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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第293話 坦懐。




「……なに?わたしって二人からそんな扱いされる様な事したっけ?……ねえレイオス?」


「いえ、していません」


「だよね。……ねえ、ロム?」


「したな」


「してないって言えっ!こらっ!逃げるなっ!待てッ!待ちなさいよっ!」



 ……昔から、友(淑女)は怒ると苛烈であった。

 プライドの高さと負けず嫌いなその性格は彼女の魅力の一つでもあるのだろうが、負けた後は必ず機嫌が悪くなる。

 誰でもそうかもしれないが、機嫌が悪い時にはむしゃくしゃするものだろうし、その間は態々怒っている人に近づいていく者も少ない事だろう。



 それに、基本的に優秀で滅多に負ける事が無い彼女の場合、負けた時には悔しくて堪らないらしく、その分怒りも深いわけで簡単に爆発する。


 なので、その怒りに不用意に触れて爆発に巻き込まれたくない者達は、時間が経ってその怒りが治まるまで、賢い者達は皆距離を取り、彼女が冷静になるのを待つのであった。


 

 ……だがしかし、そんな機嫌が悪い時にも彼女へと無関係で近付く存在が二人だけ居たのである。


 その一人は言わずもがな、友であった。

 彼は優しい男だ。その上、気を遣う事もとても上手い。

 一緒に居ても基本的に不快に感じる事が無いのである。


 だから、友(淑女)が機嫌が悪い時でも変わらず、彼だけは普通に接する事が出来る唯一の存在であった。



 そして、無関係に近づくもう一人は私であった。

 ただ、私の場合は不器用なので彼女のそんな機嫌が悪いという事に察しが効かず、普通に話しかけては怒られて爆発させ、追いかけ回される事ばかりであったのだ。


 ……まあ、私に一通り怒ると幾分か気分はスッキリするらしく、そう言う意味では周りからしたら私も有難い存在ではあったのかもしれない。無意味では無かったと思う。



 そして、当たり前の話をするならば、友も私もいつも一緒に居るわけでは当然ないので、彼女は一人でそのむしゃくしゃした気持ちを治める時もあった。


 なので、そういう時には彼女は必ず『弓』を頼ったのである。

 彼女は精神が落ち着くまでひたすらに弓を猛烈に射続け、それが癖になる程にまでなっていた。



 彼女が普通の的に向かって射かけ続ける姿は昔はよく見たものだ。

 ……まあ、その内の何回かが本気でむしゃくしゃしている時だったらしく、私が不注意に接近し、そのまま自分が『的』に早変わりしてしまった事もあったが、今となってはそれも懐かしい思い出ではある。



 まあ、結果的にそのせいではないと信じたいのだが、最初は的当てだけで満足していた彼女も、いつしか技量も上がり、段々とむしゃくしゃした時には『動く的』を求める事が多くなった。……まったく、何をきっかけにしたのか分からないが、その度に『動く的役』を探し回る様になってしまったのは大変な悪癖だと思う。



 ……それに、『動く的役』を頼んでくるのはだいたい友か私かなのである。

 『動く的』の方が効果的であることを覚えてしまったが故に、彼女がむしゃくしゃする度矢を射かけられる私や友はたまったものではなかったが、そのおかげで逃げ足だけは達者になった事を思えば、その後の私の冒険者生活ではかなり役立ったわけでもあるので、決して無駄ではなかったと今になっては思う。



 ただ、最初は『動く的役』として選ばれる確率は友か私の二分の一であったのだけれど、友は運動能力も優れているので次第に射かけられた矢を華麗に回避する様になった。


 その為、矢を射る時に『目標に当たる楽しさ』がなくなり、友(淑女)的には避けられると余計にイライラもしてくるので、基本的に魔法で防御するだけの私へと文字通りに白羽の矢が立つ事の方が途中からは多くなったように思う。



 現に今も、私は適度にジグザグにジョギングしながら、全弾被弾しつつ魔法で防いで逃げ続けていた。

 ……彼女の機嫌が治まるまでは、こうして静かに嵐が過ぎ去るのを待つのが一番良いのである。



 それに、普段ならば私の心配をしてくれそうなエアも、私達のこのやり取りには感じるものがあったのか微笑ましそうにニコニコと見つめていた。



 こういう場合、弓の射線が切れる場所まで逃げるのが一番良いとは思うが、久々だし、見通しが良いこの砂の大地には他に適した良い場所もないし、家も傷つけたくは無かったしで、私はひたすらに『動く的役』を演じ続けたのである。



 ──結局、そんな事をしていれば日も暮れてくるわけで、友二人はそのまま『空飛ぶ大地』へと一晩泊まっていく事になった。




 『戻らなくて良いのか』と尋ねたのだが『一晩位ならば大丈夫だろう』と言って、のんびりする気満々の二人なのである。

 二人は自然と自分の家のあった場所へと建つ『土ハウス』の中へと入っていき、その中で一晩ゆっくりと過ごしていた。


 食事の時間には私達の『土ハウス』へと二人も集まってくるので、皆で顔を合わせながらのんびりと食事を楽しみ、食後には友二人の色々な苦労話や面白いエピソードをエア達が楽しそうに聞いていた。


 完全に休暇の様相を呈していたが、こんな日があっても良いだろうと思う。

 友二人の顔色も最初よりも幾分か良くなった様にも感じた。




「ロム、とても休めた。一晩家を貸してくれてありがとう」


「ああ。喜んで貰えて私も嬉しく思う。あれはもう君達の家なのだから、また好きな時には使って欲しい。帰りは気を付けて」


「言われなくても気をつけて帰るわ。それに、次来るときは今度は普通にエアちゃんと一緒に王城に来てよね。ちゃんと歓迎するから。……あとほら、エアちゃんにはこれを渡しておく。これ見せれば私達の関係者だって証だから無くさないようにね」


「はいっ、ありがとう!今度行った時はまた王城の中の秘密の例の話の続きを教えてねっ!」


「ええっ、任せて。まだまだ色々とあるから面白い話を用意しておくから……それじゃあ、またね」




 別れの挨拶は簡単に終わり、二人は『空飛ぶ大地』の縁からふわりと跳んで、彼らの街へと帰って行った。フワフワと落ちていく二人は楽しそうに笑い合っている。



「ねえロム、楽しかったっ?」



 二人の見送りをしていると、隣のエアは私の顔を見上げながら笑顔で見つめてくる。

 私はそんなエアの問に『どちらかと言えば懐かしかった』と答えた。


 切なかった瞬間もあったが、当然楽しかった瞬間も沢山あり、そんな全てで昔の二人の姿が重なっていたのである。……今回は懐古してばかりだったかもしれない。



 一方、エアやバウにとっては、あまりわからない話とかも多かっただろうし、理解できない部分ばかりであっただろう。

 それを想うと申し訳なくなった。


 だが、そんな私達の空気を読んでは、ずっと笑顔のまま支え続けてくれた二人には改めて感謝の念が絶えない。……二人共本当にありがとう。



「んーん、見ていてわたし達も楽しかったんだ。それになんかいいなーって思った。羨ましかったなー」



 すると、エアは私と友二人のやり取りを見ていて、そんなにお互いを大事に想える関係の友達が居て羨ましくなったらしい。自分もそんな友達が一人でも良いから欲しくなったのだとか。




「……じゃあ、久々に会いに行くか?」


「……えっ、誰に?」


「これまでの旅で会って来た人達に、だ」




 エアと冒険者を始めてもう五年以上、その間に出会った人々は凄く多い。

 その間、『友』と呼べる関係になった人もいれば、当然そうではない人も沢山居た事だろう。



 だから、そんな彼らにまた会いに行く事によって、また新たなる思い出を作りに行くのである。

 再び出会う事で見えるものも多く、そこで繋がり育まれる想いに、特別な『何か』に感じる事もあるだろう。



 また、色々な場所を巡ってお土産も溜まったことだし、それを渡しに行きたいと言う私の個人的な想いもあった。


 それに、精霊達に頼まれていた事であった『大樹の森を各地に作る』と言う願いも、実はこの『空飛ぶ大地』に『大樹の森』を作った事で、この場所を各地へ飛ばし巡回させる事でその願い事もだいたい叶ってしまうらしいのである。……昨日、密かに彼らに感謝をされていたのだ。




 ──だから、『色々な人達に旅の思い出と、お土産を渡しに行こう』と私は言った。

 するとエアは、『ぱあっ』と満開の花が咲くかの如く笑いながら、『うんっ!行きたいっ!』と応えたのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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