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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第291話 伏竜。




 私が彼のその眼差しに気づいたのも、今となっては遥か昔の事だ。

 それは幼き時分、私達がまだ『里』で暮らしていた頃の話。


 同世代の者達の中で特にあの二人がまだやんちゃをしていた時の事。


 その頃から友(淑女)は皆のリーダー的な立ち位置にいて、友はその補佐的な役割であった。

 そして、その頃から時々彼はああして彼女を見る時があったのだ。


 その視線が特別なものであることは、同性であれば直ぐに分かった。

 当然、同世代の男達は皆、私を含めて全員気づいていたのである。

 友『レイオス』は友(淑女)『ティリア』を愛しているのだと。



 そして、『あっ、こいつは……』と皆が察する様になるにつれ、それからは皆で密かに彼を応援していた。

 もちろん、周りの者達はさり気なく気づいていない風を装い、私もまたそれに倣っていたのである。


 ……時々、察しの良い友は『何を見ているんだ?』と聞いて来たりもするので、同世代の私達はバレない様にするため段々と素知らぬ素振りが上手くなっていったのは、もはや懐かしい思い出だ。



 気付かれそうになっても、──サッと顔を背けてみない様にし、『気づいていませんけど何か?』と言う雰囲気を醸し出すのが重要なのだと皆で話した覚えがある。

 周りがやいのやいのとあまり騒がず、二人が自然と上手くいくようにと皆が見守り願った。



「…………」



 私とは違い、大体の事は器用にこなす男の筈なのに、ことこれに関してだけは不器用で居続ける友を、私はなんとも言えない気分で見つめている。



 ──サッ。



「……ん??」



 ただそうすると、友が早速私の視線に気づきかけた為、私は一瞬で顔を逸らした。

 『別に見ていませんけど何か?』と、私は久しぶりに素知らぬ素振りで自然な雰囲気を醸し出している。




 だが、そうやってまるで昔の様な事を一人でしていると、この技が生まれるに至ったきっかけ等も思い出されて、私は少しだけしんみりとした気分にもなった。



 友が幼き頃から彼女を想っている事を知っているのは、『もう私だけなのか……』と思ってしまったのである。……まあ、詮無い話ではあるのだが、そうすると応援していた男友達も、残っているのはもう私だけと言う事であった。



 こんな不器用な私しかいないとは、彼もさぞかし頼りがいが無いと思うだろう。

 話を聞く事位しか出来ない。



 ただ、きっと彼に想いの丈を語らせれば、それはそれは長い恋物語になるだろうとは思った。

 下手したら、もはやどこが始まりだったかなど本人も分からない位に、彼は彼女を好き続けてきた筈である。


 昔から今まで一緒にいる友二人の間に、どんなことがあったのか、それとも何もなかったのか、それは私には分からない。二人の問題だ。


 ただ、そんな友の変わらないその想いを見ていると、無性に声は掛けたくなった。

 なんとか力になってあげたいとも、思った。



 ……だが、この手の問題は余計な手を出さず、『周りは騒がず見守ろうと決めた皆との約束』もまた私にとっては大切な思い出として残っているのである。


 だから、見守るのは私一人になってはしまったけれど、最後まで私は彼を応援し続けたいと思った。



 当然、彼から何かを頼んでくるのであれば、話は別である。

 頼りないかもしれないが、その時には全力で協力しよう。


 だから、それまでは、私はこうして気付かぬ振りを続けて、見守る事にしようと思う。

 ……いい歳したエルフ達が何をやっているのかと思うかもしれないが、心と言うのは幾つになっても複雑なものなのである。



「…………」


「…………」



 だが、そうして彼から顔を逸らしていると、逆に『ジーっ』と友から見られている事に私は気がついた。

 ……な、なんだろう。私のこの完璧なさり気ない素振に、まさか彼は気づいたとでも言うのであろうか。


 いや、まさかな。

 彼は昔から私達がこうしていると、全く気付かずに他の話をし始め──



「──言っておくが、お前の『それ』は昔からド下手だぞ……」


「──ッ!?」



 だが、そうして私が顔を背けていると、彼から告げられたのは衝撃的なセリフであった。

 ……ただ、それももしかしたら『カマかけ』の可能性もあるのではないかと思い、私は一瞬だけビクッとはしたが諦めずに顔を背け続ける。


 すると、そんな私の方を見ていた友から小さく吹き出す音が聞こえて、彼は小さく消え入りそうな声で何かを囁いたのであった。



 『ふはっ……ロム、お前は本当にずるい奴だなぁ……お前がそんな奴だから、きっと……』と、私の自慢の耳でも、その囁きの最後は捉え切れなかったのである。



 だが、その声はとても優しい声色であり、『憎みたいけれど憎めなくて……本当にお前は仕方がない奴だ』と、まるで肩を竦めながら言っている様な響きに私には聴こえた。



 ただ、その響きには言い様のない切なさも帯びていた為に、私は顔を戻すと直ぐさま友へとその真意を問いかけようとした──



「ロムッ!この子すっごく良い子ねっ!大事にしなきゃダメよッ!!」



 ──のだが、それと同時にエアと友(淑女)が戻って来てしまったので、私は慌てて口をつむぐ事になったのである。




 ……そうして、笑顔で戻って来た友(淑女)やエアの姿を見ると、友もまた純粋に微笑みを浮かべた為、結局私は何も声を掛ける事が出来なかったのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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