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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第282話 悪巧。




 急に羽トカゲ達百体程と相まみえることになった私だったが、敵の未熟に救われ比較的短時間で事は片付いた。

 本来ならば、かなり手こずっておかしくない程立派に成長していた『風竜』達だったのだが、不思議な事に『何か』の干渉を受けていたようで、全く相手にならなかったのである。


 私としては楽を出来たと喜ぶべきなのか悩む所であるが、エア達が目を覚ます前に事を済ませられた事だけは幸いであった。




 だが、そうして行きと同じく帰りも【転移】を使って『土ハウス』へと戻って来た私だったのだが、その時、家の前に一つの存在の気配を急に感じて警戒を強めた。……ずっと探知していた筈なのに、ここまで来ないと感じ取る事が出来なかったのである。


 そのどことなく先ほどの良くないもの達と似た感覚を得るその相手は、私が帰って来た事を知ると、『仕方がない』と言いたげな少し疲れた雰囲気を発し、私へと力なく小さく手を挙げて声を掛けて来た。



「……おかえり。随分と早かったな」



 まるで友の様な気軽さで話しかけて来るその人型の存在は、見た目の色は白く、一見してただの薄雲(・・)の様な、まるで人の影がそのまま立ち上がったかの様な、そんな姿をしていた。



「聖人が、こんな所に何の用かな?」



 恐らくは、その相手はかつての聖人の仮の姿なのだろうと、直ぐに察した私はそんな言葉を返す。

 すると、相手は『気付いて貰えて良かった』と一言零しながら、一安心したらしくホッと息をついた。



「……また、説明役だとよ。俺なんかに尻拭いさせるんだから、酷い話だよまったく」



 そう言うと、聖人トゥオーこと『白い雲男』は溜息を吐きながら、ドテッと砂の地面に腰を下ろし、私の事をジッと見上げて来る。

 口も目も何一つ無いのっぺりとした白い顔で表情一つ見えなかったが、生前、それも晩年の頃の彼の面影がなんとなく私には見えた。

 私は家の前で彼と対面になって同じように腰を落とすと、とりあえずはじっくりと話を聞く事にする。……どうしたのだ。語ってみると良い。



「是非とも聞いてくれっ!」



 すると、その瞬間から彼は湧き出る泉の如く話を始めた。

 ……なんとも損な役回りばかりをさせられていて、本当は憤りたいのだけど、周りは上役ばかりで自分は下っ端と言う事もあり、板挟みになって上手くガス抜き出来てない様な雰囲気なので、ほとほと疲れているのだと言う。


 私はそんな彼の言葉にひたすら耳を傾けた。……ほらほら、もっと貯め込まず全て吐き出すと良い。

 彼は『俺は、最初から無理だって言ったんだ』と、段々と声を荒げながら、今回の経緯についてもかいつまんで私へと彼の領域に関する話をし始めてくれた。




 どうやら彼の居る領域でも、かなり面倒な柵や考え方の違いがあり、それによって意見の対立や、争いも絶えないのだとか、どこに行っても世界は変わらないと嘆き、それでも汚いものが少しずつ減ってくれているおかげで自分は幾らか前よりも上の地位に行けるようになったのだと語る。



 何気に彼の地位が上がったのは私が色々とした何かが関係しているらしく、私には何のことだかさっぱりだったけれど、彼は私に感謝してか『ありがとう』と頭を下げて礼を言っていた。……別に気にしなくてもいいのだ。



「……今回の件も強硬派の考えでな。お前の行動を見てその行為が行き過ぎていると、見逃せないと判断した所で、話し合いをすっ飛ばしてお前なんぞは簡単に排除できると言ったそいつらが実力行使を選んだのだ。己の手下を使えば簡単に葬れると豪語し、碌に役にも立たない愚を数だけは揃えてお前にぶつけたのだろう。本当に考え無にも程がある」



 彼の領域において、彼はどちらかと言えば穏健派に属するらしく、私へと話し合いでその見逃せない部分の『妥協点』を探ってきて欲しいと頼まれてここまで来たのだと言う。

 それと、彼自身は私の事を随分と過大に評価しているらしく、『あのエルフを甘く見るな!』と諫言し続けているのだと。


 ただ、彼のそんな話の中で、私が気になったのは『妥協点』を探れと言われた部分である。

 なので、気になった私は、いったい何についての『妥協点』なのかと、彼に尋ねてみる事にした。



「ああ……それなんだが、この『空飛ぶ大地』を、この辺で止めて、これより下へは下降させないで欲しいんだ」



 雲海から出てまだ幾ばくも経ってない為、見上げれば直ぐそこに雲が見える状態での話であった。



「お前が本当はもっと下に──かつての『里』があった頃の高さまで──下降させたいのは分かる。だが、それはどうやら上役共にとってはあまり良くないらしくてな。お前としては何を勝手な事をと思うだろうが──」


「──構わぬ」


「──そこの所の妥協点をどうか、ひと、つ……え?いいの?もっと下に運ぶつもりだったんじゃないのか?」


「良い。その予定ではあったが、構わぬよ」



 ……彼らの領域において、この土地がどのような扱いになっていて、どうしてこれ以上下に下げたくないのか、そこにどんな思惑があるのか、気にならないかと言ったら嘘になる。


 だが、私にとって重要な部分はそんなところには最早ない。

 この地を『再誕』させる。

 そして、これの復活を見せる事で喜ばせたい者達がいる。


 今はそれだけで充分なのだ。


 それに、私がその意見に了承しなかったら、彼らの仲間がまた厄介な事を仕組んでこないとも限らない。この地をまた危険に晒すくらいならば、それくらいの頼みは受けても良いと直ぐに思った。



 もっと言えば、私にだって簡単な損得勘定くらいはできる。私と親しい彼の功績を増やす事で、それが彼の為になり、その彼が私に何らかの便宜を図ってくれるとなれば、それで十分だと思ったのだ。


 それにこれを断れば君は困るのだろう?



「……うん。困るな」


「なら、尚更それでいい」



 ……話はそれで終わりである。

 ……ああ、だがしかし、その代わりと言っては何だけれど、私からも一つお願いしたい事があった。



「うん?なんだ?」


「これ以上、『大樹の森』とその関係者達に、君の領域の奴等が悪意ある干渉をして来ない様に、君が代表になって『約束』してくれないか?」


「……『やくそく』か……ふぅー」



 それを聞いた瞬間から、彼の雰囲気には緊張が走り、目も口もない彼は息をのむと、その後大きく深くため息を吐いたのが分かった。



 魔法使い言う『約束』が何を意味するか、知らない彼ではない。

 それも彼らは思っていた以上に私の事についてもある程度以上の情報を持っている様で、これの影響力の強さも十分に悟っている様であった。



 ……それにもっと言うのならば、今の私はいつになく絶好調であり、今結ばれた『約束』はきっと、例え如何なる存在であったとしても容易く振りほどける様な優しい代物ではない事を、彼は瞬時に察したのである。



「……飴と鞭だな」


「そうだろうか?悪意が無ければ特に何も問題はない」


「はっ、そうだな。悪意が無きゃ、な……因みに、その『大樹の森』ってのには、ここの『空飛ぶ大地』の事も当然──」


「──含まれる」


「だよなぁ~……どうしようかねぇ。……まあ、良いか。俺への元々の指令は『妥協案』を探りながら、これ以上この地を降下させない様にせよと言う事にあった。その為の妥協点として、その『約束』を結んだと考えればそこまで大した問題ではないと判断されるかもしれない……それに奴等はロムの事を……」



 彼は、真っ白い顔の顎に手を当てて何やら思案しつつブツブツと呟くと、暫くしてウンウンと頷いて見せた。



「よし。わかった。それで行こう。代表として『約束』を受ける。これはきっと俺にも悪くない話だ」


「そうだな。こうして、『第五の大樹の森』を守る為の関係者となって貰った君には、もっと頑張って欲しいと、私も密かに想っていたのだ」


「おおっ!?なるほど。そのつもりだったのか。……と言う事は、なるほど。分かった上手くやってみる」


「うむ。精々綺麗にしてくれ」


「ああ、任せてくれ!大得意だ!ふふふ、楽しくなってきたぞ。……俺も、良い友を持ったものだな。ほれ、お礼にまたお前の好きな【浄化】をかけておいてやろう」


「……別に私は好きでもないし、大して汚れてもいないのだが、まあ感謝はしておこう」


「フハハハ、全くお前も素直じゃないな。そうそう、確か昔のお前もそれはもう──」





 ──そう言って私達は、雲間から差し込む光に、湿った大地がキラキラと光る様を眺めながら、エア達が目を覚ますまでのほんの一時、旧交を温めて過ごしたのであった。







またのお越しをお待ちしております。

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