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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第286話 戸惑。




「ロムっ!みてっ!きたきたっ!」


「ばうっ!」



 お客さん達を出迎える準備を整えた後、再び『空飛ぶ大地』の外縁部に座りつつ、私達はこちらへと向かって来る長い長い人の列を眺めていた。

 それを見て、エアとバウは楽しそうな声をあげて笑っている。


 正確な数は探知していないのでわからないが、一見しただけで千人を超える集団がこちらへと向かって来ているのが私にも一目で分かった。……かなりの団体客。これは宿泊施設をちゃんと用意しておいて大正解であったと思う。



 ただ、こちらへとやってくる者達の大部分は兵士達みたいで、どこかその隊列には物々しい雰囲気が漂っていた。

 中々に切羽詰まった顔と言うのか、皆怖い顔をしているので、まるで本当にこれから戦争に赴く者達のように見える。誰もがそんな覚悟を決めた顔をしていた。



 流石に私もその雰囲気の重々しさが少しだけ気になり、再び友二人の周辺を探知してみたのだが、やはり彼らが向かって来ているのはこの『空飛ぶ大地』で間違いはないらしい。……まさか、ここに戦争を仕掛けてくるわけでもないだろうし、大丈夫だとは思うのだが、あれだけ切実な表情をした者達が揃ってやってくると、出迎えるこちらの立場としても何か不思議な緊張感があった。出来ればもっと気を休めて来て欲しいものである。



 まあ、こんな事になっている理由として考えられるのは、恐らくはまだ詳しい作戦内容が指揮官達だけにしか伝わっておらず、あの千人以上いる末端の兵士達は何をしに行くのか詳しく知らぬままに行動している為だろうと私は察した。



 『何をするのかもわからず兵士達は動くのか』と疑問に思うかもしれないが、時として迅速に行動しなければいけない際にはこういう事がよくあるのである。


 それに、あれだけの人数で集団行動をする場合、急に複雑な作戦指示をすると皆が混乱するので、大体は事前に決めている簡略化された指示で皆動くものなのだ。


 実際に今回の場合では、『集まれ』『目的地はあそこだ』『進め』位の指示しか出てないのだろうと彼らの仕草から私は察した。


 私が探知で目的地を察したのも、周辺の兵士達が『あの空飛ぶ大地に行くのか』『あんな空高い場所まで何しに行くんだ?』『目的地は空飛ぶ大地。目的地は空飛ぶ大地』などと、時々ぽつぽつと兵士達が零していたからである。


 たったそれだけの指示でも、こうしてちゃんと集団行動が出来る様に兵士達は訓練するらしいし、その先の指示はその時にまた適宜行われるらしいので、今はそれだけでも十分に問題ないのだとか。



 これは冒険者とはまた違った技能が必要であり、ああいう行動を取れる事が兵士達の強みでもある。

 それに、友の国の兵士達は皆真面目な様子で、全員が鎧を確りと着込んで完全武装をしたままでもああして乱れも無く歩いている事から、かなり優秀な者達である事も分かった。……私が他の国で同じような行軍を見た際には、酷い所はバラバラになったまま移動するので、その違いを見ると兵の練度なども多少判断できるのである。



 真昼間からそれだけ重そうな装備を着こんで歩いていては暑くて大変だろうと思い、私は少しだけ彼らの周囲の風も涼しくしておいてあげた。これで行軍も少しは楽になると良いのだが……。



「あっ、ロム優しいっ!」



 すると、私の隣でエアは私が彼らにした事に気づいたらしく、そう言ってニコッと笑顔を向けて来る。

 ……は、はて、何のことだか私にはあまり分からないな。彼らの歩みが遅くて見ていてもどかしかったので、ちょっとだけその背に風を当てて足を無理矢理速めただけなのである。これには優しさとかは一切ないのだ。



「ふーーん、そうなんだー」



 ……うむ。そうなのだ。



「ふーーーーーん、そうなんだーー」



 ……そ、そうなのだ。



 ──そうして、数時間もしないで彼らが『空飛ぶ大地』の下に集まって来るまで、私たちは緩い会話をして楽しんだり、頑張って歩いている眼下の兵士達に魔法を使ったりして待ち続けるのであった。

 エアも何度か遠目に疲れた人を見つけた際には、すぐさま女神の様な慈愛の精神をもって浄化や回復の魔法を嬉しそうに掛けていたのだが、横で見ていた私にはそれがとても微笑ましかった。……因みに、バウは私の膝の上でスヤスヤと眠っている。




 今、この地には『里』はないけれど、もしここに『里』が残っていれば、こうして仲間達の帰還を歓迎してあげるのは『里』側の楽しみの一つだったりする。……と、そんな事をふと思い出した。


 今ではもう閉鎖的な『里』も数多くなったが、元々『原初』は各『里』の交流地でもあったので、こういう時には歓迎会を開く事の方が多かったように思う。……だからか、なんとなく私は懐かしい気分になった。



 それと各地の精霊達もどうやら今回の事を一つのイベントとして捉えているのか、各自で情報共有をし始めたようで、先ほどから【(ホーム)】の魔法を通して精霊達も沢山『空飛ぶ大地』へと遊びに来ていたりする。


 なので、他の人達にはあまり見えていないかもしれないが、今はもうここは何気にかなり騒がしくなっていた。……『土ハウス』も沢山作ったし、私からすると本当に昔の『里』の様にも見える。



 友二人も精霊達の姿が見えれば、感動する事間違いなしなのだが……。

 一緒に目に出来ない事が残念であった。

 だがそうでなかったとしても、皆で頑張って準備したこの光景を見れば、きっと友二人は喜んでくれるだろうと私は思う。それが今はとても楽しみなのだ。




 ──そうして、遂にと言うか漸く、友二人は仲間達を大勢引き連れて、『空飛ぶ大地』の真下にまでやって来たのであった。


 ただ、そうして集まった彼らは『空飛ぶ大地』の下に集結すると、急に何かの準備をし始めている。

 ……おや、何をし始めているのだろうか。




「…………」


「なかなか来ないねー」


「ばうーっ」



 そうして今、私達は『空飛ぶ大地』の外縁から皆で下を覗き込んでいるのだが、下に集結した筈の友やその仲間達が中々上まで飛んで来ないので、そんな事を呟きつつ待っていた。……因みに、こちらに集結した精霊達も全員一緒になって覗き込んでいるので、皆一緒に横並びになってとても面白い光景となっている。



 そもそも、彼らはどうやってここまで来る予定だったのだろうか。

 私は彼らの半分以上が魔法使いである事を彼らの魔力量から判断していたので、きっと皆で協力して飛んでくるものだとばかり思っていたのだが、もしかして違うのだろうか。


 だが、違うのだとしたらあれだけ集まっている事が甚だ謎ではある。

 それに、中々に手間取っているらしい様子にも見えた。



 ……あれ?もしかして、彼らを私がここまで運ばないと行けなかったりするのだろうか?

 ……いや、まさかな。



 そもそも、友二人はどうしたのだ。

 あの二人ならば問題なく飛んでこれるだろうに。


 だが、そう思った私が視たのは友二人が率先して彼ら兵士達に指示を出しながら、何かの建物を建て始めている姿である。


 眼下に集結して何をやっていたのかと思えば……魔力の探知で視てみた所、どうやら彼らはあの場所に拠点となる建物を建てたいらしい。



 だが、どうしてそうなった。

 飛んでくればこっちに宿泊施設は沢山用意してあると言うのに……。



 もしかしたら、『彼らは自分達で作った拠点じゃないと眠れない体質』、とか言う訳でもないだろうし、態々ここまで来て拠点づくりを始めた意味はなんかあるのだろうか。……うーむ。謎である。



 それとも、もしや『あの建物を造る事』そのものに何らかの意味が込められているのだろうか。

 私達魔法使いが魔力で気持ちを伝え合うように、昔の冒険者が『冒険者用語』で裏の意味を伝え合うように、あの建物を建てることで上空に居る私達に向かって何かを伝えようとしているのだとしたら……。


 ……うむ、わからん。

 だが、もしそのメッセージが……「ここだと邪魔ですので『空飛ぶ大地』を他の場所へと移動させてください。お願いします」等と言った注意喚起の隠語だったりした場合、私たちはどうしたらいいのだろうか。

 直接言ってくれればいつでも移動するのだが、そんな共通の隠語なんてない筈だし、そもそもそんな事の為に大きな労力を彼らに割かせてしまっているのだとしたら、見ている私達としても大変に心苦しい状況になってしまう。

 『友二人を喜ばせたい』どころの話ではなくなってしまうではないか。



 魔力で友二人に合図を送っても良いのだが、今二人はとても忙しそうにしている。

 ああまで忙しくしていると気付いて貰えない可能性もあるし、純粋に邪魔を出来る雰囲気でもない……。



 それに本来ならば、本当に出来る事ならば、私としてはここで彼らがやって来るのをのんびりと待ち構え、『ロムっ!?居たのかっ!』と驚く友二人に、『ああ、二人共、待っていたよ』と返したかったのだ……。



「……仕方ない、呼んでくるか」



 だが、こうなっては、もうそれ以外に選択肢はないだろう……。

 彼らに要らぬ労力を強いさせてしまうよりは、こちらから伺いを立てに行くのが一番丸く収まる気がする。



「うんっ!それが良いとわたしも思うっ!ロム、がんばってっ!待ってるねっ!!」


「ばうっ!ばうっ!」



 『旦那、いってら!』『いってらっしゃいっ!』『がんば』『お気をつけてー』



 エアやバウ、それから精霊達は『それが良い!』と言って笑って手を振っていた。

 ……そうだな。皆にはここで待っていて貰い、私がさっさと状況が酷くなる前に一人で下へと降りて呼びにいく事にしよう。

 友二人を驚かせたかったが……、思い通りに行かない事は残念だけれど、喜ばせられるならばそれだけで充分だろうと思い直し直ぐに向かう事にした。





「…………ん?」




 ──だが、そうしてゆっくりと魔法で下へ降りて行った私は、彼らに途中で何かと間違われたらしく、急に千を超える兵士達から激しい魔法攻撃を受ける破目になったのであった。







またのお越しをお待ちしております。

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