第29話 影。
今回少し短めです。
『モコ』は『石持』である。
昨日いきなり現れた黒いモコモコを倒したわけだが、私はあいつらの事を少しだけ知っていた。
先ず、奴等はいきなり発生してくる事。喋る事。そして奴等の胸元には魔石がある事である。
私が仮初めのモコの胸元を消さなかったのは、そこにある石を壊してしまうと本体と仮初めの身体の繋がりが途切れてしまう為、【空間魔法】で引っ張ってくるときに少しだけ大変だから、と言う理由があった。
基本的に、奴らは何らかの方法で自然発生するアンデットの『石持』に干渉し、自らの仮初めとして傀儡にしているらしい。これは明らかに『人為的』な原因を持つ『石持』の発生である。
そして、奴等は成長する。
昨日のモコは生まれてすぐの場面に出会えたわけで、こちらの存在も感知できなければ、大した肉体能力も魔法も使ってこなかった。まあ実際は、それらを使う暇すら与えずに倒したので、正確な力量を量れたわけではなかったが、あのモコは弱い部類のモコなのであった。
奴らは魔素の多い場所において、時間が経てば経つほどある一定までは成長するらしく、現に今まで戦って来たモコ以外のモコはどれももう少し強かった覚えがある。モコは一番モコモコしていたし、本体もまだ人間味が顔つきのみだった。恐らくは成長がまだ不十分だったのだろう。
因みに、他のモコ達の本体の中には、見ただけじゃ普通の人間と遜色ない女性型のモコも居た。
そして、奴らは魔力の強い相手をどうにも食べたがる。
そうする事で自らを強化する能力でもあるのか、特に耳長族はおいしく見えるのか、どれも皆私を見た時は嬉しそうに笑っていた。
もしかしたら、人間に遜色ないモコほど、今まで誰かしらを食べてきたのかもしれない。強さもそれに比例しているように思う。まあでも私との戦闘で、十秒以上もったモコは今回のモコが初めてであった。
他のモコは私を見るなりどれもすぐに襲い掛かって来たので、モコの様にあんなに長々と会話をしたのは実は今回が初めてである。ほんと、モコ位である。あんなにお喋りだったのは。
『耳長族はどなたも尊大ですね。あはははは』と奴が笑ってきた事は、私は今後も忘れない事だろう。精々他のモコと出合った時の発奮材料に使わせて貰おうと思う。
何となくではあるが知能型や肉体型と言った種類が、モコにもあるのかもしれない。
ただ、数十年に一体現れるかどうかなので、次のモコに関してはあんまり気にしなくても良いと私は思っている。
そう言えば、これは予想の範囲でしかない話だけれど、仮初めのモコも本体のモコも身体の作り的にはほぼ一緒であり、私が最初の遭遇でそれを知った時には、直感でこう感じた。
モコ達の上には、きっとモコ達を作り操る何か『影』の存在がいるのではないだろうか、と。
今まで出会ってない為絶対ではないが、もしそんな存在がいた時には、精々今までの迷惑分も込めて、モコ達以上に丁寧に対応していこうと思っている。
──と、私は自分の人生経験のページの片隅にメモ書き感覚でそう記憶しておいた。
何がどこかで役に立つか分からない為、彼らの事も私は忘れずにいようと思う。
……そう言えば、モコと勝手に呼んでしまっているが、彼らにも名はあるのだろうか。
もし機会があるのならば、次回は最初に名を聞いてみようと私は思った。
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