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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第284話 待機。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 昼夜問わず飛び続けていると、数日で目的の場所の近くまで到達した。

 とは言え、まだ友二人が居る王都からは豆粒位の大きさで見えるかどうかである。


 ……だが、そこで私は『空飛ぶ大地』を一旦止める事にした。

 街の直上までいけば迷惑になるだろうし、そこ迄行かずとも、ほら、どうやら向こう側も気づいてくれたらしい。



 人から人へと、この場所の事が段々と伝わっていっているのがここからでもよく視えた。

 そこで私は、エアとバウを連れて『空飛ぶ大地』の一番外側へと歩いていき、そこで腰を下ろして友二人を待ってみることにしたのである。



 ……するとどうやら、友二人も丁度人伝に『空飛ぶ大地』の事を聞いた所のようで、目を大きく見開いて驚いている様子がよく視えた。

 だが、二人共にそこでいきなり抜け出して飛んでやってくる様な事はして来ないらしい。……あんなにやんちゃだった二人がすっかりと成長したらしい。どうやら私の予想は外れてしまったようだ。



 それに、どうやら要職に就いている二人は色々と大変らしく、自由に抜け出してくると言う訳にもいかなかったようで、まあ『当然の事か』と私も思った。



 なので暫くは、ここでこうして三人で足をブラブラとさせながらのんびりと眼下を眺めている訳なのだが、バウはまだここから見下ろす光景に慣れていないらしく、『そーっ』と下を覗いては、直ぐにひゅっと顔を引っ込めて私の腕へとしがみ付いてきた。……おやおや、自分で飛ぶ時や私達につかまっている間は平気なのに、なんとも愛らしい姿である。



 そんなバウが右側にいて、左側にはエアが居るわけなのだが、エアの方は下を覗いても無邪気で楽しそうに笑っていた。

 エアはこの高い場所からの景色が中々にお気に入りらしく『きれいだね~』と、何度も呟いてしまうほどには好んでいるらしい。



 私はそんな二人を微笑ましく見つめながら、一方では魔力の探知を用いて、再度友二人の様子を少しだけ窺ってみる事にした。……ふむ、どうやら今度は何か大きな会議が始まる所らしい。




 そこでは、この国の主要な面々が、面倒なのか苛立ち交じりに大きな部屋へと集まっている様子がよく視えた。

 因みにそこの部屋はかなりのお金がかかっているのか、とても綺麗に飾られた大きな部屋ではあったのだが、面倒ならば態々そんな場所で会議をしなければ良いのにと、外から視ていた私は思う。


 まあ、彼らの拘りやそこにある深い理由(?)などは私には到底理解不能であった。





 ──だが、もしかすると、また日が悪かった可能性はあるのかもしれない。

 彼らが何の会議をしているのかは分からないけれど、皆とても忙しそうなのだ。


 そして、それは要職に就いている友二人にも当て嵌まる事の様で、会議に出席しているその二人が何かを話す度に、会議は色々と熱をあげている様にも視えた。



 国の大事な話し合いの内容を知ってはいけないだろうと思い、会話の内容までは探らなかったのだが、この様子を見る限りでは中々にまとまりそうもないと感じる。

 どうやらとても時間がかかる会議のようであった。



 ……まあ、私からすると、こういう時にどれだけ手早く、かつ有意義にまとまるかでその国の本当の力や能力が分かったりするので、様子を視ているだけでも少しは楽しめている。


 私も何だかんだと長く生きているので、色々な土地を旅し、そう言う事にも少しは判断がつく様になっていた。……面倒なので自分では深く関わるつもりはないけれど、友二人が頑張っている国ならば、是非とも良い国であって欲しいとは思う。



 すると、エアは私へと、時間つぶしを兼ねてか『ロムはどんな国だと良い国だと思う?』と尋ねてきた。

 なので、私の勝手な判断ではあるが『それはきっと、まとまりが早い国であろう』と私は答える。



「……ふーん、そうなんだー」


「……ばうー」



 だが、答えてはみたけれど、エア達にとっては今回の話題はあまり興味が無さそうであった。

 ……まあ正直、私もそこまで詳しい訳でもないし、興味もあまりない。

 なので、暇潰しがてらの簡単な話を少しする事にした。



 ただ、これは地味に経験に基づく教訓の話でもあるので、エア達にとっても無駄にはならないとは思う。




 ──そもそも基本的に、人が集団となった際には数多くの意見が出る。

 それだけ多くの意見が出ると言う事は、それだけ多くの選択肢を取れるようにもなると言う事だ。


 だが、実際にはそれだけ多くの意見があっても、国にできる事というのは凄く限定されてしまっており、選べる選択肢はとても少ないのが現状である。



「……なんで~?」


「…………」



 私が話を始めると、横にいた二人はピタッと腕に寄添って来た。

 そこでよく見てみると、エアは私に寄りかかりながら既に半分眠りかけ、バウについては私に寄りかかりながら既に寝てしまっている。

 ……そうだな、私もこのまま寝たい気分ではあったので、子守唄代わりにエアが寝る間では続ける事にしようと思った。



 先ず国とはただの人の集まりではなく、『利』を求める人の集まりであるから、集まった人達の求める様々な利を考えた時、『利の方向性の違い』のせいで、まとまるのがとても難しくなるのだ。



 つまりは、誰かにとって得にはなるが、それによって誰かが損をすると言う状況だと、途端に国と言う集団はまとまり難くなるものなのである。



 それも、集団全員にとっての得になる機会と言うのはとても少ないので、結局は仕方のない事なのだろうが『力の強い意見』に従う事になるのだ。



 そして、その『力の強い意見』が『個』によるものか『数』によるものかによって、また細かい違いは出るだろうけれど、そこは今回は省いて、私が今まで見て来た経験からすると、大体その意見は本質的にそこまで変わらないものである事が多いと言う話をした。



 要は、人の求める事だから、考えはどこかしら似て来るものだと言う事。

 そしてそれらは、『金なのか、地位なのか、名誉なのか、力なのか、時間なのか、命なのか……』と言った違いでしかなく、危急の事態にはそれらの中からどれを重視するかを選ぶのである。



 なので、結局はそこを選ぶのに時間を掛けると言う事は、何を重視するのかが決まっていない準備不足状態である言う事であり、『力ある意見』をまとめるだけの能力も無いのだと私には見えてしまうのだ。


 一方、『力ある意見』を早くにまとまめられた方はちゃんと準備をして来た者であり、冒険者としても魔法使いとしても、準備を大事にする私としてはそちらを評価したくなると言う、ただそれだけの話であった。



 当然、時と場合によって状況は如何様にも変化する事は私も分かってはいる為、『これが絶対だ』と言っているわけではない。

 よって、『何においても必ず早く選択しなければいけない』とは言わないのである。


 個人的に『まとまるのが早い』のは準備上手さん達がちゃんと頑張っているのだと感じ、そんな国ならば良い国に感じてしまうと言う、そんな身勝手な話なのであった。




 ──まあ、時間をかければかけるだけ機を逃す事も多いのは事実であるし、国を導く立場である彼らの場合は特に、拙速が重要となって来る場面も多い事だろう。



 例を出すのならば、彼らの場合、戦争の進退等を決定する立場にあり、彼らの『進め』『待て』『戻れ』と言うそんな簡単な指示一つ、それが伝わるまでの速度一つで、多くの者達の生死が変わって来てしまうのだ。



 だから、『決断の早さ』とは、『時に何よりも重要』になる、と言う事だけを覚えておいて欲しい。

 ……因みにこれは、日常でも、いや、何処の場所でも、何気に活かせる教訓である。



 『考え、悩み、立ち止まるくらいならば、先ず動いてみよ』と。

 かつて、友も私にそう言っていた筈なのだが、今は少しだけ身動きが取り難そうであった。



 だが、そんな二人は今も会議の中心で頑張っている。

 その頑張っている姿がここからでもよく見えた。


 

 ……あの会議の面々が、いったい何をそんなに喚いて話し合っているのかまでは分からないけれど、そこまで熱く怒鳴っていても問題は変わらないだろうと私は思う。


 なので、少し冷静になった方が良いだろうと客観的に判断し、少し冷や水を浴びせるつもりで、その場にいる全員に少し強めの【浄化魔法】をかけておいてあげた。……どうか冷静になって、友二人の力になってあげてくれ。



 ──すると、流石に聖人もお気に入りの【浄化魔法】は効果があったらしく、その場に居る全員は魔法を掛けられた事を察してか、急に静かになった。


 そして、よく視れば直ぐにそれが浄化であることを察した友二人から説明を受けているようで、友二人以外の者達は急に揃って『ウンウン』と頷き続けるだけになっている。……どうやら、話し合いもまとまりそうであった。やはりあの二人が居るだけあって、きっとここも良い国なのだろう。



 何か大きな話し合いが終わったようだし、近日中にあの二人もやってくるだろうと私は期待する。

 両腕に寄りかかりながら『くかー』と小さな鼾をかきつつ、眠りに落ちているエア達の気持ち良さそう顔を見ながら、私は友二人がやって来るのをわくわくと心待ちにするのであった。




またのお越しをお待ちしております。

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