが本物のドラゴンだとバレてはいないみたいだが、子供達には流石に『このぬいぐるみ動くぞッ!』とはバレてしまっているらしい。

 だが、そんな子供達は皆バウのカリスマ性に惹かれてしまっているらしく、抱きしめた時のプニプニ具合に心地良さを覚えて魅了されてしまうと、皆バウの傍に居るだけで大人しくなってしまうのであった。

 そんな不思議と優しい空間が連日形成されており、お母さん達は沢山の白い子竜達が仲良くお昼寝する姿を見て微笑ましそうに眺めているのである。



 それと、子供達が白い子竜姿になってから、最近ぐずる事も少なくなったと、『バウコスチューム』を着せたお母さん方の口コミも広がりだし、段々と『バウコスチューム』の注文が広がりつつあるほど人気になってきてもいるらしい。……まったく流行とはどこに眠っているかわからないものだ。



 そうして、各自充実な生活をしていた私達ではあったが、そろそろ日差しの厳しい季節に入ってだいぶ過ぎたと言う事もあり、この季節のお楽しみの一つである『大樹の森』での各種イベントの事も考えなければいけない時分となっていた。



 もちろん、向こうのイベントも年々激しさを増して楽しい事になっている為見逃すわけにはいかない。

 と言う事で、もう少ししたらまた『大樹の森』へと戻ろうと思う。


 エア達も十分に得るものがあったようなので、頃合いを見て帰る事にしよう。

 またここに来るのは数年後になってしまうかもしれないが、それでもオーナーを含めここの皆は笑顔で『いつでもまた戻って来てください。待っています』と言ってくれたのであった。


 そんな温かい言葉に、私達は三人揃って優しい想いに包まれ、心に笑みを浮かべるのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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