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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第289話 三友。



「…………」


「…………」



 私が『空飛ぶ大地』をかつての我々の故郷である『原初』である事を伝えると、友二人は沈黙した。

 そして、『いきなり何を言っているんだ』と言う表情を浮かべている。

 ……まあ、その気持ちはわからなくはない。



 滅びて誰も居なくなった時から更に荒廃して削れてしまい、下から見ただけではもう、ここがそうなのだと気づけないのだ。

 自然と『ここはきっと別の場所なのだろう』と、この二人が誤認してしまう程に、ここは既にかつての面影から遠く離れてしまっている。



 だが、私がそんな二人の目を真剣に見つめ続けていると、二人は『スゥーーーー』と息を吸いこんで、私へと疑問を投げかけ始めた。

 『本気でここが原初だと言っているのか?』と。

 『原初はどこかへと飛んでいったまま消息不明になった筈。どこにあったの。その証拠はなんだ』と。


 そして、『……どうして、今頃になって帰って来たんだ』と。



 そんな彼らの質問に私は一つ一つ丁寧に答え、『そんな全ては生まれ変わったこの場所を二人に見せて、喜ばせたくなったから、私がここまで運んで来たのだ』と言う事を、不器用な説明になりながらも伝えた。



「…………」


「…………」



 すると、私の説明を聞いた二人は再度沈黙する。

 それも、その表情は先ほどとは一変しており、凄く複雑そうな面持ちであった。


 信じたいけど、信じられない様な、どうしていいのか分からない様な、そんな曖昧な感情を抱いているのがよく見える。



 そこで私は、二人を誘ってみる事にした。

 『一目だけでも帰って来てみないか』と。



 そうしたら友二人は互いの顔を見合わせると、少し考えた後揃って頷きを返してきたのであった。


 行く気になった二人はすぐさま動き出すと、友の方は指揮官の男性や周囲の者達へと『上の観察をしてくる』と告げに行き、友(淑女)の方は兵士達の方に帰還命令を出し始めた。……どうやら来るのは結局友二人だけになるようだ。



 私はちゃんと『上に宿泊施設は作ってあるから、ここに居る全員で来ても大丈夫だぞ』と言ったのだが、それに対しては友二人が静かに首を横に振った為、今回は諦める事した。



 もしここが本当に故郷なのだとしたら、今回はあまり他の者達には来て欲しくないと、その時の二人の表情が物語っていたのである。……折角作った訳だが、そう言う事ならば仕方ないと今回は私も二人の気持ちを慮って了承した。





 ──と言う訳で、兵士達や指揮官の男性達と一端は別行動する事を話し合った友二人は、私の後に続いて『空飛ぶ大地』の上へと向かって一緒に飛んいく事になった。



 ……因みに、その間はあまり会話も無いままだ。

 と言うか、語ろうと思えば幾らでも語れたとは思うのだが、今だけは沈黙が何よりも優しく感じられたので黙っていたのである。

 背後に居る二人からは、少しでも早く上の光景が見たいと言う焦りの様な雰囲気を感じた。





「──ロムッ!おかえりっ!」



 『空飛ぶ大地』の上へと至ると、一番最初に私の目に入ってきたのはエアの笑顔であった。

 結果的にはだいぶ待たせてしまったが、当初の予定通りに友二人は連れて来る事が出来た事を私はエア達へと報告した。



 そして、その間友二人の方は上に来た時からずっと無言で砂漠を眺めており、ゆっくりと前へと歩き続けていた。


 そんな二人の様子を傍らから窺えば、二人は遠い目をしたまま、この地に新しく建った『土ハウス』や、小さな湖、それからその湖の中心にある浮島部分にちょこんと植えられた一本の白い苗木などへと視線を移しながら、最終的には何もない砂漠の大地をボーっと眺め続けているようであった。



 隣にいるエアは、そんな友二人の姿を一緒に眺めながら『喜んでくれると良いね』と、小さく囁いてくれる。私はそれに頷くと、『そうだな』と返した。



 私は二人にこの地の光景を見せて、喜ばせてあげたかった。

 そして、かつての『原初』はもう無くなってしまったけれど、この地は新しく始まっているんだと教えてあげたい。




 ……だが、どうやらこの二人には、そんな事を態々伝えるまでも無かったのだと私は知った。


 私なんかよりも余程に、長い時間『国』と言う在り方と、そのに住む人達と関わって来たこの二人である。

 何かが終わり、そしてまた始まると言う事に、この二人は良い意味で慣れていた。

 そうして、悲しみとの付き合い方や心の置き方などを少しずつ学び続けて来たのだろう。



 だから、二人は取り乱す事など一切なく、少し悲しげではあったものの、ちゃんと私がこの地をどうしようとしているのかまでを察してくれている様子であった。


 私に数々の教訓を授けてくれたこの二人は、やはり尊敬すべき素晴らしい友人達である。



「ロム、あの辺は俺の元の家に近いよな!もしかして再建してくれたのか?……それにあっちは、『ティリア』の家にそっくりではないか?」


「そうね。でも、私の家も『レイオス』の家ももっと大きくなかった?ロム、もっと木は植えて欲しいわ。なんだかやっぱり物足りないもの」


「そうだな。俺もその方が好みだ。……でも、なつかしいな。わかるものだ。下から見た時はさっぱりだったけど、こうして上にきてみると、ちゃんとわかる──」


「なにも無いけどね。砂漠に変わっちゃってるけど、それでもこうして家があって、木があるだけで、もう『里』にも見えるもんね。あの頃の光景も見えるけど、これからこの地が新しくなっていくんだろうって事も、ちゃんとわかるわ──」



 ……友二人は、暫く黙っていたかと思えば突然前方へと指を指し、元々自分達の家があった場所だと思われる場所に私が建てた家々を見て、自分達の家にそっくりだと言って笑い始めた。


 それも下に居た時と比べると、若干だがその口調が若くなっていると私は感じる。

 ……それはきっと二人共が昔を思い出してはいるからであろう。


 ただ、そうして笑い合う二人の瞳が、少なからず潤んでいるのが見えて、私の胸は自然と熱くなった。……そんな二人の気持ちが、こちらにまで伝わって来たからである。




 それに、その途中でいきなり言葉を止めたこの二人は、突然何を思ったのか二人で声を揃えると、私に向かって『──だから、ロム、ありがとう』と急に言い出してきたのであった。



 それも、私の顔を見つめながら、もう久しく見ていない程の満面の笑みを浮かべて、揃って一緒に感謝を述べて来たのである。……なっ、なんだこの二人。いったい、いつの間にそんな仕掛けの準備していたのだ。



 ……ほんとうに、なんともズルい二人組であった。

 だがまあ、そんな事をされてしまったら、木だろうが何だろうが彼らの要望は叶えてあげたくなってしまうのが私である。



 だから、元々そのつもりではあったとはいえ、私はこの地をちゃんと木々が溢れる綺麗な森にする事と、彼らの家があった場所の『土ハウス』はもっとちゃんと大きく建て直す事を、内心で密かに誓ったのであった。……どうか任せて欲しい。



 ……だがその時、そんな二人の笑顔を見て、私はまだ一つ大事な事を伝えて無かった事を思い出すと、二人へと向かって『ありがとう』の代わりに、こう返事をする事にしたのであった。




 『──二人共、おかえり』と。




 ……そしたらまあ、私のその一言は予想していたよりも二人にはカウンターとして効いたらしく、『うっ』と突然呻き声の様な音を出した二人は、一瞬でこれまでに見た事が無い程に表情を泣き顔へと歪めると、サッと別々の方向へと顔を逸らしてしまったのであった。




「…………」


「…………」



 当然そんな二人の後ろ姿を見た私やエアは、自然と内心で『ニヤニヤ』とした笑みを浮かべている。……おやおや、どうしたのかな?大丈夫だろうか?あと因みに、バウや精霊達も密かに『ニヤッ』としているぞ。



 ただ、そうして顔を背けたまま『ずずっ』と鼻を啜ったり、涙を拭ったりする仕草をしている二人の姿を見るだけで、それが悲しさ以上に喜びが溢れてしまったからであると察した私は、胸の熱があたたかな幸いへと変わるのを感じたのであった。





 ……頑張って本当に良かったと想う。





またのお越しをお待ちしております。

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