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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第287話 尋章。




 【火魔法】、冒険者達からするとあまり役に立つ部分が少なくて敬遠されがちなこの魔法であるが、こと対人戦等においてはこれほど効果が高い魔法は他にないだろう。



 そして、あらゆる生業の中で、それを最も多く扱うのが兵士と言う職業に就く者達なのである。

 そんな彼らは恐らく、急に空から降りて来た私を何かと見間違えたのだろう。

 不思議と完全に息を揃えて、一斉に【火魔法】を私へと向けて放って来たのであった。



 練度の差こそあれ、一度放たれた炎は相手の身を焼き、多少防御魔法で防いだところで燃焼の効果が防御魔法を削り続ける。

 そして、辺りの空気をも燃やし続け、相手の呼吸をし難くさせたり、下手に相手がその炎の範囲の中で留まっていようものならば、周囲の環境が炎に包まれるなどして間接的に相手を死に至らしめる事まで出来るのだ。



 それほどまでに危険で、殺傷能力に秀でた魔法の力を、千以上もの兵士達からいきなり向けられた私ではあったが、そんな彼らの魔法を視ながら意外と冷静に周辺の観察に努めていた。



 ……まあ、正直言って、これくらいならば羽トカゲ共のブレスを今までに散々何度も何度も浴びせられて来た私なので慣れっこであるし、私の防御魔法を破ってくるほどの高威力の魔法も見受けられなかったので、気にせずにこのまま降り続ける事にする。



 ただ、何と見間違えたのか分からないけれど、『魔法はちゃんと使う前に相手を確認してから使わないといけませんよ』と言う、そんな子供でも気を付けるべき初歩の初歩を、優秀だと思っていた彼らが出来ていなかった事だけは、私的に大変残念な部分ではあった。



 だが、これがもし私を敵だと認識した上での攻撃なのであれば、中々の反応と連携であるし、一斉魔法攻撃の収束の良さなども中々評価できる。



 なので、優秀である者達がする事は果たしてどちらなのかと考えれば、この攻撃は全て故意のものであるとし、指揮官が突発的な判断によって『私を不審な何か』と認識して、攻撃するように指示を出してしまったとする方が自然だろうと思った。

 そうすれば、兵士達はその指示にただただ従っただけなので、この状況にも説明がつく……うむ、間違いあるまい。




「目標にダメージはありません。強力な防御魔法を展開していると思われますッ!」


「即時『マジックジャマ―』を発動せよッ!その後、再度集中攻撃を──」



 ──そこで、私の耳は自分の防御魔法に当たる魔法攻撃の爆音とは別に、とある方向からそんな言葉を拾った。


 なので、その方向を魔力の探知で視ると、恐らくは指揮官役だろうと思われる装飾過多な服装を着た人間の男性が、ちょうど何かしらの指示を周りの兵士達に行っている所が視え、そんな男性の傍には友二人が『どうせ無駄だからやめればいいのに……』とか『あーあー、あれほど言ったのだがなぁ……』と少し呆れた表情で彼の事を眺めているのが分かった。



 ……ふむ。指揮官の思惑は良くわからないが……なんだろう、勘違いの類ではなく元々攻撃するつもりで私へと攻撃してきたのだろうか。なんとなく実力を測られている様な感じも受ける。



 と言う事は、もしや、急に来た耳長族(エルフ)が何者なのかを知る為に、あの派手な服装をした指揮官の男性はこうして攻撃指示をしたと言う事か?……言うならば挨拶代わりなのだろうか?



 ……うーむ、一般的に見ればなんとも危険な行為だとは思うが、あの友二人の実力を知っているであれば、私の事もこれ位なら出来て当然だと判断するのもある意味では頷けると言うものではあった。


 それに、友二人の方は私の事をこれっぽっちも心配していないので、それから察するにこれに対する私の対応はこちらの自由にして良いと言うことなのだろう。

 ある意味ではこれも信頼の形であると思えば、この様にいきなりな歓迎の仕方だったとしても少しは嬉しいものである。





 ──さて、それではどうしたものだろうか。


 これは言わば、ちょっとした訓練の様なものであり、私の好きな様にして良い状況でもあるらしく、少し前まで講師をしていた私としては急に目の前の兵士達全てが生徒の様に感じられた。



 ……なので、折角だから少しだけ魔法の奥深さを彼らにも知って行って貰う事にしよう。

 本当は、ただ魔力をスーハ―すれば戦闘も終わりに出来るのだが、今回はそれとは別の方法を取る事した。



「『バロウ型マジックジャマー』発動します!」



 ──すると、どこからか聞こえたその声と共に、それまで連続していた【火魔法】の魔法攻撃が一瞬で途切れると、彼らが何か建てていたと思われるその建物から少しだけ不思議な空気が流れ始めた。


 そう言えば、吹雪の大陸にてあその魔法学園で発明されたと言う『マジックジャマー』や『マジックキャンセラー』と呼ばれる例の魔法道具があるらしいのだが、それは各地に伝わった事によって改良型や発展型が色々と生みだされており、場所によってかなりの性能差があるらしい。



 ……因みに、性能的に一番良いのはは未だにあそこの元祖の品物だと学長は説明をしてくれた時に言っていたのだが、私は実物を見た事がなかったのであの様な建物が必要になる程に大きな魔法道具だと今の今まで知らなかったのである。



 当然個体差はあるのだろうが、意外と大きな品物だったらしい。……まあ、あまり私には効かないので問題はないのだが。



 彼らが言うその『バロウ型マジックジャマー』によって、最初こそ周辺の魔法の効果も減衰させたが、どうやらある程度段階を踏む事によってその効果を収束し照射できるタイプらしく、最終的には宙に浮かび続ける私だけにその照射は定まった。



「目標への『マジックジャマー』集中照射と固定を確認っ!」


「よしっ!総員っ!再度魔法攻撃を開始せよっ!」




 そして、その魔法道具の効果が私へと限定された事により、私の防御魔法の効果だけは落ち、周りの兵士達の魔法だけは通る様になった……のだと思われる。


 そして、指揮官の男性の声が周囲へと響くと、再度攻撃命令が出た事によって兵士達は皆一斉に準備していた【火魔法】を私へと再度放ち始めた。




 ──なので、ちょうどよいと思った私はそこで彼らに対する指導の意味も込め、彼らから放たれた【火魔法】の管理が途切れた時点を見計らい、私が再度その管理を結び直して引き継ぎ、飛んで来た炎達を全て操ると、まるで大きな火の玉状態になる様に一つにまとめあげた。




「──ば、ばかなっ!?」


「うそだろっ!管理がっ!」


「『マジックジャマー』はどうしたっ!効いているのではないのかっ!」


「ちゃ、ちゃんと発動は出来ていますッ!出来ていますが……」



 すると、指揮官や周辺の兵士達、それに友二人も、人それぞれ様々な理由で驚愕に顔を染めていた。

 ……まあ、大したことはしていないのだが、これも『差異』へと至った者の地味な魔法技術の一つだと思って欲しい。



 そもそも魔法とは、一度発動するとある程度までは無意識状態においても発動者の管理下にあり、微妙に方向修正や威力調整が出来たりする。


 それはつまり、その魔法へと干渉できる間は発動者とその魔法が繋がっていると言う証明であり、それが途切れるまでは操る事が可能であるからだ。


 そして、魔法使いが自分の発動した魔法である程度傷つかないで済むのも、この管理の影響が大きいようだ。



 ……だがしかし、実はこれらの話、殆どの魔法使い達があまり認識できていない部分だったりするのである。



 何故ならば、発動した魔法がどこからどこまで『自分の物』なのかと言う、その変化はあまりにも微妙かつ、戦闘時などにおいて相手から飛んで来た攻撃魔法の性質を一々完全に読みきりその管理を奪う事など普通は面倒過ぎてしようとはあまり考えない。


 それに、飛んでくる魔法の管理がどこで切り替わるかなどに気を配るくらいならば、己の防御魔法に注視し力を割いて万全を期す事の方が余程に重要であるからだ。




 ……まあ、もっと分かり易く言うのであれば、正直言ってこれは無駄な技術と労力ではあった。



 私としてもそれなりに余裕が無ければこんな事はまずしないだろう。

 まあ、今回に限っては指導心がうずうずと疼いてしまったのでこのような方法を取ったに過ぎない。

 だが是非とも、これを見て驚いた彼らには学んでおいて欲しい部分ではある。

 もし奪われた時には、こんな大きな火の玉が君達に逆に飛んでくるぞ、と言う良い警告にはなったと思う。



 ただ、先ほど『魔法の管理が途切れた所で繋ぎ直した』と私は言ったのだが、流石に数が多かった為に少しだけ手抜きもしている。


 切り替わるタイミングにバラつきがあり過ぎた事と、当たるまで切り替わらない優秀な魔法等もあった為、途中からは完全に魔法の管理を私の魔力で強引に奪ってしまった魔法も多かったのだ。



 ……まあ、本来ここで伝えかったのは、『魔法とは、管理が切り替わるタイミングに上手く結び直す事で、魔力の消費も抑えて楽に相手の管理を手にする事が出来ると言う事』と、『ちゃんと自分の管理する魔法は相手に当たるまで確りと気を配っておかないとこういう事になる』と言うその二つであった。






 一応まだ魔法戦の途中らしいので、詳しく説明したりもしていないのだが、この後態々説明し直さなくても兵士達の中に『管理を奪われたっ』と叫んでいた者も居た事だし恐らくは大丈夫だろうと思う。


 魔法使いの業界でも中々にニッチな分野だが、ちゃんと気付ける者が居た事は本当に良かった。

 私はその声が聞こえた時には思わず心に笑みが浮かんだほどである。

 うむ、やはりこの国の者達は優秀らしい。友二人もこの結果にはきっとにっこりとする筈だ。



 ……まあ、中には全く気付かないあの派手な指揮官やその周囲の者達も居たが、彼らはどちらかと言うと私が彼らの【火魔法】の管理を奪った事よりも、虎の子だった『マジックジャマー』の効果が全く無かった事の方により大きなショックを受けた様子であった。……すまない。それ、私には効かないのである。




「──将軍、そろそろよろしいでしょう。もう充分に奴の力はお分かりになったはずです。これからは私達に任せて頂きたい」



「──ロムッ!ちょっと降りて来なさいよっ!この前、知らない女性と一緒に逃げたでしょっ!どういう事かちゃんと説明しなさいッ!!」



 私が宙に浮かびながら、まだ魔法戦を続けるのかと思って、頭上に大きな火の玉をゆらゆらとさせながら兵士達の様子を視ていると、いきなり友がそう切り出し始め、派手な服装の指揮官の男性やその周囲の者達と何やらを話し合い始めだした。



 ……そして私の方は、何故か火の玉よりも真っ赤になって怒っている友(淑女)と、キツメの質疑応答をする破目になったのであった。





またのお越しをお待ちしております。

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